逢いに、自由。 / サスダテ

 

夜。
薄明かりの中、自室の机の前で書を広げていた政宗は、
何かに気付いたように不意に顔を上げた。

「こんばんはー竜の旦那。
久し振り」

すると視線の先の天井から佐助がひょこっと顔を出し、
軽い挨拶の後すたんっと政宗から離れた場所に降りて来る。

「そろそろ来る頃だと思ったぜ」
政宗はにやりと嗤い、迎える。

こんな訪問は初めてではない。
政宗が独りで自室にいる時を見計らい、
佐助が姿を現すのは。

佐助は少しだけ近寄り、 手を伸ばして
「はい、真田の旦那からのお手紙」
と差し出した。
政宗は躊躇わずに受け取る。

この期に及んでは小細工などしていないだろうという、
信頼とも取れる判断で。

「虎のオッサンの文は届けに来んのに
自分の用事は文にしてアンタに託すんだな」

言いながら文に目を通す。
目に飛び込むのは、
相変わらずの熱血が透けて見えそうな豪快な文字。

「旦那、あれでいて奥ゆかしいのよ。
大将からのアンタへの文の届け役は買って出てるけど。
つかむしろ誰にも譲る気ないみたいだけど。」
「それは、奥ゆかしいのか? 」
政宗は首を傾げた。

文にしたためられている内容も単純すぎて、
逆に深読みをするべきだろうかと最初は首を捻ったが、
面倒なので額面通りに受け取ることに決めた。

直ぐに紙を広げ筆を取る。
その場で返事を書き上げることは常であり
佐助も弁えていて大人しく待った。
「奥ゆかしいじゃない。
本当は直接逢いに来たいところを 文だけで我慢するなんてさ」
口はまるで弁えを知らないようであるが。

「あいつも、
虎のオッサンに遠慮しねーで少しぐらいは自分で動けば良いのによ。
うちの小十郎を見倣え、とまでは言わねーが」
「そーいうこと、もっと言ってやって言ってやって。
旦那、アンタの言葉なら聞きそうな気がするし」
「ah? 何を根拠に」
政宗は手を止めず、振り返りもしないで尋ねる。

佐助はへらりと笑った。

「だって真田の旦那、アンタに惚れちゃってるし。」

べちゃ。

政宗は苦々しく目の前の黒い染みを見つめた。
「筆を傷ませるよーな事軽々しく口にするなよ」
「えー? だって、
文の頻度とか
鍛練中はアンタの事を想いながらとか
アンタとの本気の手合わせ楽しみにしてるとか。
惚れてるとしか思えない症状でしょ?」
「…そういう意味なら相思相愛だな」

書き損じを丸めて机の隅に置き、新しい紙を用意する。
佐助はその様子をじっと眺め続けた。
見えない表情を透かしてみようとするように。

「竜の旦那も、やっぱ真田の旦那に逢いたい?」
そろりと、静かに問う。
「ah、頻繁には御免だがな。
執務に差し支える」
その応えに、佐助は薄く微笑む。
「竜の旦那って意外と真面目だよね」
「意外とは余計だ。
ま、その分partyは存分に楽しんでるぜ?」

政宗の言うところの「party」が戦の事だと言うことを、
佐助の中では既に自動変換されるようになっていた。

「国主様は大変だね」

心から同情しているようなしみじみとした声に、
政宗は筆を置いて佐助の顔を観た。

そしてて笑う。

「その点アンタは良いよな。
逢いたい奴に逢いたい時に逢いに行けるだろ?」

「そうでもないよ〜。
こう見えてお仕事忙しくって。
人使い荒いのようちの上司。」
「なんだ。逢いに行きたい奴がいるのか」
「何今の誘導尋問?
…今のところは、ないかな。うん」
「ham?」
「なにその反応。
てかさ、竜の旦那もそんな風な羨ましがり方するってことは
誰か逢いに行きたい人でもいんの?
やっぱうちの旦那?」
「その『うちの旦那』って言い方、
真田幸村の女房みてぇだなアンタ」
「真顔で冗談言わないで?!
俺様嫌だよ? 公私とも旦那の世話するなんて!」

本気で嫌がっている素振りの佐助を面白がり、
政宗は言葉を重ねた。

「今だって似たような境遇なんだろ?」
「まるで違います!
大体俺様は…」
「『俺様は』?」
「…っそれより質問の応え!
まだ聞いてないよ?」
下手な誤魔化しだとわかっているが、
政宗は笑みをたたえたまま応える。

「ah?
…逢いたいのは真田幸村じゃねーし、
今んとこ自分から逢いに行く必要もねぇ。
一月と空けずに向こうから逢いに来てくれてるからな」
「………」

くるりと身体を反転させ再び机に向かう政宗の背中を
佐助は大きく開いた瞳で凝視した。

まさか。けれど。
そう思いながら、
「俺としてはもっと頻繁に逢いたいけどね。
仕事抜きで」
本音が口から零れ出ていた。

聴こえるか聴こえないか。
そのぐらいの声量だったのに、
政宗は弾かれたように振り返った。

「right!
アンタの上司にそう頼んどいた」

満面の笑みを浮かべて。

「へ?」
「そもそもの文がアンタをこっちに寄越す口実だったらしいから
アンタが自己主張しさえすれば好きな時に来られる筈だぜ?
…Ah、まあ、平和な時限定だが」
「文が、口実?
あの、何言って」

手を挙げ「ちょっと待って」を表したまま混乱し、顔を引きつらている佐助に
政宗は苦笑した。

「説明が面倒だな。
読め」

放るように渡されたのは
今回佐助の主、真田幸村から託された文。
自分が読んで良いものかと躊躇う佐助を
政宗は鋭い眼光で早くしろと促す。

仕方なく
「御免旦那、失礼」
とこの場にいない人間に謝りながら内容を確かめる。と。

「…なにこれ。
俺様についての報告書みたいになってるんですけど」
「書き方はなっちゃいないがな」
「なんでこんな」
戸惑う佐助に、政宗は淡い笑みを向けた。
今夜の政宗はやたらと機嫌がいい。
ずっと、笑みを隠さずにいる。

「恋愛ごとに一番疎そうなアイツが アンタの気持ちに気付いたらしいぜ?」
「…それって」
「ま、恋愛事だとは気付いてない可能性の方が大きいがな」

一番最初の文には
「佐助がやたらと政宗殿の事を口にするので
そちらに向かわせる用事としてこのような方法を思い付きました。
不快に思われたら申し訳ない。
ですが、是非、佐助の相手をしてやっていただきたく」
と書かれていた。

新手のJOKEかとも思ったが、
戦の予定もなく精神的に暇を持て余していた政宗は
その場で了解した旨の返事を書いた。

政宗も、佐助を気にしていた。

政宗への使いを終えた後の佐助は充実した様子で仕事をこなすが
暫くすると充電が切れたかのように苛つき、集中力も欠け、物憂げになる。
任務には支障のない些細な変化であるが
長年視てきていた幸村にはそれがわかったらしい。

奇妙な文通の正体は佐助の政宗成分補給の為のものであった。

「なにそれ恥ずかしい…!」

わっと大仰に両手で顔を覆う佐助の頭に―赤茶色の髪の毛に、
政宗はそっと唇を落とす。

「っ竜の旦那、今…」
「恥ずかしがるより先に、
アンタは真田幸村に感謝するべきだ。
…俺もだが」
「独眼竜、旦那と相思相愛って」
「YES、rivalとしてな。
重ねた逢瀬で、俺はすっかりアンタに夢中だ。
you see?」

佐助が訪れた翌日は
側近である小十郎が目を見張るほど全てが捗った。
そしてその気力は日が経つにつれて萎んでいく。

それはおそらく目の前の男と同じ病だ。

「この際恥は棄てて幸村に頼んで逢いに来い。
…俺のためにも、な。
OK?」

惚れた相手からはにかんだ表情でそんな風にねだられ
断っては男が廃る。

佐助は抱き締めることで快諾を表した。

以来、佐助が奥州を訪れる頻度が上がり幸村からの政宗宛の文の数は減った。


暫く後、
逢瀬の後政宗が気持ちの上では充足していても
身体が付いていかない事態になる。

そしてそれにより二人の関係が発覚し
小十郎にとのいさかい勃発するのであった。


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短く纏めるつもりだったんだが…長くすれば長くなる話でもあったけど。

折角サスダテサーチに入れてもらってるので
ちゃんとしたサスダテを書こうとしたのに
ほぼ佐助→←政宗になった。くっつくまでの過程が好きです。

題名は「あいにーじゅう」です。自分で解説するの恥ずかしい。

                                         【20110109】

多分アニメ設定。