反響絢爛;初期

 

慶次が週刊少年漫画雑誌で連載を始めて直ぐ。

同じ学校に通っている政宗と幸村は、
案の定周囲に騒がれていた。

朝、学校に来る途中のコンビニエンスストアで
本日発売の雑誌を買ってきた政宗の級友は
教室に入るなり、朝の挨拶への返事もそこそこに政宗に詰め寄った。

「なあ、この主人公お前にそっくりじゃねーか?!」

興奮気味に目の前に差し出された雑誌の表紙には、
新連載の主人公の姿が美麗に描かれている。

三日月の前立てのついた兜に蒼い装束をまとう、隻眼の戦国武将―
伊達政宗の姿が。

「ah? そうか? 俺の方がカッコいいだろ」
「そういうところも似てるなー」
既に読んだらしい別の級友も話に参加してくる。

「それに、ライバルの真田幸村も隣のクラスの幸村そっくりだぜ」
「あいつ、知んねーけどお前の前になるとこういう喋り方になるよな」
「二人とも名前同じだしな!」
「偶然だ」

妙な迫力で低い声できっぱりと告げられ、
級友達は逃げ腰になる。

「そ、そーだな。
戦国ファンの親なら付けてもおかしくない名前だしな」
「けど面白いなこの漫画。
キャラクターもだけど内容も」
「ああ。
こんな歴史だったら面白いだろうな」

似てる似てないの話を横に置き漫画を誉め始めた様子に
政宗の纏う空気は軟化した。

「…hum」

「あれ? なんか喜んでね?
あ、もしかして描いてる人と知り合いか?
そんでモデルにされたとか!」
「……NO comment」

そのまま不機嫌そうにだんまりを決め込んだ政宗から
級友達はそろりと離れて行った。

どうやら幸村の方も似たような感じだったらしく、
下校時に顔を合わせると
その足で慶次の仕事場に向かう話になった。

場所は、
慶次が京都から引っ越した直後の祝いのパーティで一度訪れているので知っている。
幸村の方は、朧気にであったが
政宗がしっかりと覚えていたので大事なかった。  

「慶次殿〜!」
「政宗! 幸村も!
よく来てくれたね」

アシスタントの要らない作業中らしく、
広いマンションの一室に独りでいた慶次は
二人の来訪を本気で歓迎した。

慶次の漫画はある意味ノンフィクションである。
記憶を共有している人間がいてくれることで 「正しい」物語を紡ぐことが出来ると
二人の存在を大層重宝していた。

加えて、周囲の顔触れもモデルとしてかなり助かっている。

「アンタの漫画が始まっちまうと
少しばかりは騒がれるんじゃねーかと思っちゃいたが
実際なってみると腹が立つな」
「なんのこと…
あ、今日が発売日か!
もしかしなくても二人とも、
囲まれたりしたのかい?」
「もみくちゃでござる!」
「ははっ。嬉しいねぇ!」
「喜んでんじゃねぇ。
ここに来るまでにもやたらちらちら観られてた気がしたし
こちとら良い迷惑だ!」
「そうでござったか?
政宗殿は美男子であられますから
いつものことかと思っており申した」

真顔でそんな事を宣う幸村は無視し、
政宗ははぁ、と溜め息を吐く。

「暫くは一緒にいねー方が良いかもな。
…小十郎とも、か」
「政宗殿?! なにを申されるのです!」
思いがけない言葉に幸村は慌てた。

「独りの方がまだ目立たねぇだろ。
顔を知られてる学校はともかく
落ち着くまで、テメェと一緒には外を歩きたくねぇな」
「そう、ですか。
淋しいでござるなぁ」

しょぼんとする幸村に苦笑しつつ、
慶次はその展開に
「元就のしてやったり顔が瞳に浮かぶよ」
嫉妬深い政宗の恋人の顔を思い浮かべた。

「しょげるなよ幸村。
人気が出なくて早々に打ち切られるよう祈ればいいだろ」
「政宗っ?!
縁起でもないこと言わないで!」
「それはそれで悔しいでござる」

なにせ自分達の物語なのだから。


そして三人の預かり知らぬところで
「独眼竜?
…この話の作者、まさか慶次か?」

「…このような作品が世に出る、だと?
……秀吉様……!」

二人の若者が過剰に反応していた。


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書きそびれてましたが幸村と政宗はクラスは別です。

最後の二人が参戦するかは未定。


                       【20110113~20110121;拍手御礼用】