カワル絆 / 慶次ルート

 

「あんたが石田三成さんかい。
初めまして、だよな」

派手な装いの軽薄そうな男に軽い調子でそんな風に声を掛けられ、
三成はムッとした。
だが、敬愛する秀吉が一緒に居たためぐっと堪える。

「秀吉様。その者は…?」
そう尋ねようとしたのだが
三成と共に秀吉に呼ばれていた家康がぽかんと口を開け
「慶次…?」
その人物を指差していた。
知り合いだったらしい。

慶次と呼ばれた相手は
「久し振りだなあ家康」
にこにこと笑みを絶やさず片手を挙げている。
両脇に、秀吉と政宗を侍らせて。
その政宗の腕の中には何故だか小猿が収まっていた。

「ここまで貸していた金を返しに来てくれた…
って訳じゃあなさそうだな」
家康のその言葉に
「アンタ家康に金借りてたのかよ?!」
政宗が批難するように慶次を睨む。
「え、でも利が、
それはまつねぇちゃんが返してくれたって」
慌てて釈明するが、まるっきり逆効果だった。

「「「自分で返せ!」」」
「自分で返さぬか!」

四人に異口同音―一人は違う口調だが―で責められ
慶次は大きな身体を小さくする。

「ちゃんと自分で返すつもりだったんだって」
「本当かよ。
ったくしょうがねぇ大人だな」
「全くだ」
政宗の嘆息に秀吉は同意を示すが、
はっと本題を思い出した。
思い出したくもなかったが。

秀吉は苦虫を何万匹も噛み潰したような表情で
三成と家康に慶次を示して見せる。

「貴様らには紹介せねばまるまい。
この男は、この度、政宗の部下になった前田慶次だ」
「よろしくな!」

「慶次が…?」
「…伊達の部下?」
怪訝そうな表情の家康と三成に
政宗が抱えていた猿を掲げて見せる。

「ってもこの夢吉のオマケみてぇなもんだがな」
「ききっ!」
「政宗っ?! 夢吉まで!」
「成程…ならば納得だな」
家康はうんうんと頷く。
「納得しないでくれよ!」

三人のやり取りを尻目に、三成は秀吉を見上げた。
「秀吉様。
ではこの男もこの城に身を置くことになるのですか?」
訊かれ、秀吉はむうっと眉間を寄せる。
「その問題があるな」
「空きがないんだったら政宗の部屋で良いけど?」
「馬鹿か貴様は!」
しれっと言い放つ慶次を秀吉は怒鳴り付ける。
政宗は驚いて夢吉を抱えたまま一歩退がる。
家康は自然な動きでその隣に移動した。
秀吉も慶次も三成もそれどころではなく
家康のちゃっかりした行動に気付いていない。

「いやだって俺政宗の部下だし。
政宗も此処じゃ国主様じゃないんだから
一人で広い部屋ってのも
他の人達あんま良く思わないんじゃないかなー、
なんて」
正論ではあった。だが。
「貴様、
我がどういうつもりで政宗を傍に置いているのか知っておらぬのか」
「知ってるけどさ。
政宗の方にその気はないみたいじゃん」
「ぐ…っ!」
痛いところを突かれ、秀吉は言葉を詰まらせる。
「貴様! 言葉を慎め!
貴様とて言うほど伊達と仲が良い訳ではなかろう!」
「うわ。はっきり言うなあ。
そうなんだよな~。
でもこれから親睦を深めるから大丈夫だって」
「深めずとも良い。
貴様と同じ部屋にするぐらいならば
政宗は我の部屋に招くわ」
「……っ」

さすがにそれは部下として反対したいところなのだが
三成は自制して言葉を呑み込む。
が、上司を上司と思っていないような自由な者もいた。

「なあ独眼竜。
誰かと同室になるならばワシとじゃいかんかな」
「家康ぅ! 貴っ様ぁ!
秀吉様を差し置いて何を宣うか!」
三成は呑み込んだ分思いっきり吐き出した。

怒鳴りながら視線を向けると肩など抱いている始末だ。
抜け目がない上悪びれてもいない。

「しかし独眼竜の意思も尊重せねばなるまい?」
「貴様も伊達も、黙って秀吉様に従っていれば良いのだ!」

「…あれが豊臣秀吉さんの第一の部下か」
「何か言いたい事でもあるのか慶…前田」
「いーや、別に」

それらのやり取りを見聞きしていた政宗の感想は
「アンタら随分仲良いんだな」
の一言で、
それは四人を黙らせる効果のある魔法の呪文のようであった。
因みに秀吉と慶次、家康と三成の組み合わせを指してのものだったので
「そうだな」
と頷いたのは家康だけである。

「ah、けどよ。
部屋が余ってないってんなら…まあ誰かと一緒の部屋になっても文句はねぇが
半兵衛の部屋を使う訳には行かないのか?」
続けてそう提案をした政宗に一気に視線が集中する。

家康はともかく、秀吉や三成を怒らせてしまったかと、政宗は
「悪ぃ」
と即座に謝罪を口にしたが
秀吉はゆるりと頭を横に振った。

「否。
そうだな。半兵衛とて部屋を放っておかれたままでは淋しかろう。
常日頃から無駄を厭うていた事もある」
「まぁこんなでかい軍で無駄を赦したらあっという間に財政難だろうな」

実際半兵衛がいなくなってからと言うもの
豊臣軍は結構てんやわんやだったのである。
半兵衛は独りで一手にあれやこれやを引き受けていて
他の部下がその仕事を引き継ぐ間もなかった。

「政宗。貴様が半兵衛の部屋に移るが良い」
「は?! なんでそうなったんだ?!」
「今貴様が担っているのは半兵衛が携わっていた仕事だ。
ならばそれが筋と言うもの」
真面目にそう答えられるが
政宗は直ぐにはいそうですかとは受け入れ難かった。

「今問題にしてたのはそこの風来坊の部屋の事じゃなかったのかよ」
「いやあ。俺、半兵衛に嫌われてたし。
使いづらいって」
「ならそこの石田とかに宛がえば良いだろうが!
ソイツがアンタの一番の忠実な部下なんだろ?!」
「私は最初に与えていただいた部屋で充分だ」
「なら家康!」
「三成がそう言うのにワシが使うのはおかしいだろう」
「そして政宗が居た部屋にそこの前田慶次が入れば万事解決だ」

何の実績のない者に対し少しばかり扱いが良すぎるが
猿も一緒であることだしな。
との秀吉の言に
政宗は少し悩んだ末了承の意を示した。

そもそも慶次を秀吉の傍にいさせたいと思ったのは政宗の勝手で、
互いに遺恨を抱えながらそれでも同じ城の中で生活すると言うのならば
それは相当な前進だろうと。

「わかった。ならそんなに多くはねぇが荷物移動させなきゃな」
「手伝おう」
そう申し出た秀吉に
「いや多くないっつったろ?」
「寝具も全て移動させねばな」
「は?
何でそんな面倒なこと」
「ちぇー。同室は無理だってわかってたけど
政宗の使ってた布団で寝られると思ったんだけどな」
「慶次。開けっ広げにも程があるぞ」
「下衆が。不埒な男め。慎みと言うものを知らんのか」
「慎んでちゃ損するだけだろ?」

「わかったか」
「……I see…知りたくなかったがな」


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


…なんだこれ?
慶次ルートがなんだか愉快な事に。

家康あたりは大阪城には住んでなさそうだけどなっていうか
3のゲームの大阪城にはあんまり住みたくないかなー。

                        【20110522】