邂逅絢爛 ; 後篇

 

連絡を受け、慶次は指定された待ち合わせ場所へと赴いた。

駅に近く人が溢れるその場所で
待ち人がどこにいるかと視線を巡らせ捜す必要はなかった。
際立って目立っている二人組がそうだと、 直ぐにわかったからだ。

慶次は懐かしさに顔を綻ばせながら近付く。

「独眼竜…
それと、真田…幸村、だよね。
久し振り…で良いのかな?」
政宗は慶次の現在の姿に少し驚いたようで、
一瞬眸を丸くした。

「ああ。
前田の風来坊…だな?
久し振」
「か、髪がないでござる!」

冷静に応じる横でそれを遮る大声を上げ仰け反る幸村に、
政宗は他人の振りをしたくなった。
今までずっと一緒に居たのだから
それは到底無理な事だとわかっていても。

政宗と幸村が驚いたのは、
慶次の髪が昔ほど長くないからだった。
伸ばせば職業柄邪魔になる。
結べば良いにしても、昔と同じ長さでは扱いづらい。

故に、幸村の言葉通り、尻尾部分がばっさりとない。

記憶は継いでいたが、もとから同じ髪型にするつもりはなかった。
だが、男にしては長い方だ。
肩口にかかるかかからないか位の長さの政宗の髪よりも若干長い。

その髪型が、慶次を今時の色男然とさせていた。

「あるよ?!
ってか人の事言えないよね?!
幸村だって良く見たら尻尾ないじゃん!」
「尻尾ではござらん!」
「犬の尻尾がなくなってようが馬の尻尾が短くなってようがどうでも良い。
…これ以上騒ぐんなら俺は先に帰るぜ」
「申し訳ござらん政宗殿見捨てないで下され!」
「ゴメン独眼竜帰らないで!」
「…アンタらわざとか?」

二人がかりで拝み倒され
政宗が一番目立つ形になった。

悪目立ちに機嫌を損ねた政宗は無言で歩き出す。
二人は慌ててその後を追った。

周囲に他に人が居なくなった辺りでようやく政宗は二人を振り返り、
慶次をじっくりと眺める。

「アンタ、今風になるとチャラいな」
「チャラいでござる」
幸村も慶次の隣で頷き同意する。
貶されているような言われ方で、慶次は眉を下げる。
少なくとも誉め言葉ではないだろう。

「昔は傾き者で通ってたのにな。
政宗は今でも伊達男だよね」
「……そうか?」
「しんぷるな中に遊び心を入れるお洒落が憎いでござる」
「…んな真面目に評価しなくて良い…」
きりっと無駄に真剣な表情でコメントをくれた幸村に
政宗は照れ隠しのように嘆息した。

「取り敢えず落ち着いて話ができるとこに行くか。
…積もる話があるんだろ?」
そう提案した政宗が向かった先は、
「だから何故我の家を会合に使うのかと問い詰めたいのだが」
自分の恋人である元就の自宅だった。

玄関口で、能面のような表情のまま
元就は腕を組んで訪問してきた三人組を冷たく睨め付ける。

「ま、アンタの仕事のない時間を狙ってる分
気を遣ってんだろ」
「目の届く範囲で、にしたんじゃない?
ナリさん嫉妬深いしねー」
先に連絡を受けていたのか、何故か隣に居る悪友二人の言葉に
元就は更に不機嫌になる。

「何の事だ」
「…そろそろ自覚持とうよ。」
「ああ。
とばっちりを喰らう政宗の為にもな。」

そんなやり取りを繰り広げる横を何食わぬ顔で通り抜けて居間へと向かう政宗に
幸村と慶次は三人をちらちら気にしながら続く。

「瀬戸内の二人と忍のお兄さん、だよね?」
「名前と風貌は同じでござるが
あの方々には記憶はござらぬ」
「俺も全部の記憶がある訳じゃねーしな」
幸村の言葉に政宗が補足する。

「独眼竜?
…っと、今は政宗って呼んだ方が良いのか。
小太郎も記憶がないみたいだったし
あの三人もそうなのは納得するけど、
…全部の記憶がある訳じゃない、って?」

「…いい加減説明すんの飽きてきたな…」
げんなりとそう言いながらも、
政宗は律儀にわかりやすく説明した。

「独眼竜がこっち来てたなんてね〜
逢いたかったな〜」
「同感にござる」
「逢えなくて良かったと思うがな。
アンタらと会話してたら面倒が起こったに決まってる」
「酷いな!」
「あんまりでござる!」
「政宗さんが混乱するだろうが」
「ああ…それもそうだね」
「うむ…確かに自分を抑えられていた気が到底致しませぬ」
「…納得してくれて何よりだ。」

そしてその後、
政宗と幸村は慶次が描こうとしている漫画の事を聴かされそれの取材協力を要請されて
幸村は積極的に、
政宗は消極的にそれを請け負うこととなった。

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 この後の話ばっかり書いて長らく放置してた慶次参入篇完結。
アッサリでいいんだあっさりで。

                                    【20110210】