愛より蒼し / 元親×政宗

 

暦の上では春であったが
まだ寒い日が続く奥州。

四国の長、長曾我部元親が先触れもなしに訪れてきたため
奥州筆頭である伊達政宗は急ぎの執務だけを手早く終わらせ
それを迎え入れた。

私用だから、
と政宗の私室で二人きりで雑談をしている中で耳に届いた言葉に
元親は眼帯に隠れていない右目を瞬かせる。

「アンタ今、破廉恥したいって言ったか?」
「ah?
俺がんな事言うわけがねぇだろ」

政宗は左目を細める。
どこぞの熱血戦馬鹿でもあるまいに、
破廉恥などという言葉なんざ使いやしないと。

だが元親は引き下がらない。

「けどアンタ、さっき確かに
『そろそろ破廉恥したいんでーの時期か』とか呟いてたぜ?」
「はぁ?」

政宗は首を傾げたが、
自分の発言を振り返り、思い至る。
「…ああ、バレンタインデーの事か」
確かにそれならば口に出した覚えがある。

「異国の行事の名前だ。親しいやつらに贈り物をする日らしい。
その日は俺が城の連中に簡単な菓子を作って振る舞ってるから
早い内から準備が必要なんだ」
だから思わず口にしてしまったらしい。

そう説明してやると元親は苦笑した。

「なんでぇそうだったのかよ。
俺はまたてっきりアンタに発情期でも来ちまったのかと」
「人を犬猫みてぇに言うんじゃねぇ。
大体んなコトする相手なんざいねぇよ」
「そうなのか?
アンタ、モテそうだってのによ」
「モテる?
俺がか?
まあ、国主やってるんだから近付こうとする奴はいてもおかしくはねぇが」
「そうじゃねぇって。
…右目の兄さん、アンタのことえらい箱入りに育てたんだな」

元親は参ったな、と頭を掻きつつ、
こっそり有り難くも思う。
つまりだから今の今まで誰のものにもならなかったのであろうと。
この天然の交わし方で。

ならば攻略方法は簡単だ。

元親は正面から政宗を見つめた。
互いの片目が丁度良い位置で、視線が絡まり合う。

「アンタ自身が魅力的だ、っつってんだよ。
破廉恥な事をしたくなるぐれぇに、な」
真っ直ぐ、飾らない言葉で口説けばいい。

それは元親が最も得意とするところであった。

言われた意味を理解した瞬間顔を朱くする政宗に
元親は満足そうに微笑み、
手を伸ばした。




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旧暦でバレンタインネタ。(こじつけ)

「破廉恥」だろうとチカダテです。
もう一個がナリダテだったんで。

                        【20110315;初出 /20110330;加筆修正】