竜飛疾駆;参



「なっ、なっ!なっ?」
言葉にならない声を上げる佐助の反応に構うことなく
愁いを浮かべた政宗は話を進める。

「このまま戻るのはちょっとなぇ。小十郎の顔を観たくねぇんだ。
ブラついたら頭が冷えるかと思ったが、
折角アンタが来てくれたんだし。」
逃避行と洒落込むか、と笑う政宗に、
混乱から立ち直った佐助は「駄目っ」と窘めた。

「さっきの見回りの人が証言したら
忍の佐助さんと政宗が一緒だって思われちゃうでしょ!」
「そう思わせてみようかと思ってな。
アンタの写真も相俟って小十郎もそれが誤解だとは気付く事もねーだろ」
「…俺様の、写真?」

佐助は首を傾げる。
元就が渡したと言っていたのは、
元就、元親、佐助の三人が写った写真との事ではなかったか。

政宗は、知らなかったのか、と
「アンタの写真」
頷き、繰り返す。

「…ナリさんが渡した?」

「何だ聴いてたんじゃねーか。
アンタが『伊達政宗公』の銅像の前で浮かれてる写真だ」
「でもそれって写ってる俺独りだよね?!
ナリさんは三人の写真渡した、って」
「モトナリがくれたのはそれだけだぜ?
何か知らないが
自分達の事は良いからお前の事だけは忘れないでやってくれ、
って言われた」
「ナリさん…」

佐助が政宗に近づきかける度
数数の妨害を謀って来たのは元就だったはず。
それゆえ佐助はてっきり

「ナリさんも、政宗が好きなんだとばっかり思ってた…」

そうじゃないかと考え至ったのは政宗が還ってから少しして後。
なにせ自分の想いに気付いたのは政宗が還る直前だったのだから。
以降逢いに行きづらかった。
連絡だけは取ってはいたが。

そしてつい先日、
共通の友人であり同じ体験をした元親にとうとう訊いたのだ。
「ナリさん政宗の事好きだったのかな?」
と、直球で。

元親は苦笑いしながら「あいつもややこしい奴だからなー」と頭を掻いた。
「本人に訊いてみればいいんじゃねーか?
答えてくれねーこともねーと思うぜ。
もう少ししてから…
政宗がいなくなって今日で五日か。
そーだな、二、三日後ぐれぇに」

そう言われ、じゃあ明日にでも話を聴きに行こうかとしていたらこの世界に迷い込んでしまったのだ。
まさか元親が、佐助がこうなる事を知っていた訳ではあるまいが。

「モトナリが自分の写真渡さなかったのは俺が嫌いだからって事か?」
呟いた政宗が心持ちしょんぼりしているように感じ、
佐助は慌てて否定する。
「そういう意味じゃなくて―」
恋愛的な意味で、とは口に出来なかった。

「政宗様っ!」

なんとなれば、
二人の声を打ち消すような大声で政宗の名を呼びながら
左の頬に大きな傷痕がある青年が突如草を掻き分けその場に現れたからである。
 

 

 

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ここで小姑登場ですよ。


元就サイドの話はこっそり(?)拍手で連載中。多分近日中に3話目。

                                                      【20101020】