晴れるバレるチカイ / 風魔×政宗


暫くは戦の予定のない、
執務三昧の日々の僅かな合間。

奥州筆頭である政宗とその部下である小十郎は
身体を鈍らせる訳にはいかないと
互いの愛用の武器を手にして庭先で手合わせをしていた。
さすがに政宗は六爪ではなく一刀のみである。

その最中、小十郎は政宗に
「政宗様。
そろそろお世継ぎの事をお考え戴きたく思うのですが」
唐突にそんな事を告げた。

「…は?」
政宗はぽかんとして思わず手を止める。
小十郎も剣を下ろし、キリっと眦を上げ
「は、では御座いませぬ。
むしろ遅いぐらいかと」
と責めるように言い放った。
今までまるでそんな話題を出していなかった事などまるっと棚上げである。

「……俺よりテメェのが先だろう年齢的に考えても」
「ははは。
この小十郎が主君より先に世継ぎをこさえるなど有り得ませぬ。
例えできたとしても無かったことに致しましょうぞ」

乾いた笑いと空恐ろしい本気の言葉に
政宗は「…そうか」と小声で返答しつつ視線を逸らした。

自分の一番の部下であり側近であり右目と定めてはいるが
時折目の前の男の自分への忠誠心に恐怖すら覚え
まれに逃げ出したくなる。

逸らした視線の先の空に見付けたものに政宗は左目を見開き、
次いでにやりと口の端を歪ませた。
何かを企んでいるような、嗤いの形に。

そして予備動作もなしに
手にしていた刀を視界に入ったモノに向け力一杯投げ付けた。
抜き身のまま。

「……………?!」

「政宗様っ?!
刀は投げるものではございませぬ!」
当然の抗議の声をあげる小十郎に
「…うちの連中投げてなかったか? 刀。」
政宗は首を傾げる。
「あれとこれとは話が別です!
政宗様の刀はかけがえなき名刀でございましょう!」
「そういう問題なのかよ」
つまりは無銘やナマクラであったならば投げても良いと言うことか。

「HELL DRAGONじゃ交わされて終わりだっただろーからな」
呟きながら見つめる先には、
政宗が投げた刀を手に持ち困ったような風情で佇む「伝説の忍」がいた。

「…忍?」
小十郎は眉を潜め、身構える。
奥州の領地内、しかも政宗の居城近くに居たとなれば警戒を強くせざるを得ない。

政宗はそれを制し、
「小十郎。
悪いが暫くガキを作る訳にはいかねぇ」
言いながら無造作にさくさくと歩を進める。
伝説の忍―風魔小太郎の方へと。
「何をおっしゃいます。
っ政宗様、其奴に気軽に近付いてはなりませぬ!」
「問題ねぇ」

それは一つの賭けだった。
風魔がそのまま無視して立ち去るならば大人しく諦め、
万が一、
政宗に刀を返そうとするならば、
一芝居に付き合って貰う事に一方的に決めていた。
下らないことに巻き込んでしまうのを、悪いな、とほんの少しばかり思いつつ。

「小十郎。
お前に今まで隠してたが、俺はコイツと付き合ってんだ」
ぽん、と気さくに風魔の肩に手を置き
政宗は爆弾を投下した。

「………?!」
手から刀が落ちそうになり、風魔は心持ち慌てて持ち直す。

「政宗様…
さすがにそれは無理があります…」
呆れを存分に含ませた小十郎の言葉に、
「無理? どこがだ」
政宗は平然と問い返す。

「政宗様、
その忍と何時、どの様に逢瀬を重ねていたと申されるので?」
「コイツは優秀な忍だ。
テメェに気取られず俺んとこ通うなんざワケねぇぜ」
「…そもそもその忍、
先程の政宗様の御言葉に偉く驚いていたように見受けられましたが」
「そりゃあ人目を憚る関係だったってのを
こんな風にあっさりバラしちまえばコイツだって驚くだろ」

「……くっ。口までも達者になられて…!」
歓ぶべきか否か苦悩しつつ、
「では、政宗様はその男を抱かれるため
子を成す暇もないと申されるのですか?!」
小十郎は訊きづらい事をズバリと尋ねた。

「?!」
「いや。まだそこまでの関係じゃねぇ」
政宗はあっさりと否定する。

嘘を吐くならば本当の事と混ぜるとバレ難い、
と何処かで耳にした気がしたので従ってみた。

それと小十郎の質問は根本的に間違っているのだが、
その事は口にしない。

「だからこそ、他のやつの相手なんざしてらんねぇ。
俺は今何よりも自分の惚れた相手―コイツとの関係を深めたいからな。
you see?」
「…成程…
理解は出来ませぬが納得はいきました」
渋渋頷く小十郎に、
政宗は安堵の息を吐く。
「なら良かっ…
…っ?!」

それまで黙って政宗の好きにさせていた風魔は
政宗を自分の腕の中に収めると
「……………!」
噛み付いた。
政宗の、首筋に。

「っつ、風魔?!」
「……………」
「ま、政宗様っ?!
貴様、政宗様に狼藉を…!」
「落ち着け小十郎。
…怒るなよ小太郎。
本当の事言っちまったらややこしくなる」
「…………?」
「政宗様。本当の事とは?
よもやこの小十郎に嘘を吐かれたのですか?!」
「嘘っつーか方便っつーか…ah」
「やはりその忍と好い仲というのは戯れ言なのですね?」
「そうじゃなく…
っ!」

首筋を舌で舐められ政宗は顔を朱らめ口許を押さえた。

「……政宗、様?」
「………」
ばちり、と小十郎の身体が放電しているのは見間違いであって欲しく
政宗は直視を避けた。

「もしや…既にそのような関係で、
まさかとは思いますが、政宗様が抱かれる方、と…?」

正にその通りであったが、
そうと知られたら小十郎の怒りが爆発するだろうことは予測できた。
つまりはこの展開になるであろうとは。

まだ政宗が風魔を抱いている、
と思われた方が風当たりは弱かっただろうに。

「っ小太郎! テメェ何で!」
八つ当たりだとはわかっていながら
真実が明るみに出た切っ掛けは風魔が作ったもの。
政宗が問い詰めると、
「…小太郎?」
風魔は殺気を発していた。

小十郎に向けて。

「…小太郎…?」
「……………!!」

風魔は話の流れで小十郎が政宗に嫁を取らせようとしていたと察したらしい。
その事に怒ったようだった。

「ほう…いい度胸だ。
俺に勝負を挑むか…!」
「…………!」
風魔は政宗を熱く、優しく抱擁した後でそっと遠ざけるようにその身体を押し
「…………!」
目にも見えない速さで小十郎に突進した。


政宗は風魔から返された刀を鞘に収めると
「shit!
二人だけで楽しみやがって」
むうっと膨れてそう独りごち、その場から立ち去る事にした。

何せ二人の戦いが始まってから小一時間は経っている。
その間放っておかれていて機嫌を損ねないほうがおかしい。
観ているだけでは身体も冷える。

特に片方は、
たまにしか逢えない愛しい相手なのだ。
心だって冷えてしまう。

直ぐに二人は主の、そして恋人の不在に気が付き、慌てて追い掛け、
揃ってその前で平伏し赦しを乞うことになった。




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もしかしたら前の風政の続き

小十郎と小太郎だとマギラワシイので今回は風魔表記。

                         【20110324;初出 /20110330;加筆修正】