半兵衛の日記

 

半兵衛の部屋を使わせて貰うことになった政宗は、
秀吉と共に半兵衛の遺した物を整理をしていた。
政宗が移動させる荷物は少なかったのだが半兵衛の手記が思いの外多かったのだ。

殆どが豊臣軍の為の覚書で、
秀吉はそれらを検討すべきとまとめて積んでおいたのだが、
その中に一冊、毛色の変わった物があった。

政宗が手を滑らせ床に落とし、偶然中身を見てしまったそれは
どうやら私的な日記のようなで
勝手に読んではまずいだろうと慌てて閉じようとしたが
一瞬ではあるが自分の名前が書かれているのが目に入り
しゃがんで拾い上げると手に取りまじまじと眺める。
中身が気にはなったが勝手に読んでも良いものか、という躊躇いがあった。

「どうかしたのか」
政宗の様子に気付いた秀吉はその手元を覗き込む。
政宗は表紙がよく見えるように持ち変えた。

「観察日記…ってあるんだが」
指でなぞった表書きはそう書かれていた。
「半兵衛が、観察? 何を」
「中にオレの名前が書かれてるのは目に入った」
「………」
「………」
「開けてみよ」
「ああ。」

秀吉の許可を得たので政宗はぱらりと頁を捲る。

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○月×日
今日小田原で秀吉が政宗くんを拾ってきた。
戻してくるように言おうかとも思ったが
秀吉が何かに執着するなど滅多にないことだ。
暫く好きにさせて様子を観ようかと思う。
ただ、後で三成くんを気にかけてやらなくてはならないかも知れない。
彼は強い秀吉を崇拝してくれているのだから
落ち込んでいる可能性がある。

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「アイツ、ああ見えて部下のことちゃんと気にかけてやってたんだな」
「む…」

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○月△日
秀吉が政宗くんのために色々用意してあげている。
防具や武器は取り上げてしまったので
他に着物を与えてあげないといけないのは確かだが、
適当に見繕った物で充分だと思うのだけれど。
彼ならばどんな服でも着こなせそうなのだから。

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「…これ、褒められてんのか?」
「うむ…」

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○月☆日
奥州伊達軍、というか片倉くんは
政宗くんの事があるので豊臣に従ってくれる事になった。
そういう意味では秀吉の行動は正解かも知れない。

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「小十郎…! あいつら…オレのせいで…!」
「………」

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○月▼日
政宗くんを大阪城に囲ってからと言うもの周囲が騒がしい。
武田や上杉の鼠はともかく
北条の忍まで政宗くんの様子を探りを入れて来ているようだ。
手出しをしてこないなら好きにさせるけど煩わしくはある。
政宗くんの人気には困りものだ。

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「……? 何でそう思ったんだ?
ソイツら、オレじゃなくて豊臣を探りに来たんじゃねぇのか?」
「半兵衛なりの根拠があったのだろう。
政宗、貴様、こやつらに逢ったのではないのか?」
「んな覚えはねぇな」
「まことか」
「あったとしても、オレが素直に口を割ると思うのか?」
「………」

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□月◆日
家康くんは隙を見ては政宗くんの部屋に足を運んでいるらしい。
表立って注意する程の事ではないけれど
そう言えば三成くんが最近家康くんが政宗くんの話ばかりするとぼやいていたっけ。
やっぱり気を付けておいた方が良いかな。

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「家康め…」
「っても他愛ない話しかしてねぇぜ?」
「だからこそあやつに心を開いたのであろう」
「開いたって程じゃねぇが…ah、まあ、そうかもな」

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□月◎日
三成くんに政宗くんの様子を探らせに行った。
戻って来て報告してくれたものの
どうにも様子がおかしい。
また一人政宗くんの毒牙にかかってしまったのかも知れない。
家康くんは政宗に思うところがあるみたいだしと
三成くんに任せてしまったのだが
裏目に出てしまったか。

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「人を毒蛇かなんかみてぇに…」
「後で三成に話を聞かねばならぬようだな」
「っても別に特別何もなかった気がするんだがな」
「貴様のそれは信用おけぬ」

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□月○日
それにしても秀吉は政宗くんに甘過ぎる。
いっそのこと政宗の意思など気にせずにとっとと自分の物にしてしまえば良いものを。
今日もそれが出来なかったようで
政宗くんの部屋から出てきた秀吉の背中を見掛けたが
大きな身体が小さく見えたものだ。

確かに、話をする限り手込めにしておしまい、とするには
少しばかり勿体無い気はするけれど
政宗くんがこの先秀吉の為に働いてくれるようになるとはとても思えない。
…なってくれれば、一番良いのだけれど。

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「…アンタ、そうしようとはしてたのか?」
「仕方がなかろう。我は貴様に惚れているのだからな」
「そ、そうか」

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●月■日
どうやら僕には本格的に時間がないみたいだ。
僕が居なくても秀吉なら日ノ本を統べられるだろう。
けれど誰かその傍らに誰か居てくれないかと願う。
秀吉の理解者が。
その最適任者は政宗くんなのではないかと最近思い始めている。

家康くんはおそらく駄目だ。
三成くんは秀吉に従うだけ。
何一つ進言できない部下などからくりと同じだ。
彼らが駄目なら他の者達などもっての他。

その点政宗くんは臆する事はない。機転も利く。
僕ほどではではないけれど、彼ならばあるいは。
いくつか交わした会話の中でそう感じた。

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「…半兵衛」
「これほどまでに我を思うてくれていたとは」
「何を言っていやがる。
アイツはアンタの事ばかりだ。
…最期まで」
「政宗…?」

政宗は白紙になった続きの頁に手を置く。

「用意周到な野郎だ。
これは、アンタだけじゃなくオレの目にも留まるように書き残したモンだろう。
自分が居なくなった後まで考えた上でな。
そしてオレがこれを読んでるって事は、
オレがそこそこアンタに絆されてる状態って事だ。
効果的だな」
「半兵衛の事だ。
貴様がそれに気付くことも見透かしてだろうな」
「本当にやりづれえ男だ」
苦々しく呟く政宗を秀吉はそっと窺う。

「絆されているのか?」
「……っ! そこそこだ!」
「それでも良い」

ふっと表情を和らげる秀吉に政宗は困惑する。

半兵衛を看取った時の記憶が呼び興され感傷が押し寄せた。
それを拭おうとしてくれた、と判断するには
今までの印象からは無理があるが。

「それより、
アンタの軍を手伝ってやってるんだ。
小十郎達には余計な手出しすんなよ」
「してなどおらぬわ」
途端にムッとする秀吉に苦笑しながら
政宗は半兵衛の日記を元の場所に戻した。
視線で問いかけてくる秀吉にニっと笑みを見せる。

「置いてても良いだろ?
これは、この部屋に」

秀吉は少しの沈黙の後
こくりと頷いた。

「そうだな。それの置き場は、此処こそが相応しい」
「THANKS」
政宗はほっとしたように口の中で呟くように言った。

付き合いの中で、
政宗が時折発するその言葉が感謝の意を告げているのだと知った。
だが、感謝するのはこちらの方だ、とは
口には出来なかった。


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※イベント発生条件;三成第一イベントを見ている
          慶次が大阪城に滞在する事になっている
          家康及び秀吉との親密度が一定以上

こういうの考えるのは楽しいです。最近半兵衛が好きです。


                      【20110605】