蒼天の霹靂;漆

 

 

政宗が元就の家に世話になることになってから数日。



「hey、docter 今日の夜は何食べたい?」 現代日本式の掃除と炊事と洗濯のやり方を身に付けた政宗は、 特に毎日三回は作る事になる食事に関して 朝、仕事に向かう前の元就にリクエストを訊ける程になっていた。 「何でもよい。 貴様の味付けは我の好みよ。 作ってみたい物でよい」 「OK! あの本、面白そうな料理が多いんだよな。」 「…美味しそう、ではなく面白そうとは…」 基準が突飛な、と感想を抱く元就の横で 「俺はもちっと濃くても好きだけどな」 「料理もするのは知ってましたけど あっと言う間に食材や調理器具やレシピをマスターするなんて、 さっすが政宗公」 と至ってマイペースなコメントが付け足される。 食卓には元親と佐助も揃っていた。 最早恒例になりつつある。 「…貴様ら、朝から我の家に入り浸るのは止めよ」 「いーじゃねーか相伴させろよ」 「政宗公の手作り料理を戴く機会を逃す手はないっしょ」 因みに元親は仕事の合間を縫って昼食も喰べに来ている。 職業「政宗研究家」の佐助は時間に融通が利く分 四六時中政宗にべったりだ。
佐助に関しては、

忙しい元就に代わり機械や日用品の使い方を教える役目を担っていたので 元就も多少邪険にもしづらく思っている。 政宗も、判らないことに関してはまず佐助に尋ねる習慣が付いていた。 さすがに夜、就寝時間には二人共追い出されるが。 政宗は空いている部屋を一つ与えられ来客用の寝具で寝ている。 服は三人が適当に貸してくれていた。 いつまで滞在することになるのか判らない以上 専用の服を貰っても困るところだったので丁度良い。 そんな政宗の心の動きを読んだ上での元就の配慮だろう。 元就の服はややキツく、元親の物は大きい。 一番サイズがあったのは佐助のものだったが、 一時的に戻ってきているだけの佐助が持ち合わせている服は あまり多くはなかった。 人の物を借りて着るなど自分用の着物を着慣れた政宗には新鮮な事で、 洋服自体が物珍しいこともありさほど気にしていない。 さすがに下着は専用の物を買い与えられたが。 ずっと引き込もっていてもつまらないだろうと 人目に触れても問題ないよう 眼帯は一般的な医療用の物を付けさせられた。 汚れた着物と傷だらけの防具は「必ず返すから」と元親が持って行った。 残った刀は元就の監視下に置かれている。 銃刀法に反するからと理由は 今までで一番、この世界の平和を政宗に実感させた。 洗濯機や掃除機、炊飯器に触れては 「西海の鬼もでっけぇ玩具ばっか作ってねーで こーゆー便利なもん開発すりゃいいになぁ」 と呟いていたが、 あまり本気ではない。
自分が暮らす場所でのこの便利さは未だ早いと、理解していた。
発展するには順序というものがある。








政宗は飲み込みが早く、
不慣れな一日目は時間いっぱい使ってやっと全てを終えられたが 操作にあっと言う間に慣れて 次の日には任された家事に掛ける時間は格段に短くなった。 空いた時間には佐助から歴史を聴いたり 逆に政宗の身の回りを語ったり、 後は、元就に許可を得て中庭で刀を振るう。 太腿の傷は完全には癒えていないので素振りだけではあるが 身体を鈍らせるわけには行かない。 六本同時には、まだ無理だった。 佐助や元就、時には元親がその様子を眺め、 本物なのだな、と感慨を深めていた事を 政宗は知らない。

                                                       【捌】


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「犬千代様、夜御飯は何が何が宜しゅうございますか?」
「まかせる! まつの飯は何でも旨い!」(うろ覚え)
…デスヨー?<冒頭のやり取り

一応このくらいは解説しておかないと、な所だけ。
佐助に連れられて初めてのお買い物ーのエピソードとか、風呂とか、
色色書けなくもないがそろそろまとめねば。
     

                                               【20101001;初出】