幕間

 

政宗率いる伊達軍が大阪城から引き上げていくのを見送った後、 佐助は幸村の待つ本陣に報告に戻った。 佐助の気配に気づいた幸村は 姿を確認すると同時に口を開いた。 「政宗殿はお帰りになられたか」 「なんで解るの? 話、聴こえてた?」 実際戦場で離れた場所にいても会話が成立していることがままある。 政宗は大声で小十郎を呼びつけていたのだし。 「いや。 お前が気の抜けた顔をしておるからな」 「へ?」 「ついでに憑き物が落ちた表情もしておる。 やっと自覚しおったか」 「は?」 「全く、 気になる相手に冷たく当たるなど子供じみた主張をしおって」 「あの、何の話っ?!」 佐助は慌てふためく。 まさか自分がついさっき気付いたばかりの事を その手の事に疎そうな自分の主に指摘されるとは思ってもいなかった。 「お主は政宗殿の事となると余裕がなくなるからな。 上杉殿のところのくのいちを相手にしている時とは大違いだ」 「かすがのこと引き合いに出すの止めてくんない?」 「だがお前は周囲にそう思わせようとしていたのだろう?」 「いや別に狙ってやってないよ? 素だよ?」 確かに馴れ馴れしく接しているが 同郷のよしみという部分が大きい。 そりゃあそういう意味で付き合えればめっけものだと思ってはいる。 かすがは良い女だ。 男として、同じ忍として意識して当たり前だろう。 彼女が今身も心も捧げている軍神にはまず勝てる気はしないが。 そもそも余裕のあるなしで本気かどうか判断しないで欲しい。 正直、本気になったらどつぼに嵌まりそうな彼には深入りしたくない。 「それに佐助、 お主政宗殿に対してだけ無闇に厳しい物言いをするではないか。 それを意識しすぎとせず何とする」 「穿った見方をするのが忍の仕事なの!」 「それは違うぞ佐助。 忍…偵察や観察の任を担うものは 正しく真実を観ることこそが何より重要であろう。」 きっぱりと、余りに堂堂と言い切られ、 佐助はぽかんと口を開けた。 正論だけあって、余計に驚かされた。 「何で大将が忍の在り方に口出しすんのさ」 「お前の上司だからに決まっておろう。 下手に私情を挟まれ、誤った情報を掴まされては お館様の大事にも繋がる。 なれば、道を正すのも某の役目なり」 凛と言い放ったその姿は 最早信玄が倒れた時に揺れ惑った迷い子ではなかった。 「大将…」 随分しっかりしちゃってまあ。 嬉しいような淋しいような。 いや問題はそこではなく。 「でも俺様、 やっぱあの人嫌いだよ。 本人にも言ったけど。」 「佐助ぇ!!」 ぶんっと自分に向け降り下ろされた槍を間一髪で避ける。 焔が尾を引く。 かなり本気だ。 「っ大将?!」 「あれほどまで兵や民を想う気持ちを持っている御仁が、 他人の痛みを思いやれる御仁が、 そのような事を言われ何も感じないわけがなかろう!! お主とて政宗殿に『嫌い』などと言われたら平気ではいられまいに!」 「いや俺様は別に」 「謝って参れ」 「は?」 「政宗殿の所に赴き前言を撤回して参れ! 命令だ!」 「そんな無茶な!」 「佐助ぇ!」 「はいはい」 言い出したらきかないのは経験上知っている。 気は進まないながら、言う通りにしなければ承知してくれないだろう。 佐助は重い腰を上げた。 気も重い。 「あ、そうだ真田の大将」 「なんだ?」 「竜の旦那、『また来る』ってさ」 「そうか。 では早急に陣を立て直し、また盛大にもてなそうぞ」 嬉しそうに言うのは良いが、 その「もてなし」が大砲なのは如何なものか。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 前回「リトライ」と書きましたが「セーブしないで一旦終了」かもしれない。(どうでもいい) この幸村は珍しく→政宗じゃなさそう。恋慕的な意味では。                                【20101015】