戦いすんで、

 

 日が暮れて。 

 

豊臣秀吉を倒した伊達政宗は、
力尽きそのまま前のめりに倒れたが、しばらくするとむくりと起き上がった。

「筆頭!」
「無理に起きちゃ駄目ですって!」
「まだ寝てて下さい!」

次次に労りの言葉を掛けてくる部下達に力のない笑顔を向け
「thanx…」
と呟く。
疲弊した身体に、暖かな想いが染み込んでいく。

「だが、行かねーとならねぇんだ」
「何処へです?」
「俺達もお供します!」
「教えて下さい筆頭!」
「sorry、
行き先は―」


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片倉小十郎は、竹中半兵衛を打ち倒すと
息をつく間もなく馬に飛び乗り、
政宗と秀吉が刀と拳を交えているはずの小田原へと急ぎ向かった。

「政宗様っ!
……?」
「片倉様!」

だが、着いた先で小十郎を迎えた伊達軍の兵士はただ一人。
周囲を見回すが政宗の姿は見えない。
ついでに、城の方も跡形もない。

「お前だけか? 政宗様はどうされた。」
「…それが…」
「…まさか」

豊臣など魔王と比べると格下。
政宗独りであっても負けるはずがないと
自分は竹中の討伐に向かったのだが、
伊達の兵士もいないとなれば最悪の事態になったというのか。
小十郎が己の腹をかっ捌く覚悟を決めた時。

「戦いの傷も癒さないまま大阪に向かわれて」
「…なに?」

何故大阪に、と疑問が浮かび、
直ぐにもう一人の隻眼―長曾我部元親の存在を思い出す。
小十郎が、大阪城で蜂起した部下の存在を教えた相手。
その西海の鬼が居る、大阪に?

「おめーら何で止めなかった!」
怒鳴る小十郎に、
「俺達に筆頭を止められるわけないじゃないですか!」
残っていた兵士―文七郎は、とんでもない! と首を振る。

「お独りで行かせるわけにはいかないので皆が付いていったんですけど、
片倉様はこちらに来られるんじゃないかと思って待ってたんです」
「…そうだな、残ってくれてて助かった。」

実際誰一人いなかったら小十郎は途方に暮れていただろう。

「俺達も大阪に向かうぞ」
「はいっ」

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一方、満身創痍のまま部下に支えられ大阪城に辿り着いた政宗は、
元親と顔を合わせていた。

「よぅ、竜の兄さん。
その様子じゃあ豊臣のヤローをぶっ倒せたみてーだな?」
「ああ。
アンタもこの城、落としたようだな」
「あたぼーよ。
主のいねぇ城なんざちょろいもんだぜ。
にしてもわざわざ御足労いただくたーな。
こっちから行こうと思ってたのに元気なこって。
あれかい?
早く新しい領地を見たかったってとこかい」
捲し立てられた言葉に、政宗は眉間に皺を寄せ首を傾げる。

「あ゛ぁ? 大阪はてめーが落としたんだろーが。
アンタの城だろ」
「はぁ?
何言ってやがる。
この城は主を倒したお前さんのモンに決まってるじゃねーか」

「「……」」

二人は無言で睨み合うと、じりっと間合いを取り、武器に手を掛け身構えた。

「ちょ、兄貴?!」
「筆頭! 無理しちゃ駄目ですって!」


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毛利元就の要塞・日輪を壊し、そのまま甲斐に戻ろうとしていた真田幸村は、
通りがかった大阪城の喧騒に思わず馬を止めた。

「どうっどうっ。
…一体何事であろうな?」
様子を探ろうときょろりと巡らせた幸村の視線は、
ある一点でピタリと止まる。

そこにいたのは、
「おう幸村。やっと来おったか」
幸村が甲斐で待機していてくれと頼んでいた、幸村の敬愛する上司、
武田信玄その人であった。

「おおおおお館様っ?!
どうしてこのような場所にっ?!
お、お一人でっ?!」
「なに。
伊達の小僧がやりおったと聴いてな。
待機する理由もなくなったのだから労ってやろうかと小田原に足を運んだら
どこぞに移動しようとしておって
追いかけたらここに着いたんじゃ」
「政宗殿が?!
っお怪我は!」
「だいじょーぶなんじゃなーい?
今も元気に西海の鬼と喧嘩してるよ」
「おう佐助。お主もおったか。
…長曾我部殿? 生きておられたのか!
しかし何故そのような」
「聴こえてくるから聴いてみなよ」

言われ、幸村は馬から降り、騒ぎの元に耳を澄ました。

「だーかーら、
軍師のやつもあんたんとこの兄さんが倒したんだろ?
その働きからすりゃあんたのもんになるのが筋ってモンだろーが!」
「何言ってやがる!
城は落とした奴が貰って当然だ。
それをしたのは俺達じゃねぇ、アンタらだ。yousee?」
「んな屁理屈は聞けねぇなあ!」
「うるせぇ有り難く貰っとけ!
奥州から遠いこんなとこ、飛び石状態で治めれるか!」
「その程度、構わねぇだろうが!
天下獲るんなら領地は多いに越したこたぁねーだろ!」
「ものには順序ってのがあるんだよ!」

「…何を言い争っておいでで…?」
「大阪城の所有権」
「譲り合ってるように聴こえるのだが」
「実際そーみたいよ?
いっやー仲良いねー」
「仲が…良い…?」
「何か気が合っちゃってるみたいよ?
ほら、部下の人達も和気藹々だし」
「っ政宗殿!」
弾かれたように幸村はだっと駆け出した。
「旦那~邪魔しちゃ駄目だよ~?」
「けしかけておいて良く言いよるわ」
信玄は、
自分は動かず幸村を操って二人の仲を邪魔する佐助の策略に
やれやれ、と苦笑した。

いい加減叫び疲れた元親は、
ぜいぜいと肩で息をしながらぽんと膝を叩いた。

「よぉしわかった。
つまりニイサンの言い分はこうだな?
本拠地から離れた此処は支配しづらい、だから他の誰かにやってもいい。
ならそれは城を落としたこの長曾我部元親こそが相応しい、と」
「…大体そんなとこだ」
「ならこういうのはどうだ」

ちょいちょいと手招きされ、政宗は素直に耳を寄せる。
良い歳の男二人がそんなやり取りをする様子は、
端から観ると奇妙であった。

「…OK、それで手を打とう」
「よっしゃ、じゃあ野郎共に」
「で、どうまとまりましたか政宗様」

第三者の割り込みとその正体に、政宗は一歩飛び退さった。
「げっ! 小十郎」
「…げ、とは、どのようなおつもりで」
「いや、何だ、
来てたんなら声掛けてくれりゃあ」
「取り込み中のようでしたから。
…で?」
「えーっと、竹中の奴は?」
「きっちり片を付けましたよ。
…長曾我部。今、何と?」
なんやかんやとはぐらかそうとする政宗に、埒が明かないと矛先を変える。

「あ? ああ、
取り敢えず一旦俺らが預かるが、
そちらさんが近くまで領地を広げた暁にはきちんと明け渡す、
って事にしたんだが
まずかったか?」
ぼりぼりと頭を掻きながら問う元親の言葉を受け、
「…政宗様…」
小十郎は溜め息のように名を呼んだ。
「あれほど安易に物事をお進めめさるなと申しておりました筈ですが。
それでは、」
その言葉にかぶせるように
「それではまるで手を結んだことになりますまいか!」
やたら暑苦しい声が加わった。

「おめーは…」
主との会話を邪魔され、小十郎は不機嫌そうに眼を細めた。

政宗は、いきなり自分の手をがっと握ってきた相手の顔をまじまじと見つめる。

「真田幸村?
南に行ってたんじゃねーのか」
「毛利軍の要塞を追って参りました。
放置してはならぬと、停めてまいった次第」
「アンタがそれを果たしたってのか…! great!」
「なんの!
政宗殿こそお一人で豊臣を打ち倒されたとの由、
まこと御立派でござる!」
「thanx、だが何で知って…
ah、忍の報告か」
「あの兄さん、
大分近くで観戦してましたもんねー。
一緒に筆頭が勝ったのを見届けたと思ったらいつのまにかいなくなってたのは
報告に行ったからなんすね」
「…佐馬助、詳しく話せ」
口を挟んで来た自軍の兵士である佐馬助の発言に小十郎は凄み、
幸村は自分の部下の忍を捜した。
「佐助?」
「えーっと、その兄さんが筆頭と豊臣の戦いを観てた、
ってだけの話なんすけど…?」

それが問題なのである。

小十郎も、幸村も、元親も。
それぞれ自分の戦いがあって政宗の決戦を見届けられなかった。
近くにいたら見届けるだけでは済まないだろうが、
それを少し残念に思っていたのである。

それを、佐助は。

「俺様偵察と報告が仕事なんだからあたりまえじゃん!」
「それでも納得いかん!」
幸村にぎゃんぎゃんと吠えたてられ佐助は辟易する。

確かに、あの戦いの竜の旦那は凄かった、
とは思ったが
仕事なのだ。

幸村が信玄に「戦況によってどうとでも動けるよう待機」を頼んだのだから
戦況を探る人間は必要だろう。

他を部下に任せ、
小田原を自分の管轄にしたのは、まあ、
…佐助の采配ではある。

しかし幸村に責められるのはまだなんとなく解るが
小十郎や元親にまで批難されるのは
なんだか納得の行かない佐助であった。

その様子を、
距離を取り、肩を並べてその様子を眺めている二人組がいたが、
四人は気づく気配もない。

「佐助め、まだまだ詰めが甘いようじゃな」
何が、とは訊かず、政宗は信玄を仰ぎ見た。
「ah、なあ、虎のおっさん」
「どうした小僧」
「…その小僧っての…
っとそうじゃねぇ。
甲斐に戻るなら途中まで一緒に行かねぇか?
あれに付き合ってんのアホらしくなってきた」
「ははっ。そうじゃな。
一緒に帰るか独眼竜。
お主も限界だろう。なんなら後ろに乗っていくか?」
「…あんたの馬の乗り方で、どーやって後ろに」

二頭の馬に片足ずつ置いて立つ芸当では不可能だろう。
「馬鹿にするでないわ。普通に乗れぬとでも思うてか」
「ま、そりゃそうか…けど、今日のところは遠慮しとく」
「そうか。残念じゃの」

そして二人は馬を並べ、未だに喧騒のやまない大阪城を後にした。
 


因みに伊達と長曾我部はなし崩しに同盟を結んだ形になり、
以降頻繁に交流を深め
小十郎の眉間の皺が深くなったそうだ。

 

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漫画で言い合ってる二人(東西兄貴)を描こうと思ったときは
IN小田原で、オチが三成だったんだが、…何故こんな事に?

モブの伊達兵士は誰にするかちょっと迷った。

アニメ二期最終話後妄想でした。御粗末。

 

                                                     【20101009】