と、言う名の絆 / 家康→←政宗

 

幸村の活躍により関ヶ原の戦いは西軍の勝利で幕を閉じた。

徳川軍に混じり戦いに参加していた政宗と小十郎は
各各受けた傷をを確認しあい、
お互い大事がないとわかると安堵の息を吐く。

「天下分け目の決戦…だったってのに、あの阿呆は
大将首を取らずに勝ち逃げしやがった。
単なるリハビリ目的かよ」
政宗はチッと舌打ちをする。
物騒な事を言っているが、
虎視眈々と天下を狙う政宗からしたら度し難い馬鹿としか思えないのだ。

「あっちの大将さんも天下なんか興味なさそうだったし
真田の野郎はそのまま虎のおっさんの天下にも出来たろうに
無慾…
っつーよりあくまで虎のオッサン自身の手で天下を掴ませてやりてぇんだろうな」
やれやれ。と肩を竦める。

「その気持ち、この小十郎にもわかる気が致します」
傍に控えていた小十郎は深く頷いた。

政宗を欠いた戦で天下を決するのは、
小十郎とて悔やまれる事になろう。
やはり、自分の手で掴み取って欲しい。

己の右目であり、七本目の刀とまで評する小十郎にそう言われては
政宗は言葉を呑み込むしかない。
釈然としないながらも。

決着の場が、
此処ではないだろう事もわかっていた。

「…んじゃまあ撤収するとして、
一応総大将殿に挨拶して行くか」

政宗がそう言った丁度その時、
当の家康が単身訪れた。

一直線に歩を進め、政宗の目の前で足を止める。

「おう。お疲れさん」
「独眼竜。
このまま同盟を継続させてはくれないか」
「ah?」

焦っているのか、挨拶もなく告げられた言葉に
政宗は眉を潜め、
ことんと首を横に傾けた。

「悪いが、この戦きり、って話だった筈だぜ?」
「そこを何とか!」

家康はがしっと政宗の腕を掴む。
逃がしたくはないとばかりに。
政宗は真っ直ぐに家康を視た。

「俺が抜けても」
手は振り払わずに、だが言葉は素っ気ない。
「アンタにゃお仲間が沢山いるだろ。
部下だって、でかいのを筆頭に、山程。」

政宗の言葉に、家康はふるりと、強く、一度だけ頭を横に振る。

「お前じゃなきゃ駄目なんだ。独眼竜…!」

ぐ、と腕を握る手の力が強くなり、政宗は顔を顰めた。
素手で戦う家康の握力は結構なものである。
防具がみしり、と軽い悲鳴をあげた。

「家康」
「ワシは、部下のために秀吉公に降った。
それを間違ってるとは思わん」
「…ああ。結果、こうしてアンタの勢力は天下を轟かせている」
「だが!」

家康は、政宗の腕を掴んでいた手を
今度は両肩に置いた。

「どれだけ不利な状況に有っても、不屈を貫くお前の事を…
ワシは、憧れずにはいられなかった…
昔も、今も!」

政宗は、自分より体格の良い家康のその姿が
数年前の、身の丈より大きな槍を振るっていた小さな姿に見えた気がした。

「…アンタはアンタだろうが。
自分に還れ。
真田幸村に、そう説教してたのはどこのどいつだよ」
「独眼竜」

それは意味が違う、と家康が口にするより早く、
政宗はすっと身を離し
「あんたが何と言って止めようと家康」
ぴしりと指を立てる。

「同盟は御破算。
俺はまた、単独で天下を目指させてもらうぜ。
you see?」
「っ独眼竜!
お前とは、これっきりになるのか…?」

切実な響きに、政宗はふっと笑った。

「なぁ家康。
絆ってのは器が必要なのか?」
「…どういう意味、だ…?」
「同盟。味方。宿敵。仇。
アンタが唱えるのは仲間って意味なんだろうが、
どんなモンでも絆は絆。
関係が変わって絆の名前が違っても
一度繋がったモンは簡単には消えやしねぇ。
元同盟相手で、明日には敵。
それでも、アンタと俺の間にある絆ってやつは流れの上だ」
「流れ?」
「積み重ねってのか?
なかった事にはならねぇ。互いが消そうとしない限り。
少なくとも俺は忘れはしねぇ。
だが」

政宗はふっと皮肉げに嗤った。

「温いのは好きじゃねぇ。
戦も、関係もな。
アンタとの関係はぬるま湯みたいだった。
好きなヤツにはたまらなく心地好いだろうし
普通なら永くいたい場所なんだろうが
生憎俺には合わなくてな。
だからアンタから離れさせて貰う」

そう言うと、にやりと悪戯っぽい笑みに変わる。

「アンタはSEXも温そうだな」

「政宗様。お戯れを」
「怒るなよ小十郎。
JOKEだJOKE。」
神妙に政宗の言葉を聴いていた家康は、
主従のやりとりにぽかんとする。
小十郎が地の底を這うような声を出して窘める程の内容のようだが。

「せっ…く、す? とは、何だ? 独眼竜」
「ah、性交の事だ。性交渉。」
軽い返答は、だが思いがけない単語が飛び出して、
「っな…っ?!
は、はっ、は!」
家康は顔を紅くした。

「『は』?
真田幸村みてーに破廉恥な、とでも言うか?」
からかいの色を含んだ言葉は家康には聴こえていなかった。
最初の一音を吃りながら上擦った声で絞り出したのは

「っ働きを見ない内から評価を決めつけるのは、
軍の頂点に立つものとしては良くないぞ!」

と言うものだった。

「…なんと」
小十郎は目を丸くし
政宗はヒュウ、と口笛を吹く。

「良いね。面白い。
って事は働きを見せつけてくれんのか?」
「そ、そのような行為は人に見せるものではないだろう!」
「奇遇だな。俺も他人のそんな場面を観る趣味はねぇ」

「……………………ん?」
「アン?」
「…政宗様…」

意味を図りかね困惑する家康に、
対する政宗はとても愉しげで
小十郎は嘆息する。
深く、長く。

「ですからそのような」
「ははっ。悪かったな家康。
前言撤回。温いばかりじゃねぇみてーだぜ。
証明したくなったら言いな。
アンタの熱さ、確かめてみたくなった」
「政宗様。軽軽しく口にすることではありません。
この小十郎の知る限り、政宗様は」
「STOP小十郎。
わざわざ教えてやる義理はねーだろ?」

唇に人差し指を当て目配せをする政宗に
小十郎は
「左様でしたな」
恭しく頭を垂れた。

用が済んだと踵を返す二人に、
熟考から浮上した家康が慌てる。
「独眼竜!」
政宗は背中を向けたまま右手をひらりと挙げ応えた。

「同盟はナシ。それは決定事項だ。
だがアンタは嫌いじゃねぇ。
…遊びに来な。歓迎してやる」

馬に乗り、奥州に帰る途中。
他に人気のない場所と見ると、
政宗の後ろを走っていた小十郎は馬の走る速度を上げて並走させ
疑問をぶつけた。

「政宗様。何故あのような」
「焚き付けたくなった。
アイツの必死な姿ってのを観てみたくてな。
昔じゃない、今のアイツの。
随分と大人しくなっちまってつまんねぇと思ってたところだ。
だから一番そうなりそうな場所に誘ってみた訳だ」
「政宗様」
「心配するな小十郎。
あっちが乗ってくるとは限らねぇ」
「…そう、でしょうか」

家康の反応を思い出し、小十郎は同意しかねる。
あれ程の執着を、家康は他の同盟相手にも見せるだろうか。

政宗の誘い言葉を理解した時、家康はどう出るのか。

何より。

絆には様様な名があると政宗は言った。
ならば。

誰にも委ねた事のない身体を赦しても良いと想うまでのその絆の名は何なのか。

小十郎は尋ねたかったが、
政宗が気付いてないならば藪をつつく必要はないかと口を閉ざした。


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幸村赤ルート後。
…うん、プレイし終わって思いついたんですけれどね。

家政はなんか筆頭が家康にセクハラ的な挑発してしまうなあ。
家康は後ろ向きと言うかうだうだしてる印象が強くて。
シリアスになり過ぎずいきなり肉体関係にも行かないようにも修正した結果中途半端に。

                                          【20101211】