焼き付け

 

真を写す。



夕食後元就は、
携帯電話に珍しく受信メールがある事を知らせるライトが点滅しているのに気が付いた。

頻繁に、一方的に連絡を入れてくる二人は今この場所にいる。
一体誰からかと差出人を確かめると
元親との共通の友人、小太郎からだった。

珍しい、と内容を確認すると、
「元親から頼まれた繕い物だが
それもやりつつ新しいデザインでも一着作ってみたいので
持ち主の容姿が知りたい」
という旨が書かれていた。

元親ではなく元就に連絡してきたのは一緒に暮らしていると聴いていたからだろう。
実際は、元親にしても問題ない頼みだったのだが。

元就はふむ、と納得する。

個人のために新しく誂えるのならば道理であった。
似合うものを作りたいという心意気にも好感が持てる。
協力してやるのもやぶさかではない。

適当な理由を告げ二人を家から追い出し
政宗と二人きりになる。

「どうしたんだ? モトナリ。
二人に聴かせられない話でもあるのか?」

そういう機微に気付ける聡さを元就は気に入っている。
話が早くて助かる。
その癖、佐助の敏感さは無駄と思っているのだが。

「貴様の写真を撮らせて貰いたいのだが
奴らがいては話がややこしくなりそうでな」
「しゃしん?」
馴染みのない言葉か、と
「姿をそのまま写す事なのだが」
簡潔に説明する。
政宗は直ぐ様頭を縦に振った。
「わかった。
TVみてーなのがあるならそんくらいは出来て当然か」

毎度柔軟な適応力には感心するが、
下手な事を覚えて元いた時代に戻った時に難儀しないかと懸念もする。
ただでさえ佐助がこの世界の歴史を教え込んでいて
混乱するだろうと呆れていた。

かといって止める元就でもない。

「…どーすりゃいーんだ?」

政宗は元就が構えた携帯電話を不思議そうに眺めている。
小太郎に写真を送るにはこっちの方が都合が良い―
というか元就はデジタルカメラなどという、使う必要がないものを持ってはいない。

「貴様にポーズを求めたとて応えられまい。
勝手に写す。自然にしていろ」
「自然ってもなあ」
「案ずるな。悪いようにはせん」
「han?
それって良いようにはしないやつの常套句じゃねーか?
あ、なら試しに」

政宗の提案に、
元就はむしろ願ったりだと微かに笑った。

そんなやりとりがあった事を、元親と佐助は露とも知らない。


政宗が竜の雷に成って去って後。
三人はなんとなくリビングに集まっていた。
何かを口にするでなく。

「…そう言えば」
小太郎が拵えた服を纏った政宗の写真を確認しながら
元親は撮影した時の様子を思い出す。

「政宗のやつ、初めてにしちゃやけに撮られ慣れてる気がしたな。
カメラは物珍しそうに観てたんだけどよ。
まああいつの性格だからなのかもしんねーが」

疑問を投げ掛ける相手は佐助だ。
元就は話の前に「茶でも煎れるか」と台所に消えていた。
自分の為にであって、二人の分を淹れるつもりはない。

「…もしかして初めてじゃなかったんじゃない?」
「誰かに撮られた事があるってか?
カメラじゃねーならケータイだな。
ってぇと―」
「……」

二人の視線が湯呑みを持って戻って来た元就に注がれる。
元就は無視を決め込むが、
「…ナリさん?」
佐助に呼び掛けられ
忌々しげに舌打ちをした。
「…ちっ。こういう時ばかり鼻をきかせおって」

「やっぱり?!
ちょ、どんなの撮ったの! 気になる!」
「そうそ。見せてみろって」
「他愛のないものばかりよ」
「それって逆に貴重じゃないの?!」

携帯電話を力ずくで奪われ、
「野蛮人めが」
と毒突く。
二人がかりで来られは抵抗しきれない。

元親と佐助は元就の携帯電話を弄りデータフォルダを確かめる。
不機嫌な表情で茶を啜りながら、
元就はロックしておくべきだったと悔いていた。

政宗独りが写っているものが多い。
服が違うということはまとめて写したわけではないようだ。

その中に、元就と二人で写ったものがあった。

「ちょ、何これ狡いよナリさん!」
「政宗いー笑顔してんなーこれ。
あんたも随分柔らかい表情だな」
抗議される―元親はただの感想だ―が元就は涼しい顔で受け流す。

「思い付かなかった己らの愚鈍を恥じるが良い」
「いやまーそーなんだけど。」
「だな。刀振るってるとこは動画で残したかったぜ。
あれっきりになるとは思わなかったもんな」

元親の言葉に皆黙し、
しんみりしてしまう。

元就はゆっくりと口を開いた。
「いつ別れの刻限が来ても良いように
全員の集合写真を持たせてやっていればとは、
少しばかり後悔している」
「そうだよな!
俺らはこうして政宗の置き土産を貰えたけどよ」
元親は同意し、
「政宗こ…政宗の世界に俺らのそっくりさんがいるって話なんだから。
ややこしくなるからソレ」
佐助はいやいや、と顔の前で手を振る。

「我等の写真は持っていけたと思うが。
兜と着てきた服などは残っていたがそれは残っていなかった」
「「……」」
「如何した」
いつの間に確認してきたのかとの思いが一番最初に浮かんだのだが、
「いやーあっちで面倒臭い事になってなきゃいーなーってのと、」
「『我等』って事は、ちゃんと俺達の分もなんだな、って」
二人はそれぞれもっと気になった事を口にした。
「当然だ」
何を当たり前の事を、と元就は瞳を細める。

「我独りの写真を持っていたとて
そんなには大事には発展しなさそうであろう」

その言葉に二人は元就の神髄を垣間見た。

((あっちの世界で波風立つの期待してやがる)のね…!)



「けど俺達三人が写ってる写真なんてあったっけ?」
「高校の卒業式のものが丁度良かったな。
今と然程変わっておらぬしな。全く成長しない奴等よ」
「それ、自分も含めてか?
小太郎が撮ってくれたやつか。
佐助がボロ泣きした後の」
「うむ。目が真っ赤であった」
「なんでそんなチョイス?!」
「政宗の希望だ」
「政宗ぇっ?!」

今になって気負わず呼び捨てに出来たか。
と、二人は佐助を生暖かい目で見つめた

時既に相当遅いが。


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というやり取りがあったんです、よ。
同じ高校だったけど佐助と小太郎はあまり接点ない。

この伏線(写真)を活かすかどうかは未定。

                                                    【20101012】