想い募る積もる / 風魔×政宗

 

 

「…………」

寝間着を身にまとい、
そろそろ眠りに就こうとしていた政宗の元に
黒い影が音もなく現れた。

政宗はその姿に少し驚き、
直ぐに柔らかい笑みを浮かべる。

「久し振りだな、風魔」
「…………」
横になろうとしていた政宗は
身を起こし、小太郎の方へと身体を向けた。
小太郎はその近くに寄り、膝をつく。
視線を合わせるために。

政宗は手を伸ばし、小太郎が被っていた兜を外した。
ただでさえ言葉を返してこない相手だ。
表情ぐらいは見たい。
ほぼ、動かないと知ってしても。

小太郎は政宗の好きにさせた。
このような関係になってからというもの、
政宗に対してのみ、政宗の手によって、
素顔を晒す事が常となっていた。

政宗は大事そうに小太郎の兜を枕の横に置く。

「今回は随分御無沙汰だったじゃねぇか。
厄介な仕事だったのか?
アンタの事だからヘマして怪我なんてのはしねぇだろうから
心配はしてなかったけどな」
「…………?」
重ねされていく言葉と声の響きに
小太郎はどこか違和感を感じ取った。

政宗は戸惑うような小太郎のその反応に
すうっと表情を曇らせる。

仕事の為か職業柄か、
尋常でない程の勘の持ち主に取り繕うなど無意味だとわかってはいた。

だが、口に出すのは憚られた。
だから視線を反らし歯切れ悪く呟く。

「…悪い。嘘だ。
心配してた。
…アンタはもう来ないんじゃないか、ってな」
「…………!」

こんなのはただの思い過ごしだ。
そう思ってはいても政宗は自分の中から不安を拭えずにいた。

むしろ姿を見せない日が続くほどに募るばかりだった。

「アンタは優秀な忍だからな。
アンタの方から来るのを止めちまえば
俺から逢いに行くなんて難しいだろう。
だからこんな風に間が空くと不安になっちまう。」
「…………!」

微かに動揺を見せる小太郎に
政宗は左目を細める。

この事を白状するのを躊躇ったのは、
小太郎が自分を責めかねないと懸念したからだ。
だから言葉を加えた。

「アンタのせいじゃないさ。俺が弱いだけで。
今だって、
俺がアンタを求め過ぎた挙げ句の夢なんじゃないのかって思っちまってる」
「…………!」
小太郎は反射的に手を伸ばし、
政宗を腕の中に閉じ込めた。
その不安を払拭させるために。

政宗は小太郎の肩にことんと額を乗せる。

「ああ。
そんなにきつく抱かなくてもいいぜ。
アンタが幻じゃなく、ちゃんと居るってわかってる」
「…………」

身体を委ねたまま、
体温の心地好さに瞳を閉じる。

「…俺が女だったら
もっと堂堂と
アンタをきっちり繋ぎ止められていられるのかもな」
そんな詮方なき事をぽつりと溢してしまったのは
こうして受け止めてくれている小太郎に対しての甘えからだったのかも知れない。

「…………」
小太郎は少し身を離した。
「………風魔?
っ!」
両手で顔を固定し、
噛み付くように口づける。

「…………」
舌が絡まる。
激しい接吻に、政宗は思わず小太郎の腕を掴んだ。
自由を求めるように。
避けたい訳ではなく、もう少し余裕が欲しかった。

小太郎は従うように政宗を解放する。

そして
「っは、ふ、うま」
潤んだ瞳で自分を見つめてくる政宗の
「…………………」
着物の合わせから手を滑り込ませた。

「あ、んた…
っあ、」
平らな胸を弄り、
「……………」
「言いたいことはわかった、っけど、
っは、〜っ?!」
更に、
空いた手で脚の付け根にも触れる。

反応を示していることを知られ恥じらう政宗の手を取り、
お返しにとばかりに自分のそれに触らせる。

「…………」
「…ああ。
アンタもこんなに俺を求めてくれてたんだな。」
「…………」
無表情な筈の小太郎が微笑んだように見え、
政宗は笑い返す。

「悪ぃ。
まぁ俺も自分で言っててどうかと思ったけどな。
俺が女だったらアンタを諦めちまってた可能性の方が高いしな。
アンタ、高嶺の花だから」
「………?」

意味がわからないと首を傾げる小太郎に
政宗は自分から抱き付いた。

「最初はアンタに応えて貰えるだけで嬉しかったんだ。
これからはもう少し我慢する。
強くなるように努力するさ。
アンタを困らせたくない」
想いに押し潰されて愛情を疑うなんて、もう二度としない。
と殊勝なまでの誓いを囁く政宗に
小太郎はきゅっと唇を噛んだ。

「…………」
「風魔?」
「…………!」
「アンタなに決意しましたみたいな表情…
っあ、待、て…っ小太郎…っ!」
「…………」

小太郎は素早く政宗の眼帯を外すと
自分の兜に掛け
性急に掻き抱いた。



それから。

「いやまあ確かに俺が
アンタが仕事であんまり来てくれなくて淋しい
みたいな事を言っちまったたが、
…任務中にわざわざ寄ってくれなくてもいいんだぜ?」

見た目は一糸乱れぬ姿であっても、
薫りは誤魔化せず
三日と空けずに政宗の元を訪れてるようになった小太郎からは、
いつも血や火薬の臭いがしていた。

政宗にも嗅ぎ慣れたものであるので
それそのものは気にはしないが
無茶をさせてしまっているのでは、と後ろめたく思う。

しかし、
何も言葉にしないため政宗は知る由もなかったが
小太郎は
自分の慾望のおもむくま行動しては政宗に負担を掛けてしまうのではないかと
かなり遠慮していた。

優秀な忍である小太郎は、
任務中であろうと奥州を訪れる時間を作ることなど雑作もなかった。

赦された、というか望まれているならば、との大義名分が出来、
小太郎も我慢する必要がなくなったのだ。

そして時間が惜しいとわざと臭いを落とさずに来ると

「この時間だし、アンタなら家人が来ても姿晦ませられるだろうし
……一緒に風呂、入るか?
良かったら、だけど」
という特典が付いてきた。
「……………」

政宗はだから、何一つ落ち込む必要はなかったのだった。 
 

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ちゃっかり風魔さん。

拍手用に会話だけの分を置いていたけれど筆頭の独り遊びっぽくなっちゃったので
地の文を追加。

他の拍手文は相手が「政宗が女だったら」的な事を言い出していたのだけれど
風魔さんは喋らないので筆頭が言う羽目に。

                【20110308~20110310;拍手御礼用/20110310;加筆修正】