衣装絢爛

 

 

「政宗〜幸村ぁー!助けてー」

連載の準備を着着と進めながら京都から大阪に引っ越し
晴れて皆と気軽に逢えるようになった慶次は
またしても元就の家に転がり込んできた。

政宗が居るのは、まあ恋人同士だから当然で
学校帰りに寄ったので下校が一緒だった幸村は流れで着いてきていた。
二人とも制服姿である。

故に家主は今日も不機嫌であった。

「こんだぁ一体何だ」
政宗が面倒臭そうに尋ねる。
慶次はその手を取った。

「服!」
「服、でござるか?」
政宗の隣で首を傾げる幸村に勢い良くこくんっと頷く。

「衣装!
自分で着てたのと女の子達のは覚えてるんだけどさー!
うわー記憶って曖昧!」

でかい図体の大の男が弱音を吐いている様は見苦しいな、
と、離れて観ていた家主―元就は辛辣に思う。
慶次は政宗や幸村より元就に歳が近い。

「まんま、じゃなくたって、何となくでも良いだろうが」
「けどなるべく忠実に描きたいじゃん!
はい!」
慶次に紙と鉛筆を手渡され、政宗は眉間の皺を深くした。
「おい。まさか」
「自分達が着てた服はわかるだろ? 後側近の人とか!
政宗は右目のお兄さん、幸村は忍のお兄さんね!
描いて!
んでその後力を合わせて他の人達の服思い出していこう!」

「…わかるはわかるが絵に描けったってなぁ…」
「やってみましょう政宗殿!
何事もちゃれんじでござるよ!」
「てめーのそのノリは変わんねーなぁ…」
後先をまるで考えていない。
幸村は絵心の有無をまるで気にしていないのであろう。

政宗は仕方なく記憶のままに筆を走らせた。

「おお。政宗殿の描かれる絵は随分と可愛らしいですな!」
「うるせぇ。こんな風にしか描けねぇんだよほっとけ」
政宗の手元の紙にはちまっとしたキャラクターが描かれていて
幸村はほわわんと癒されている。

「確かにすっごく可愛いんだけど細かい所がわかんないよ?」
「文句言うな! 憶えてねぇてめーが悪いんだろうが!」

「…貴様は馬鹿か」
「っ元就!」
背後から覗き込んだ元就は「確かに愛らしい絵であるな」と呟く。
政宗は二重にムッとした。

「馬鹿って何だよ」
「そうだよ可愛い恋人に向かって言う言葉じゃないんじゃないか?」
慶次をあからさまに無視し、
元就は政宗に向かい「馬鹿は馬鹿だ」と溜め息を吐く。

「覚えているであろう。
置いて行った物と、
撮ってきたものの事を」

「…あ!」
「え? なになに?」
「何でござるか?」

思い出したと声を上げた政宗に 慶次と幸村は身を乗り出す。

「政宗サン置いてってたんだった…!
陣羽織と兜!」
「…へ?」
「あっそれにあっち行った佐助が撮ったやつ!」
「む…?」

政宗は見せた方が早いと携帯電話を取り出した。

「おお佐助!」
「右目のお兄さん!」
幸村と慶次は驚嘆の声を上げ、
「「…何このツーショット」」
揃って怪訝そうな表情になる。

「佐助があっち行った時に撮影したんだよ。
成り行きで」
「成り行きでござるか」
「成り行きなんだ」
「成り行きとしか言い様があるまい」

何せ「未来から来た人間」だと言うことを証明するためだけに撮影したものなのだ。

鮮明な全身像とはいかないが、参考にはなる筈で。

「政宗、そのデータ俺にも」
「断る」
「何で元就がっ?!
その写真、政宗写ってないよ?!」
「貴様に教えてやるメールアドレスなぞないわ」

「………」
「………御免。」

謝ったのは政宗で、
謝られたのは元就だった。
意味は、訊く必要はない。
元就は眼を伏せた。

「…既に手遅れか。痴れ者が」
「いーじゃんメアドくらい。
束縛しすぎると嫌われちゃうよ?」
「っ!」
慶次の言葉に元就は色を失う。
それは、一番避けたい事態だ。

「慶次」
政宗はこそっと、衝撃を受けている元就に
聴こえないように慶次に耳打ちする。

「元就のああいうとこ、
俺としては、可愛いぐらいだぜ?」
「…御馳走様」

無表情のようでいて、結構落ち込んでいる様子の元就に
違う「過去」で同じ顔をしていた人物との余りの違いに戸惑いすら覚える。

慶次が描く予定の「毛利元就」の在り方を
こちら寄りに軌道修正したくなる程に。

政宗にそう言うと
「それはナシだろ。
あの毛利サンと同盟に持ち込んだ政宗サンの手腕はキチンと描いてやんねーと」
やんやりと頭を振って否定され
「それも一理あるか」
慶次も納得した。

立ち直った元就に見せて貰った
「伊達政宗」が遺していった陣羽織と兜は
慶次にとってとても重宝すべきものであった。
他の知り合いの服を思い出す引き金にも なった。

政宗に着てみて欲しい、との願いは、
「一式揃っていないのだから意味がなかろう」
と言う元就の尤もな言葉に納得し引き下がったが、
慶次よりも幸村の方が相当残念がっていて
合流した元親がそれを観て不憫に思い
こっそり、修繕した時の記憶から
防具や小道具を新しく作り揃え始めた。
刀だけはどうしようもないが。

近い内に政宗が身に纏うことになるであろう。

 



「武器と言えば某は政宗殿の刀であれば
一本に刃が三本ある物が気になりもうした」
「アンタのはでっかいマッチ棒が面白かったよな」

「…武器の話、だよな?」
「貴様らは戦国時代を舐めておるのか」

「花輪で戦ってた奴と同じ顔で言われてもな」
「長曾我部殿は碇の槍や釣竿でごさったなぁ。」 

「うん、その絵を描かれても多分使えないかな」 

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邂逅篇完結させないまま先に仲良くなってる設定の話。
思いついちゃったんだからしょうがないよね!

政宗君の絵はみにばさっぽいイメージで。


                               【20101223~20101229;拍手御礼用】