背徳蜜事 / 瀬戸内×政宗

 

 

本拠地にて新しいカラクリの構想を練っていた元親の元に
海の見張りをしていた手下の一人が慌てた様子で駆け込んで来た。

「アニキー! お客さんみてぇですぜー!」
「客ぅ?
どこのどいつでぃ。
船は?」

四方を海に囲まれた元親の領地に来る手段は船しかない。
稀に、空から訪れる客人もいるが、
その場合見張りの伝令が来る前に到着する。

「そ、それが、船の帆の紋からすると…」
手下の報告に、
「なにィ?」
元親は驚いて腰を浮かせ
その足で「客人」を自ら迎えに出た。

「アンタが俺んとこに出向いてくるなんざぁ珍しいこともあるもんだな。
明日あたり槍でも降るんじゃねーか?なぁ毛利」

警戒のため愛用の碇槍を携え相対したが
元就は武器を持参していなかった。
着ているのは戦の時に纏っている服と鎧であったが。

その代わり、手には巻物を持っている。
元就はそれを掲げて見せた。

「貴様に作って貰いたい物があるのでな。
工房があるならそこに案内せよ」
「相っ変わらず無駄に偉そうだなアンタ。
頼み事ならもう少し言い方ってモンがあんだろーがよ」
「報酬は弾む」
「こっちだぜ早くしな」

嫌嫌ながらも長い付き合いを続けて来た元就は
萬年金欠の元親に良く効く一言を熟知していた。

先程まで元親が居た部屋に導かれ
元就は腰を落ち着けると早速持ってきた巻物をばっと広げる。

「頼みたいのはこのような物よ」

二人は対面で座っており、
図面は元親に観易い角度で置かれた。

用意させた墨と筆で
既に描いてきたものにすらすらと註釈を書き加えていく。

「大きさはこの絵の通り。
太さもこんな感じだ。
ここからこのあたりまで大き過ぎず小さ過ぎずの突起を付けよ。
それで、回転と振動が出来るようにしたい」

元親はふんふん頷きながら頭の中で構造を模索していく。

「小せぇな。これを動かすのか…」
「出来ぬか。
動力と起動切り換え装置はこの中に収まらなくとも良い。
長さは延びて問題ないのだが」
「なら出来ねぇ事もねぇと思うが…
用途はなんだ?」

元就はその質問に応えず
「それで一番重要なのが」
と人差し指を立てて見せた。

「濡れても壊れぬ事、だ」

「…濡れる?
水ん中で使うのかよ」
「少し違うな。中は中だが。
政宗のナカで壊れたら目も当てられぬ」
「政宗? 独眼竜か。何でアイツの名前が…
……ナカ?」
「うむ」
「……」

元親は改めて設計図を観、
元就の注文を反芻する。

つまりこのモノは。

「えげつねぇな…。
アンタ独眼竜をどーするつもりなんだよ」
「どうするも何も。
愛でるつもりに決まっておろう」
「……は?」

元親が言葉の意味を理解しようとするのを邪魔するように
二人のいる部屋に向かいどんどん近付いて来る騒音と声があった。

「わわっ! 待って下さいってば! 
今取り込み中なんですって!」
「それを邪魔しに来たんだよ!
元就!」

叫びながら乱入してきたのは、
話にのぼっていた独眼竜その人であった。

「出来上がりが待ち切れず来たのか」
「んな訳あるか!
hey西海の鬼!
その注文STOP! cancelだ!」
「えーと、何て?」
異国語が解らず聞き返す元親に
「取り消しだっつってんだよ!」
政宗はがなり立てる。

慌てる様子からすると、
「アンタ、毛利が何頼みに来たか知ってるって口振りだな?」
「っ!」

かあっと顔を紅潮させる。
その反応は確実に。
「知ってるんだな」
「当然よ。
昨晩我が政宗を貫きながら話題にしたからな」
「っわー!」

政宗が慌てて大声を出しかき消そうとするが
元親の耳にはしっかりと届いていた。

だから右目も連れず独りで訪れて来たのか。

「…アンタらそんな仲だったのか…
意外だな」
「何を言う。
似合いであろう」
「見た目はまぁな。」
ふんぞり返る元就に元親は苦笑した。

それにしても。
「竜の兄さん、弱み握られて無理矢理、とかじゃねーよな?」
「俺がそんな理由で良い様にさせるような野郎に見えるか?」
ギロリと睨み付けてくるが
顔を朱くしたままでは迫力に欠ける。

ちなみに政宗を止めていた元親の手下は空気を読んで退出済みだ。

「場合によっちゃぁな。
けど違うってぇと同意の上でか」
「当たり前よ。
その上で我は政宗の恥態を隅隅まで観察したいと貴様に頼みに来たのだ。
自分で繋がっていてはきちんと観れぬ」
「…その理屈もどーかと思うが、
アンタらの間に愛があんのはわかった…気がするぜ」
だが、なら。

内緒にされていたことが
元親の胸に小さな棘となって刺さった。
確かに吹聴して回れるような関係では無いだろうが、
元親は政宗を気の置けない友人だと想っていたのだが
独り善がりだったのかと。

だから思わず口をついて出た。
「つまり、挿れられてるとこをじっくり視てぇって事だよな?
なら俺が竜の兄さんの相手してやろうか?」

「貴様何をふざけた事を」
元親の提案に元就は眉を潜めたが、
「アンタにとっちゃ人間は駒みてーなモンなんだろ?
ならカラクリだろーが人間だろーが
アンタ以外のもんってことで変わんねーんじゃねーか、ってな」
「…む」
続く言葉に、一理ありか、と元就は検討をし始める。

「言いくるめられてんじゃねぇっ!
元就! アンタ一応智将だろ?!」
「一応などではないわ」
「なら赦すんじゃねーぞ?!
玩具を突っ込まれんのも御免だ!」
「つまりアンタは毛利しか中に挿れたくねぇんだな」

元親の問いに、政宗は一瞬固まり、
照れながらもこくんと頷く。

「それもあるけど、
アンタにだけは絶対に嫌だ。」
「おいおい。随分と嫌われちまったもんだな」

軽い感じで言うが
実際は相当落ち込んでいる。
普段なら政宗はその声音に気付くところだった。
だが元親に元就との関係を知られた事でかなり混乱していた。

「違う! 逆だ!」
「逆?」

政宗は一度元親を窺うと、
そっと視線を外して小声で告げる。
先方の顔色を窺う自分を情けないと思いながら。

「アンタは大事な友人だと思ってる。
一方的で悪いが、俺の、…一番の。
その関係を壊したくねぇんだ…!
っだから元就との事も話せなかった…
軽蔑されたらって思うと、怖くて」
「独眼竜…っ!」

まさかそこまで自分の事を想ってくれていたとは、
と元親は感動する。

一方、元就の機嫌は急降下した。

「長曾我部。
貴様の望み通り政宗の相手をさせてやろう」
「?! 何でだよ元就!
俺はアンタとしか嫌だって言ってるだろ?!」
「長曾我部ごとき相手にその様な態度を取るでないわ。
二度と友人などと呼べぬ関係にしてくれる」
「アンタの嫉妬の沸点がまるでわかんねーんだが。」
何故身体を重ねる事は許すのか、いくら頭を捻っても
元親には理解できない。

「政宗にとって身体を繋げる相手は我が一番。
貴様は友の一番から肉体関係の二番手以降に成り下がるが良い」
「いやそれ成り上がってねーか?」
「そうだ! 俺はんな関係は一番以外要らねぇぜ?!」

猛烈に抗議する政宗に
元就は冷静な口調で尋ねる。

「其奴のあの言葉を聴いても普通の友人に戻れるのか?
ヤツは貴様を抱きたいと申したのだぞ。
性欲の対象たりえると、そう」
「っ!」

政宗は色を失くす。
確かに、元親は政宗を抱けると、
そう言っているようなものだった。

「ならばいっそ
関係を変えてしまった方が互いの為になろう」

元親は自分の発言の迂闊さに思い至り、
次いで元就の発言に目を剥いた。

「…アンタ、なんも考えてねぇようでいて
政宗の為に色々考えてたんだな…!」
「存在そのものを消して欲しいらしいな長曾我部。
貴様には海の藻屑あたりが似合いぞ。」
「前言撤回懐の深いスゲェ男だぜ!」
「…西海の鬼…」

政宗は哀しくなった。
が同時に微妙な嬉しさもある。
そうまでして望まれた事に。
嫌われていないなら、それで良いかとさえ。

「ってのは気の迷いだ!
やっとアンタの遣り方に慣れ掛けて
翻弄されっぱなしにならなくなれそうだって程度の俺が
他のヤツ相手とかぜってー無理!」
「ええい往生際の悪い」
「悪くもなる!
長曾我部! これからも普通に友達、でいーだろ?!」
「悪い。無理。
アンタが毛利とヤッてるって知っちまうとなー」


結局政宗は、その場で二人から
限界まで愛撫と快感と視姦と熱い愛の証とを
その身、身中に受ける羽目になった。
この場に乗り込んだ事を全身で後悔したが後の祭りである。


「それはそれとして
アレの製作も頼んだぞ長曾我部」
「おう! 腕に縒りをかけるぜ!
使ってるとこ、俺も視て良いんだよな?」
「仕方あるまい。製作者ではな」
「so BAD!
コイツら嫌いになりてぇ…っ」

掠れた声で毒づくが、なれないだろうと知っている。

出来あがったモノも
元就の頼みならば躊躇いながらも受け入れてしまうのだろう。

未だに快楽に溺れる自分が浅ましく思え
事後深い自己嫌悪に陥るのだが。

焦らすのが好きな元就は
いつも政宗に強請る言葉を自ら言わせるように仕向ける。
言いたくなくても身体が求める分最後にははしたないまでに懇願してしまう。
葛藤は絶えない。

元親は元親でやたらと実況をするので性質が悪い。
政宗の羞恥心を煽っている訳ではないのが余計に。

それでも嫌いになれないし、
肌を合わせる行為自体も嫌いな訳ではない。
プライドとの折り合いが巧くつけられないだけで。

政宗は
「嫌いたいが嫌えない相手」に
自然に元親も含めた事を
まだ自覚していなかった。

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真面目な話ばっか書いてると羽目を外したくなる。
本番を書かないところが一応自重した。
アニキのカラクリ作成に関しては同案多数だと思いたい。

アニメ版と言い張りたい所存。弐期後、毛利生きてる設定で。

                                                                 【20101106】