触れたい衝動 /  家政

 

 

さてどうしたものか。

それなりに呑んでいる筈なのに全く酔っていない自分に嘆息しながら
目の前の光景を眺める。
あれは果たして止めるべきか否か。

「どっ、独眼竜!
ワシはもう小さくはないんだ!
ここここここんなに密着してはいかん! いかんぞ!」
「いーじゃねーか減るもんじゃねーんだし」
「そういう問題ではなくてだな!」

伊達と徳川の同盟が成り
そのまま主たる武将を集めての
親睦会と言う名の宴会に雪崩れ込んだ。

機嫌好く杯を重ね微酔い気分の政宗様が
主賓である徳川家康に身を寄せている。

明らかな絡み酒で、
さぞや迷惑がるかと思いきや
言葉では拒絶しているもののにやける表情は隠しきれていなくて、
「………?!」
徳川家康の護衛を兼ねている戦国最強も
間に入って良いものか困惑しているようだ。

しかしいくら大広間とは言え
このような場でも完全装備なのはどうか。
否、自分も含め戦装束のままなのだが。
政宗様は、さすがに兜は脱いでいらっしゃる。

逆であるならば直ぐにでも引き剥がすのだが。
政宗様の機嫌を損ねるのも巧くない。

「でかくなって筋肉ついちまったから
温かくなくなっちまったかと思ったらまだ温いな。
雷から光に変わったからってのもあんのか?」
「ど、独眼竜?」
「あったけぇ…」
うっとりと。
声も表情も倖せそうだ。いい酒のようで何より。

邪魔するのも悪い。
こちらはこちらで手酌で呑み続けることにしよう。
旨い。
つまみの幾つかは政宗様の手製のもの。
絶品だ。
さすがは政宗様。
意識は政宗様に向けたまま酒と食事を堪能する。

湯湯婆代わりにしていると言うことはおそらくそろそろ限界か。
昼間は大分暴れられていたから大層お疲れで酔いの回りも早いだろう。
完全に潰れられる前に連れ出した方が良いだろうか。

「炎の奴等は熱いぐらいだがアンタは丁度良いな」
「………っ?」

家康はとうとうこっちを観た。
解説を求められているようだが。

「真田と長曾我部あたりの事だな」
「それはわかるっ!
ど、独眼竜は真田や元親にもこんな感じで擦り寄ったりしたのか?!」
「アイツらはあっついからここまではくっついてねぇ…」
むにゃむにゃ。
口の中で喋る形になられている。
たが疑問にきちんと応えておられる。さすがだ。
ならば俺が口を挟む必要もあるまい。
箸を進める。

「でもだから、いればよかったのによ。
家康のかいしょーなし。
真田の阿呆はともかく、
何で西海の鬼が仲間じゃねーんだよ。
親友じゃなかったのか?」
「ワシはそう思っていたが…
元親の事だ。何か理由があるんだろう」
親友ならばむしろそこはもっと気にかけるべきじゃねぇのか?
「どっちかだけでも
いるだけであったけぇてのに…」
暑苦しい、の間違いかと。
む。酒が空だな。

「片倉殿っ!
そもそも独眼竜はなんでこんな事になっているんだ?!
調子が狂って困る!」
「…困るのか」
しょんぼり。
政宗様が哀しげな表情で
ずっと家康の肩に掛けていたするりと腕をほどいた。
「困る、だと…?」
ギロリと睨みつける。
政宗様を傷付けるのならば傍観は出来ん。

「いや、その、
昔も似たような事をされたが
あれはワシをからかっていたのかと!
しかしこの状況はっ」
「政宗様は極度の寒がりでな」
「は?」
「だから昔のテメェを気に入ってたんだ。子供体温みてぇだ、ってな。
ひっついてたのはそれだ。
テメェが豊臣の配下になってからは真田や長曾我部で試したらしいが」
「なっ?!」

なにやら嫉妬にかられたような表情になる。
傍にいなかったテメェが悪い。

「アイツらはそれ程近寄らなくとも済んでいたな」
「火鉢がわりか」
「テメェも似たようなもんだ」
「………」

家康は政宗様を複雑な表情で見つめた。
大人しい、と思ったら健やかな寝息をたてられていた。
とうとう撃沈なされたか。

「片倉殿。独眼竜を」
「迷惑じゃなければ今夜一晩政宗様の湯湯婆がわりになってやってくれねぇか」
「っ?!」
「今夜は冷える」
「そっ、それはまさか一緒に寝ろと…っ?」
「そう言っているんだが」

家康は変な顔をしてこちらを見た。

「……片倉殿」
「何だ」
「もしかして片倉殿は…強かに酔っているのではないか?」
「、」

応えようとして、
視界と記憶が暗転した。


翌朝、
何故か政宗様は家康殿と同じ部屋にいらした。
互いにやたらと意識しているように見えたが…

否、深く考えるのは止めよう。


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以上、酔っ払いのモノローグでした。

超えたい昨日の続きかもしれない。繋がってないかもしれない。
筆頭はあの装備からして暑がりではなさそう。

                                       【20110125】