INTER-PRETER / サナダテ

 

 

関ヶ原の戦いで石田三成を倒して暫く後、
政宗は幸村の居城を訪ねた。

以前のように通り路ついでに喧嘩を売るのではなく、
正式な訪問である。
同行したのは片倉小十郎ただ一人。

先日刃を交えた場所で、
再び顔を合わせる。

「政宗殿…」
「久し振りだなぁ真田幸村。」
「そう…でござるな。
まこと、久しく…」
挨拶を交わすが、幸村の方はどこか覇気がない。

政宗は内心首を傾げながらも会話を続けた。
「関ヶ原には参戦していなかったみてーだが、
アンタが入ってた西軍は敗けたぜ。
…真田幸村?」
ぶるぶると身を震わせる幸村を訝しんで
政宗は一歩近付こうとする。が。

「政宗殿はっ、」
幸村の大声によりその足をぴたりと止めた。

「最近は石田殿やら徳川殿にかかりきりで、
某の事などお忘れになられたのかと思っておりました」

「……」
政宗は眉を潜めると、
幸村の背後に控え
己の主の発言にぽかんと口を開けている佐助に声を掛けた。

「…忍、通訳」
「えええ、俺様?!
必要? 通訳」
「歯に物が挟まったような言い方じゃ言いてぇ事なんざわかんねぇよ」

佐助は「仕方ないなあ」と頭を掻く。

「そうだなー、
自分だけに飽きたらずてか俺の事なんか忘れて
あっちこっち目移りさせちゃってこの尻軽め、
ってとこかな」
「佐助! 俺はそんなことなど言っておらぬ!」
「え、でもそう聴こえたけど」

政宗ははーっと深く長い溜め息を吐いくと、
ぎっと睨み付ける。
眼帯の奥のないはずの瞳まで光っていると感じそうな程、鋭く。

「石田を追ってたのは部下達の仇だからだ。
そいつと手を組んでたアンタに家康との同盟を責められるいわれはねぇ。
やっと弔い合戦を終わらせて
気兼ねなくアンタとやりあえると思ったら
ンな難癖つけられるとは思わなかったぜ。
それに忘れられてるじゃねーかってのはこっちの台詞だ。
初めて逢った時からずっと、今回だって、
アンタは90%以上虎のオッサンしか見てねーだろーがfuck you!」

最後は叫ぶように言い捨てると、くるりと背を向けた。
「政宗様…」
自分を心配する右目の声に少し落ち着きを取り戻し
「小十郎、通訳してやれ」
そう言い捨てると、
政宗は足早にその場を後にした。

「真田、通訳は必要か?」
「必要ござらん…」
呟くように返答すると、
持っていた槍を一度地面に突き刺し、
ばんっと力一杯自分の頬を両手で叩いた。

再び槍を持ちキッと顔を上げる。

「お待ちくだされ政宗殿っ!」

そしていつもの調子を取り戻すと、
全力で政宗の後を追い掛けた。

「通訳させられなくて助かったぜ」
残った小十郎はふう、と安堵の息を吐く。
同じくその場にいる佐助はそれを聞き咎め、眼をしばたたかせた。
「何で? まんまの意味でしょ」
「最後以外はな」
「あーあれ、『はっきゅー』とかって
聞き慣れない言葉だったけどどういう意味?
何か厭な響きなんですけど」
「畜生、とかって意味、なんだがな…」
直訳するとちょっと違う。

政宗はずんずんと歩を進め、
馬を置いている場所、門の近くまで来た。
小十郎を置き去りにしてしまったが
程無く追い付くだろうと躊躇なく手綱に手を掛けた時。

「待たれよ!」

幸村が現れた。

「政宗殿、申し訳ござらん…っ!」
振り向きもしない政宗の傍で膝を折り、
幸村はがばりと頭を擦り付けんばかりの勢いで土下座をする。

「某、政宗殿は唯一無二の生涯の宿敵、好敵手だと思ってござった!」
「過去形かよ」
「わからないのでござる…っ」

政宗は身体ごと幸村の方に向いた。
すると身体を丸める幸村の後頭部が目に入り、苦笑する。

「…話は聴いてやる。
顔を上げろ。良く聴こえねぇ」
「かたじけない…!」

顔は上げたが
座って視線は地面に向けたまま、
幸村は自分の心情を語り始めた。
己でも掴み切れない感情を、探り探りで、とつとつと。

「そなたとの戦いは、胸躍り魂が漲る何物とも変え難き至福の刻。
しかし、最近ではそればかりでない事に気が付いたのでござる。
この幸村、戦いなくとも
政宗殿を想うだけで身体も心も燃え滾る有り様…!
しまいには寝てめ覚めても政宗殿の事ばかり考えてしまい申す」

それも、
戦う姿ではない。兜を脱ぎ素顔がよく見える状態で。

しかも、
見たことがあるはずもないしどけない姿やあられもない姿を妄想する始末。

立派な武人である政宗のそんな姿を想像してしまい自己嫌悪に陥り、
自分にそんな夢想を抱かせるなどと、と
本人に八つ当たりしてしまった。

とまでは言えはしない。

だが鮮明に思い出した事で耳まで赤くなる。

「政宗殿に愛想を尽かされても致し方なく…っ!」
ゴッと鈍い音がする。
再び地面に額を付けた音だ。
政宗は跪き幸村の頭に顔を近付けた。
「…随分と」
ひとふさ分だけ長い、結わえられた尻尾のような髪の毛を掌に乗せ弄ぶ。
愛でるように。

「熱烈な愛の告白だな、真田幸村?」
「愛っ?!」
慌ててがばりと顔を上げた幸村の目に映ったのは政宗の優しげな笑みだった。
幻ではない。

「そういう風に聴こえたが違ったか?」
「そ、な、ち、…
…違わない…気が致す」

指摘された事を吟味し、
出た結論に目を白黒させている。

だが確かにそれで説明がつく。
納得すると
「某は政宗殿に性的興奮を覚えていたのでござるな」
うむうむと頷いた。

政宗は髪の毛を手から放すと立ち上がり距離を取った。
「…そう言うことは、もう少し薄皮に包んで言え」
「何故でござる」
「moodがねぇっつーか、ah、
…破廉恥なんだよ。
you see?」
「そ、其が破廉恥っ?」

あわあわと慌てふためく幸村の姿を観て
政宗は楽しそうに笑った。

「…なんか巧くまとまったみたいだねー?」
「政宗様…っ
あの時お止めせずにとどめをささせておくべきだったか…!」
「物騒な事言わないでよ右目の旦那。
それに似たような意味でいつも言ってる
『しっと』とか『がっでむ』とかってのじゃなく
『はっきゅー』とかっての使ったって事は
竜の旦那にも少なからずそういう気持ちがあるんじゃない?」
「互いにそのような想いがあって以前のような好敵手の関係に戻れると思うか?」
「話を聴くに
大将の方は一回抜いとかなきゃ駄目っぽいけど」
竜の旦那が赦してくれるかね、と佐助はごちる。
ナニをとは言わないが。

「……真田ぁ!
成し遂げたけりゃぁ俺の屍を越えて行け!」
「かっ、片倉殿?! 一体何の話でござるか?!」
「あ、結局邪魔しに入るのね。
んじゃ俺様もついでに。」


大きな戦が終わった後だというのに、
世の中は意外と平和でった。

 

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おおおお一回保存し忘れて酷い目に…!(それほどでもないが)

政宗赤ルートって上田城意外で真田と戦わないよ、ね?
通訳話は結構ありがちだろうか。でも主題は幸村の空回りのほう。

Shitはこの流れだと響きが紛らわしく筆頭は神を呪わない故の
ふぁっきゅー、とかだったり。
あれ意外と冷静?
ゲームで言ってたっけガッデム。
                                            【20101028】