豊臣生徒会 / 学園パロディ;豊臣軍+政宗

 


「おい竹中。いつまで待たせる気だ」
「ごめんよ政宗くん。
思っていたよりも議題が多くて長引いてしまってるんだ」

政宗は生徒会副会長である半兵衛に「訊きたい事がある」からと呼び出され
生徒会室にいた。

言われた時間に訪れてみれば
「まだ会議中だからもう少し待ってくれるかい?」
とテーブルの端に席を用意された上
半兵衛手ずから淹れた紅茶を出され
仕方がないと大人しく会議を傍聴していたのだが、
三十分を過ぎても終わる気配がない。

「では次」
一つ解決を迎えたと思ったら生徒会長の秀吉が新しい書類を手に取る。
「まだあるのかよ…」
「煩い。見ているだけの癖に文句を言うな」
「ah?
オレは竹中の用事とやらをとっとと済ませて家に帰りてぇんだよ!」

隣に座る会計の三成にギロリと睨まれ、
政宗は負けじと睨み返す。

「半兵衛様に敬語を使え!
貴様の方が学年が下だろうが!」
「それを言うならテメェだってオレに敬語を使うべきだろうが。
一年坊主」
「む…っ」

この学園では生徒会役員の入れ替えが年に二回ある。
一年生が馴染んだ頃の夏―初夏と、
三年生が受験に専念するため引退する時期―初冬だ。
選挙委員会はそれを夏の陣、冬の陣と呼んでいる。
冬の陣は生徒会長のみの選出で、
以下の役員は生徒会長になった人物が選ぶ。
夏の陣は全役員が選挙で選ばれるが
役員にあまり変動はない。

立候補する人物が思いの外稀であり、
一般生徒としても経験者を選びたがる。

冬から夏までの間は
大会が減った運動部の部員が駆り出されたりもするのだが。

夏休みが終わって直ぐのこの時期は、
だから一年生から三年生の役員が揃う時期であり、
今期は二年生が不在であった。

政宗は前期無理矢理生徒会役員に選ばれてしまったが
夏の陣では立候補をしなかった。
生徒会選挙は自薦が基本である。

「っと待て家康」
三成から意識を逸らし頬杖をついたまま視線を巡らせた政宗は
ホワイトボードに向かったまま途方に暮れている家康に気が付いた。

裏返したりしているが、両面が黒く埋まっていて困惑している。

書記は家康独りだけで、
全てが終わってからノートに書き写すつもりだったのだろう。

家康の字はダイナミックで、ところどころ隙間はある。

政宗はやれやれ、と立ち上がった。
「アンタは今までの分ノートに写しとけ。
その間の板書はオレがやっとく」
「独眼竜…」
家康は隣に立った政宗を見つめる。
眼を耀かせて。

右眼に眼帯をしている政宗を家康は「独眼竜」と呼ぶ。
政宗もそれを嫌がりはしなかった。
好意からくるものだと感じ取れたので。

「ったくもう一人書記雇えよ」
「なら政宗くんがやってくれるかい?」
「御免だな」
「おや残念」

どさくさに紛れの半兵衛のスカウトを政宗は一蹴する。
「他に適任が居るだろうが。
ソイツの保護者とか」
ちらりと視線を向けられ三成はムッとした。
「刑部の事ならば無理だ。
無理をさせたくない」
病弱な友人を思いやる言葉に
政宗はその優しさの万分の一でも他に向けてやれと思う。
言っても無駄だと知っているが。

「なら選挙で落ちたヤツを繰り上げ当選させろよ。
やる気はあるだろ」
「官兵衛の事か。
彼奴は信用ならん」
不機嫌な三成の言葉に
「そうかい」
政宗は気のない返事をした。
たかが高校の生徒会に信用とか必要か? と思いながら。

周囲の遣り取りなど我関せずと
さくさく議題を進める秀吉の言葉の重要部分を
家康の字の隙間に書き留めていく。
書かなくても良い時には身体をズラし家康に見易いようにした。

「独眼竜。上半分は消して大丈夫だ」
「OK」
「すまないな。恩に着る」
「気にするな」

半兵衛はその様子を眺めながら、
やはり生徒会に欲しい人材だ、と瞳を光らせた。

ちなみに、半兵衛の政宗への用事は
「政宗君は犬と猫ではどっちが好きなんだい?」というもので
余りのくだらなさに政宗はあ呆れ果て、「虎だ」と言い捨てて去った。

「ふぅむ…それは師匠と弟子、どちらのことなんだろうね?」

この学園には「虎」と称される人物が数名いる。
その中でも政宗と深く因縁がある「虎」は二人。
政宗が生徒会に入らない理由も、その片方にあると半兵衛は踏んでいる。

けれども。
「理由をつけて呼び出せば手伝ってくれるんだから全くもって人が善い。」

クスリと笑う。
役職をつけ名簿に名前を連ねなくても、
臨時役員として引きずり込むのは簡単そうだ、と。
一番手っ取り早いのは家康ともっと仲良くさせることだろう。

冬の選挙で家康もしくは三成が会長になったならば、
二人は政宗を副会長にするだろうことも予想できた。


      +          +         +


数日後。
放課後の生徒会室で定例会議が始まった。

「さてそれじゃあまずは―」
「待て半兵衛」

進行役として半兵衛が口火を切ろうとしたところを
秀吉が制した。
常日頃黙々と仕事をこなす秀吉にしては珍しく、
半兵衛は不思議そうに首を傾げる。

「どうしたんだい? 秀吉」
「伊達がまだ来ておらぬぞ」

「…………」
「…………」
「どうした。家康。三成」

三成は家康が先に呼ばれたことに密かにショックを受け言葉を失くした。
秀吉にしてみれば書記と会計ならば書記の方が先かな、
程度の基準であったのだが。

家康は困ったような笑顔を浮かべる。
「まだ来ていないも何も、
残念ながら独眼竜は」
「秀吉も政宗くんが必要だと思うんだね?」
「半兵衛殿?!」
興奮気味の半兵衛に言葉を遮られ、家康は驚く。
口調はいつも通りだが声音が妙に弾んでいる。

「必要も何も、奴は生徒会の一員であろう」
「そうだね。
政宗くんは生徒会役員であるべきだ」
「は、半兵衛様…?」
三成は別の意味で衝撃を受けた。
三成は秀吉と半兵衛に対し中等部の時から憧れを抱いていたが
このような半兵衛の姿は初めて見た。

「…我は何か変な事を言ったのか?」
同じように困惑している秀吉は三成に尋ねた。
家康ではなく自分を観てくれたことに三成は浮かれる。
感激のあまり言葉が出て来ないが
返事をしなくてはと、ぶんぶんと頭を横に振る。

そんな周囲の様子に頓着せず
半兵衛はうんうんと頷いている。満悦ぎみに。

「秀吉の手前、勝手をしてはと自粛していたけれど
秀吉も望むならば問題ないね。
政宗くんを特別就任させようか」
うきうきと実に楽しそうなのは
引きずり込む算段がついたからと
嫌がるであろう政宗の表情が目に浮かぶようだからだ。

早速手続きをしてくるよ、
と会議そっちのけで生徒会室を出て行った半兵衛を見送り
「特別就任、とは何だ?」
キョトンとする家康に
三成は「生徒手帳を読め」とすげない返事をした。

家康は仕方がなく生徒手帳を取り出しぱらぱらと捲る。
半兵衛が戻るまで会議は始めようがない。

学園規則の中の生徒会について、の項目に以下の記載があった。

【特別就任】
夏の選挙後、
生徒会役員の人数に不足があると感じた際は
役員全員の意見が一致した場合のみ生徒を指名し就任させてよい。

「良いのか? 三成。
独眼竜を役員にする流れになっているが、
お前は独眼竜の事をあまり好きではないだろう」
「秀吉様と半兵衛様の決定に背くつもりはない。
そういう貴様はどうなのだ家康」
「ワシか? ワシは願ってもないぞ!」
にこりと心からの笑みを浮かべる家康に三成は半眼になる。

そう言えば前の会議の時やたらと政宗になついていた。

そして政宗は秀吉の生徒会に正式に庶務として就任することとなった。

「庶務、ってつまりは雑用係じゃねぇか!」
「臨時だからね」
「うむ」
「宜しくな、独眼竜」
「ふん。
せいぜい秀吉様と半兵衛様のお役に立つが良い」


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 思いついたので一気に書いた。
 三成と家康を一年、半兵衛と秀吉を三年にするために設定まで作った。

 困ったことに楽しかったです。非常に。


                                          【20110703 / 20110705;追加】