地雷が如く / 劇場版;忠勝と政宗

 

 

忠勝は頭で支えるように掲げていた鍋を下ろすと
中にいた満身創痍の五人を、
家康から順に安全な地面に横たえていく。
五人と同じ鍋に入っていた、無傷の小早川も少し手伝った。
武器をそれぞれの傍らに置いたりなどして。

「本多」
「…………?」
政宗を家康の隣に下ろし横たわらせようとした時、
名前を呼ばれ忠勝は手を止めた。

政宗は忠勝の腹の部分にそっと手を這わせる。
以前逢った時、そこには大きな損傷があった。

「…………?」
困惑している様子の忠勝の顔を見上げ、
政宗はふっと微笑む。

「助かった。THANKS」

「……………」
返事は声ではなく鎧が軋むような音で、政宗はそれを少し淋しく思う。
家康はそれだけで意志の疏通をはかれるようだが
然程付き合いのない自分に解読は無理だろう。

仕方がないので応えは求めずに言いたいことだけを口に乗せることにした。

「前に魔王のオッサンと戦った時―安土城でも
アンタのお陰で窮地を免れたからな。
その礼もいつか言いたいと思ってた。
…言えないままにならずにす済んで良かった」

あの時の信長の非情なまでの攻撃で忠勝は大爆発を起こし
陣没してしまったのだとばかり思っていた。

しかし蓋を開けてみればこれまた没したと思われていた主人諸共無事で、
何故か豊臣軍に収まっていたらしい。

「…………」
居心地の悪そうな様子に政宗はその心情を読み取る。

「ah、
あん時は家康の命令で、
今は家康のついでだってんのはわかってる。
けど結果援けて貰った形になったのは確かだし、
言っておきたかっただけだから気にすんな。
ありがとうよ」

「…………」

「おい、本多?」
「忠勝。どうした?」

政宗を横抱きにしたまま固まってしまった忠勝の
ぎぃ、っという聴き慣れない音に
隣で微笑ましいな、とやりとりを聴いていた家康も呼び掛けてみる。
身体はまだ動かせず、視ることは叶わないが。

「おい家康、
本多のヤツから煙出てるんだが大丈夫なのか?!
っあっつ、」
熱を持った鎧に政宗が悲鳴をあげると
忠勝ははっと我に返りそっと寝かせて離れた。

「忠勝?!
お前、照れるとそんなふうになるのか…」

家康が横目で視てみると
忠勝の鎧が心持ち赤くなっており
湯気が出ていてしゅんしゅんと音がしそうだ。

忠勝は基本的に家康の命令のみを忠実に遂行する。
だから褒められたり感謝されるのは家康にばかりで
他の者に礼を言われるなど滅多にないことで
どう反応すべきか対処に困り熱暴走してしまったようだ。

「戦国最強を籠絡するとは…
伊達政宗、貴様やはり色仕掛けで秀吉様を陥落せしめたのだな」
「あの秀吉を? って思うけど…
独眼竜なら納得しちゃいそうだな」
「ききっ!」
「破廉恥でござる…っ」

「オレは普通の事しかしてねぇぞ?!」
礼を言っただけだというのに理不尽な言われようだと
政宗は脱力しのめり込む様に地面に身体を預けた。

「お気を赦された政宗様の表情は凶悪ですからな…」
少し離れた場所にいる小十郎はなんとも言い難い表情をしている。
「うちらには筆頭のそういう様子に免疫あるんですけどねぇ」
文七郎は左馬助の肩を借りながら苦笑した。
「戦ってる時の筆頭しか知らないやつにゃあ強烈だろうなあ…」
孫兵衛はぽり、と頬を掻く。
「俺らですら不意討ち喰らうと動揺しちまうからな」
佐馬助は空いている手で眼鏡の位置を直した。
「筆頭…最高っス!」
良直は流れを微妙に無視して握り拳を作っている。

そして渦中の人物である忠勝は
離れた場所で身体を冷やそうと努めていた。


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他の劇場版ネタと繋がってるようで分けて考えて方が良いかも。

五人をああいう風に並べたのは忠勝かなって。
家康からおろすとして、その両脇が蒼紅で、
なら先に下ろすのは戦ったことのある幸村じゃね? じゃ筆頭最後じゃね?
とか。

…政宗の刀の置かれ方が謎だ(落ちてく時持ってたんだっけ?)


                            【20110721】