愛トカこんなもの。

 

手っ取り早く信者を増やそうと考えたザビーは、
部下達に大層慕われていると噂の伊達政宗をスカウトするべく
遥遥遠く奥州まで足を運んだのであった。

「ドラゴンを仲間にするヨ!」

政宗に目通りしようと摺上原を訪れたザビーは
伊達軍の兵士達に行く手を阻まれた。

「?! なんだコイツ?!」
「良くわからねぇが
筆頭のところへ行かせはしねぇ!」
「ノーウ。争いに来たのではゴザイマセーン!
ヒットーに逢わせてクダサーイ!」
「うわっ? とか言いながら暴れだしたぞ?!」

両手の武器を振り回し始めたザビーに
兵士達は必死になって応戦するが
あっという間に倒されて進軍を許してしまう。

「おいおい。一体何の騒ぎだこりゃあ」
最深部にいるはずの政宗が
阿鼻叫喚の騒ぎを聞き付け動乱の場に現れた。

「アナタがヒットーですネ?
今日はトテモいい話持って来まシタ。
今ならザビー教の幹部になれますヨ。
アナタ広告塔としてピッタシ!」
「アアン?
何の話だ一体」
呆れた声を出す政宗に、ザビーはグフフと笑う。

「アナタの部下、みんなアナタを大好きネ」
だから政宗が入信すれば労せず部下も全員ゲットできるだろうと考えたのである。
芋蔓式に。

自分の領地を訪れてきた奇異な南蛮人の言葉に
政宗が
「ha、当然だな。
俺からの一方通行じゃ切ねぇだろう?」
と笑うと
「うおおー! 筆頭ー!」
「俺達倖せっすー!」
「一生付いて行きます!」
「政宗様ー!」
「最高っス!」
政宗を讃える伊達軍兵士の声が沸き上がる。

ザビーはうんうんと頷き、
「それに、他の軍の人達もアナタの事好きヨ。
ケツ狙ってるネ」
だから是非入信を、と続けようとしたが
「what? ケツ…?」
「何、だと…?」
首を傾げた政宗と、
いつの間にか現れた小十郎に遮られた。

「こ、小十郎?」
既に極殺状態の側近の様子に、
政宗は何事かと一つ眼を丸くする。

「詳しく聴かせて貰おうか。
政宗様のケツを誰が狙ってるって…?」
「何言ってんだ小十郎? 今のは」
「oh、そりゃあアレヨ、
甲斐のヤングタイガーとか、そのオトモのシノビとか」
「成程な。真田に猿飛か…」
「今ので解るのか」
政宗はうっかり感心した。
「伊達に政宗様の御言葉を聴いてはおりませぬ」
「…そうか」
よくよく考えると微妙に失礼な応えである。

「あとソウネー豊臣のタクティシャンとかヨ」
「! 竹中もか!」
「アイツどっちかってーとお前狙いじゃねーのか?」

「それと、おっかないコレクターのヒトもそんな感じミタイ」
「松永の野郎まで…?!
確かに政宗様を変態的な目で見てやかったが…っ」
「アレもどっちかっつーとお前狙いだと思うぞ。
つか欲しいのは刀だろ?」
「いやはや何とも」
「っ?!」

突然掛けられた背後からの声に
政宗はぎょっとして跳びずさり、
思わず六爪を抜き、構える。

「松永、久秀…!」
小十郎は血相を変え
「噂をすれば、ってやつかい」
政宗は冷や汗を流す。

松永は飄々と、
「いやなに。
刀だけを奪うよりは卿ごと貰い受けた方が
むしろ容易いのではないかと思ってね」
薄く笑い顎を撫でる。

「何を…」
ムッとした政宗が食って掛かるより先に
「やはり貴様が政宗様のケツを狙っているのは本当だったのか!」
小十郎が怒鳴った。
「いや小十郎それってのは」
政宗の言葉が耳に届いていないようで
小十郎はきりりと眼を吊り上げる。
「となれば残りの連中も…」

「って言うか何で俺様も数に入ってたの?
真田の旦那のオマケ?」
「っ?!」
再び背後からした声に
政宗は反射的に手にしていた刀を振るう。

「っとぉ危ないなー」
佐助はそれを大袈裟にひらりと避けて見せた。

「真田の忍! なんで居る?!」
小十郎の怒声に
「敵情視察?」
佐助は疑問形で応える。

「自分の名前出されちゃったゃあ黙ってらんないよね。」
「濡れ衣だ、とでも言いてぇのか」
「まあね〜」
「いやだから」
「なら君は此処には用はない筈だよ。とっとと立ち去りたまえ」
「竹中半兵衛!」

「ああもう次から次へと…」
政宗が額に手を当てて嘆く横で
「千客万来ネー。
皆さんアナタに逢いに来たのネ。
モッテモテ!」
ザビーは何故か楽し気であった。
「アンタが口を開くと頭痛がしてくるぜ」

「豊臣の軍師さんがどうして此処に?」
佐助が固い声で尋ねると
半兵衛はフッと笑った。
「君に応える義理はないけれど特別に教えてあげようか。
勿論、政宗君を懐柔しにだよ。
この軍の統率は素晴らしい」
「おだてたって豊臣になんか降んねぇぞ」
離れた場所から投げ掛けられた政宗の言葉に半兵衛は頷く。

「一筋縄では行かないのは承知の上さ。
…そうだね。政宗君さえ口説き落とせたら話は簡単だ。
ケツを狙うのもアリかもね」
「まさかテメェが政宗様を狙うたぁ…
穏やかじゃねぇな」
「アンタがそんな言葉使うなんて…本気みたいだね」
「卿は自分の主君にしか興味がないとばかり思っていたよ。
実に意外だ」
三者三様の反応に、半兵衛はにりと笑った。

「僕自身が動かなくても
うちにはそれなりに政宗君に似合いの相手は居るんだけれどね。
確かに政宗君は良いよ。実に良い。
加虐心が擽られる…!」
「確かに独眼竜は自らの手で調教したくなる妙な色気を内包しているようだ。
卿もそう思わんかね」
「同意を求めないで?!
俺様さすがにそこまでは―」
「ならどこまでは思ってるのかはっきり言ってみろ!」
「ちょ、右目の旦那! 刀しまって!」

「つうかテメェら、
何でケツ狙うでそこまで盛り上がってんだ?
付け狙うの間違いだって承知の上なんだよな?」

「「「「……………」」」」 

呑気とも言える反応に、四人は黙り込む。 

「はい集合」
一番速く気を取り直した半兵衛は
パンパンと手を叩き招集をかけた。

「ああ。
政宗君はそこの彼と談笑でもしていてくれたまえ」
「そいつは難しい注文だな…」
政宗は隣で謎の動きをするザビーを胡散臭げに観た。

やりとりを聴いていた伊達軍兵士達が
「筆頭、知らないって事は未経験なのか?」
「てっきり真田の兄さんあたりと良い仲なのかと…」
「けどだからこそのあの魅力なんじゃ」
「けど更に経験しちまったら
色気が半端なくなっちまうんじゃねーか?」
とこそこそと囁き合っているのは聴こえない振りをする。
色んな意味で哀しくなるからだ。

残りの面子は円になり顔を突き合わせる。
「つかなんでアンタの指示に従わなきゃなんないのさ」
「しかし確かに話し合いは必要のようだ。
竜の右目。卿は独眼竜にどのような教育を施して来たのだね?」
「あれは話していた内容をまるで理解していない様子だね片倉君?」

「政宗様にそんな知識は必要ねぇ」

「…こういうのに狙われてるってのに?」
「指を指しながらのこういうの呼ばわりとは心外だ。
卿とて似たようなものだろう」
「俺様はあんたら程変態的じゃないって!」
「随分と失敬だね。
そしてとうとう認めたようだね、猿飛君?」
「…っ!
お、俺様は竜の旦那の事は嫌いになったの」
「それはそれでブッ殺す」
「どーすりゃいいのさ?!」
「政宗様に平伏せ」
「なんで?! どんだけ横暴?」
佐助は小十郎の無茶な物言いに突っ込み疲れ、はあ、と息を吐く。

「…にしても、あの様子じゃあ
破廉恥破廉恥言ってる分うちの旦那の方が理解できてるって事か…」
自然と、全員の視線が政宗に注がれた。

「よもや独眼竜が生娘の如く初だとはな。
しかしそれで合点もいこうものだ。
戦場に於いてしか発散する術を知らぬわけだな。
其故の戦ぶりなのであろうが」
独り呟くと、
松永は輪を離れついっと政宗の間近に迫った。

「っ?!」
政宗は身を固くする。
その様子に松永は酷薄めいた笑みを湛えた。

「そう構える必要はない。
私は卿が知らぬ知識を与えようとしているだけだ」
「俺が、知らない…?」
「男が男にケツを狙われる事の意味をだよ」
「っ?! なに…」
松永は政宗の耳許に唇を寄せた。

「あの野郎政宗様に!」
それを観ていた小十郎はたまらず駆けつけようとする。
「まあ待ちたまえ。」
半兵衛が見た目によらぬ強い力でその腕を掴み、止める。
「彼も自己防衛の為にはきちんと知っておく必要があるんじゃないのかい?」
「知らなくとも政宗様は警戒心がお強い!
むしろそのような事をお知りになられては反応が読めねぇ!」
「確かにね」
知らないからこその受け流しが
知ってしまえばどういう事になるのか。
佐助は気になり政宗の表情の変化をじっと眺めた。

詳しい話を聴かされたのか険しかった顔がボッと朱に染まる。

「っんなとこにんなモンが入るはずが…!」
「卿が知らぬだけでそういう交わりは今まで数多く為されてきたのだよ。
この国の歴史の中でも脈脈とね。
無理な事ではない」
「んな事…!」
「信じられないならば試してみるかね?
卿はとても素質がありそうだ。
なに、最初は違和感があろうが
直ぐに初めての快感に打ち震えるようになること受け合いだ」
「……っ」
「大丈夫。初めは優しく教えて進ぜよう。
難しいことは徐徐に。
…その気になったかね?」

松永の手が政宗の腰に伸び、
そのまま尻を撫でようとするのを
「閃!」
小十郎の一閃が遮った。

政宗はハッと我に返る。

「こっ、小十郎!」
「政宗様っ! 惑わされてはなりません!
どうしても経験してみたいと仰るのであれば、
不肖この小十郎がお、お相手致しますれば!」

「…片倉君。
それは忠義なのかい?」
「右目の旦那…ムッツリだよね…」
半兵衛と佐助が呆れた声を出した。
どもるところが本気を表している。

「あ、あくまで政宗様が望まれたら、だ!」
「小十郎…」
「…政宗君」
惑う政宗に、半兵衛は近付きながら嘆息する。

「そんなに誘惑に弱くてこの先大丈夫なのかい?
敵ながら心配になってしまうね。
なんなら僕が教えてあげようか?
手取り足取り腰取り、ね」
「テンメェ…」

優しく微笑みながらも言葉は政宗の台詞を拝借したものだ。
政宗は怒りに顔を歪める。

「皮肉か?」
「どうとでも。」
「アンタなんかに教えられるなんざゴメンだね」
「そうかい。残念だ。」
なら力づくか、と口の中で呟いたのは、
政宗には聴こえなかった。

「ah、何か随分と脱線しちまったが、
そこのアンタ。
結局何しに来たんだ?」
「………」
「…おい?」
話しかけても心ここにあらずな様子に政宗が焦れると
ザビーはハッとして、
「ごめんネ。芋蔓式について考えてたヨ」
と謝った。
「いも?」
小十郎がぴくりと反応したが政宗は黙殺した。

「ヒットー、トテモ人気者。
ケド、ちょっと困った人達にも好かれてて
スカウトしちゃうとくっついて来ちゃうかもネ」
「アアン?」
「一気に増えるとザビーの手にも余っちゃうかもヨ。
大事なのは愛ですからネ!
ので、ひとまずバイナラ〜」
「お、おう?」

嵐のような来訪者は風の如く去っていった。
遠くで「ラーブアーンドピィース!」と叫んでいるのが聴こえる。
怪しすぎる人物の退場に、
思わず挙げた手をそのままに
「…良くわかんねぇが、
厄介は免れた、のか?」
政宗は呟いた。

「竜の旦那ー。現実逃避はやめようや。
厄介ならまだここに居座ってるよー」

背中に声が掛かる。
正直そちらを振り向きたくない。
政宗は不意に気付いた。
やりとりを思い返してみるに。

「猿飛」
「へっ?」
政宗に名前など呼ばれた事がない佐助は
呼び掛けに驚く。

「優秀な忍だってんならこの窮地から脱出するのはお手のもの、だろ?」
「……。
なかなか面白い事言うねー」
佐助は政宗の言わんとすることを正確に受け取った。

「政宗様っ!」
小十郎が制止したが、
佐助は直ぐに目にも止まらぬ速さで政宗を拐い、
その場から姿を消す。

「少しばかり追い詰めすぎたかな。
独眼竜浅はかな」
「彼も僕らの同類だって、聴いていただろうに」
「まっ、政宗様ー!」
小十郎は政宗を心配する余り絶叫した。

佐助は政宗を小脇に抱えたまま黒い鳥に掴まり空を飛んでいた。

「ほとぼり覚めるまで匿ってあげようか」
「甲斐にか?
遠慮する」
「ま、そうだよね。
けど、今回の俺様の働きにちゃんと報酬払ってよ?」
「…今は手持ちがねぇぞ」
「あるじゃん」
「は?」
「その身体が」
「………っ?!
テメェ…っ?」
「いっやあ初めてが真っ昼間の外とかちょっと興奮しない?」
「しねぇ!」
「ま、そうだよね」
「……?」
「安心しな。
アイツらと違って身体だけを目当てにはしないからさ。
ちょっとだけ散歩に付き合ってよ。それで充分。
陽が暮れる前に送るからさ」

いつになく真面目な表情と声に
政宗は逆にふっと力を抜き
柔らかく微笑んだ。

「OK、dateと洒落込むか」

こうして伊達政宗は、
ほんの少しだけ愛の何たるかを学んだのであった。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

長いけど分ける話じゃねぇよなーってんで無理矢理まとめました。
基本2(のザビー話)だけど外伝の人もいる。

ドSっぽい人を揃えてみたよ。
結果一番マトモそうなサスダテに落ち着いた謎。

明智さんを出したらもっと収拾付かなかっただろうな…

                                  【20110128】