妙技絢爛

 

連載を始める前、
慶次は政宗と幸村に頼んでいた。
「全部の技を解説して欲しい」
と。

「…解説?」
首を傾げる政宗に
慶次は「そ!」と頷く。

「技の名前と出し方と掛け声と、どんな技なのかを、
なるべく詳しく、さ。
二人とも自分の技ぐらいは憶えてるだろ?
他の皆の技も憶えてたら教えて欲しいとこだけど、
主人公とそのライバルの技はやっぱしっかり描きたいしそっち優先で!」

ちなみにそのやり取りも当然のように元就の家で、であった。

「何だっけ、俺らも『癖になるなよ』って奴は魅せて貰ったよな。
帰り際。」
「六爪流、だっけ。
カッコ良いよね政宗さん」

そして例によって例の如く元親と佐助が訪ねて来ており
政宗を慶次に奪われ不機嫌オーラを包み隠すことなく醸し出す元就の両脇に居た。

「あ。俺様あっちで『HELL DRAGON』ってのも観たよ。
刀の先から雷が迸ってアレすっごくカッコ良かったなあ」
佐助はその光景を想い出しているのか、うっとりと宙を見つめている。
少し不気味だ。

「貴様はあの男なら何でもいいのだろうが」
元就の言葉に、
佐助は「確かにそうだけど」とムキになった。

「着流しでアレは刺激的過ぎだったんだって!
脚線美が目に痛くて」
「「「「「…………」」」」」
「……あ」
集まる視線に、佐助は己の失言に気が付いた。

「アンタ…あの状況でそんなとこ視てやがったのか…」
その時の記憶がある政宗は呆れ果てた声を出す。

「しっ、仕方ないじゃん好きな相手なんだし!」
弁明する佐助に
「そっか。この佐助もあっちの政宗に惚れてたんだっけ」
慶次はならば仕方なし、と頷き
「政宗殿…思った以上に無防備な御方だったのでござるなあ…」
幸村は今になって知るかつてのライバルの素顔に親しみを覚え
しみじみと呟いた。

「それはさておき、
技ならば同じぐらいの長さの棒を二本用意していただければ実演できようかと」
「本当? 幸村! 助かるよ!
ま」
「俺はやんねぇぞ」
政宗も、と言い切る前に拒否されて、
慶次は眉を下げる。

「憶えてるんだろ?
見せてくれたっていいじゃん減るもんじゃないんだし」
「減る減らないの問題じゃねぇ!
…どうせ絵にするんだろ?
なら絵で解説してやる」
「政宗の絵、確かに可愛いけどそれでわかるかなあ…」
「なら説明文も書いてやる!」

「…なんだかんだでちゃんと協力してやってるんだよなアイツ。」
元親は微笑み、
隣の悪友に視線を向けた。

「で、アンタは観たかったんじゃねぇのか?
政宗の実演」
それは図星であったが少し違う。

「貴様らの前でやらせるわけがなかろう」

やらせて観るならば自分の前だけで独り占めのつもりだ
ときっぱり言い切る元就に
元親と佐助はまあそうだろうな、と苦笑した。

ちなみに政宗の技解説イラストは
慶次の漫画が単行本になった際巻末のおまけとして掲載され
ユルく可愛い絵柄が一部で猛烈な人気を博したとかなんとか。


             +              +            +


「ところで真田幸む…ah、幸村」
つい昔の名前で呼び掛けかけてばつが悪そうに訂正する政宗に
幸村は淡い微笑みを向けた。

「フルネームで構いませぬ。
いかがなされた政宗殿」
政宗は「悪ィ」と苦笑を返し
「さっきの話だが」
と身を乗り出す。

「実演する、ったって、
槍じゃねぇと無理な技とかあんだろ。
地面に刺すやつとか」
「む。それは紅蓮脚の事でござろうか?」
「確かそんな名前だ。
独楽みてぇにぐるぐる廻りながら移動する、
アンタの技の中では俺が一番の気に入ってるヤツ」

人差し指をくるくる回してその技を表現しているらしい政宗の行動に
横で見ていた慶次はこっそり可愛いなあと顔を綻ばせる。
口に出したら全力で否定されると学習していたので心の内で。

「なんとそうでござったか!
政宗殿が紅蓮脚を好んでおられたとは!」
ぱあっと表情を耀かせる幸村に
「好みっつーか一番おもしれぇっつーか」
政宗はポリポリと頬を掻く。
余り純粋に喜ばれるのも心苦しい。

幸村はどんっと自分の胸を叩いた。
「御心配有り難く!
なれど問題ござらん!
過去に於いても、大きなマッチ棒のような槍で技を出せておりました故!」

「…you are crazy…
そういやそうだったぜ…」

実際それで手合わせした事がある。
何かの冗談かと思ったが意外と高性能な武器だった。
まあ政宗にも鞘がバイクのマフラーのような武器が有ったりしたのだが。

「で、ござろう?!」
「いやいや待て待て。
昔は兎も角現在は技発動しねぇだろ?
怪我しても知らねぇぞ」
「為せば成るかと!」
「成しちゃそれはそれでヤベェだろーが」
「政宗殿も蒼い雷を放てるやも知れませぬ!
共に試してみましょうぞ!
いやいっそ、是非に、某と手合わせを!」
「後免こうむる」

頭では技を覚えているかも知れない。
だが、今の政宗には
例え竹光であろうと片手に三本持つのは無理だろう。

それまで黙って二人の会話を聴いていた慶次は
はっと気が付いたように頬杖から顎を上げた。

「そっか。
実演して貰えれば動きはわかるけど、
昔みたいに炎が出なかったら演出的な部分で困るなあ。
幸村のところの忍や右目のお兄さんに記憶があれば良かったのかも。
あの二人ならお二人さんの技、
きっちりしっかりこと細かく解説してくれそうだったのに」
「ah、確かに、
幸村なんかも自分の技よか武田のオッサンの技の方を完璧に覚えてそうだしな」
頷く政宗に、慶次は
「そう言う政宗は誰の技なら覚えてるんだい?」
と尋ねた。

「戦った相手が出してきた技の一通りは。
後で技の名前も聞いたぜ?
全部の記憶がない代わりに細かいことは無駄に頭にあるみてぇだ」

威張るでもなく事実を淡々と述べる政宗に
慶次はほう、と溜め息を吐いた。

「…政宗」
「ah? 珍しく真面目な表情してどーした」
「どうしよう俺政宗が大好きみたいだ!」

両手を広げ抱きついてこようとする慶次を
政宗は呆れたように手を上げて制する。
隣で「なんと!」と口を開けて驚く幸村は無視しておいた。

「漫画の為になるから、だろ?
ったく風来坊が。自分じゃ逃げまくってたからそうなるんだろーが」
「風来坊だからあんまり戦う理由もなかったからなぁ。
政宗が日本を治めてくれた後は更に戦う機会なくなったし」

へらり、と笑う慶次に
「…アンタはそれで良いんだけどな」
政宗も微笑を浮かべる。

「でも困ったなー。
政宗も秀吉の技はわかんないよな?」
「ああ。直接戦ってねぇからな。」
「俺も別れてからの秀吉の技はわかんないんだよなあ」
「新しい記憶持ちの登場でも祈るんだな。
…家康か石田三成あたりだと丁度いいのか?」
「う。
秀吉様命! の三成ならそりゃ知ってそうだけど、
あのまんまの性格だったらあんまり協力は望めないよね」
「徳川殿が参入されたら元就殿の機嫌は更に悪くなられるかと」
「ああ。
仲良かったもんね。家康と政宗」
「アンタだってアイツが小さかった時金借りたりして仲良かったんだろ?」
「…小さかった時は、ね」

表情を曇らせる慶次に政宗は眸を細めた。

「アンタも結構面倒くせぇな。
魔王のオッサンの配下だった癖にhappy極まりなかった
アンタの血縁の夫婦を見習えよ」
「どこをどうやってだよ?
確かにあの二人は理想だけどさ。
…まいっか。
じゃ政宗。宜しく!」

すちゃっと手を敬礼の形にする慶次を政宗は胡散臭げに見る。

「…なにをだよ?」
「覚えてる技全部描き止めといてくれると助かるなー」

「……。
政宗殿。
政宗殿に至りましては慶次殿に協力費を要求しても宜しいかと」
「ならアンタも貰っとけ」
「…考慮しておきます…」



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++


この話に於いて
以前にも書いたけれど政宗の絵はみにばさテイストで
実在の人物はゲームデザインっぽくて
慶次の絵はアニメ版みたいな感じです。

このシリーズだと慶次がメインだから
…元親の見せ場がない。

                  【20110321+0325;初出 /20110330;加筆修正】