まつが消えた! 五・五章 / 利家+伊達主従 

 

 

まつを捜して全国を巡っていた利家は
奥州の地でとうとう力尽き倒れた。

政宗の居城の真ん前で。

「おい小十郎。あそこに落ちてんのは何だ」
「どうやら人のようですが」
「なんか見覚えがある気がすんだが…」
「奇遇ですね。この小十郎も何やら記憶が疼きます。
しかし何故独りで此処に?」
「本人に訊いてみりゃ早ぇだろ」

政宗は近寄って屈み込み、耳許で尋ねた。
「おい。生きてるか?」
「うう。まつぅ~」
返事とは取れない応えと、
ぐぅう~という大きな腹の音が返ってきて思わず苦笑する。

「行き倒れてんのは怪我じゃなくて空腹のせいかよ。
おい小十郎。中に運ぶぞ」
「…仕方ありません。
伊達の領地で見殺しにしたとなっては問題が発生いたしかねぬゆえ」
「前田の風来坊にも恨まれそうだしな」
あの甥っ子は何だかんだでこの叔父のことが大好きだった筈だ。
そう言って微笑む政宗の言葉に、小十郎は目を細める。
「そのあたりはどうでもよろしいかと」
「小十郎…」

二人は動けない利家を運び込むと、客間に寝かせておき
素早く料理を準備して差し出した。

「飯の匂い!」
がばり、と勢いよく起き上がった利家は、
目の前で呆れたように淡く笑っている政宗に気が付いた。

「独眼竜? 何故此処にいるんだ?」
「そりゃこっちの台詞だ。
アンタ、オレの城の前でぶっ倒れてたんだぜ?」
「なんと! それは世話をかけた!」
深深と頭を下げる様子は、一応前田の当主としての弁えがあるように見えた。
「良いからまず喰えよ。
腹ペコなんだろ?」
「良いのか? かたじけない!」

促され、おずおずと用意された膳に手を付ける。
まつの作る御飯を求めてはいたが、そうも言っていられないほど空腹であった。

「うん! 旨い!」
ぱあっと表情を輝かせる利家に
政宗は瞬きをし、その眩しさから思わず視線を逸らした。
「アンタの嫁さん程じゃないだろうがな」
「そんな事はないぞ!」
「ま、動けなくなるぐらい腹減ってたんなら何でも旨いか」
「そんなことはないでございまする、と言っているでござる!」
「…ah?」
妙な言葉遣いに思わずまじまじと顔を見つめてくる政宗に
利家はにっこりと笑った。

「それがしは世辞は言えん。
まつの作る飯の旨さとはまた違った味わいでとても旨いぞ」
「……THANKS」

言葉の意味はわからなかったが
政宗の表情と態度に利家はん? と首を傾げた。

「もしかして、独眼竜の手料理なのか?」
「畏れ多くもその通りだ」
政宗の代わりに小十郎が素っ気なく応える。
「そうか! わざわざすまん!」
「半端な時間だからな。
家の者に頼むより、アンタ一人分の飯ならオレが作った方が早い」

ぶっきらぼうな言い方が照れ隠しだとはわからなかったが、
それでも利家はその心遣いにうんうんと頷いた。

「成程な。慶次がお前を大層気に入るわけだ」
その言葉に小十郎がぴくりと眉を動かす。
「それはどういう」
「それよりアンタ、何で独りで此処にいたんだ?」
「そうだ!
それがしまつを捜している途中なのだ!」
はっと我に返った利家の言葉に、政宗と小十郎は眉をひそめる。

「捜してる、だと?」
「ああ。
竹千代に愛想を尽かされたんじゃないかと言われて
慌てて方々を訪ねて回っいる最中だったんだ」
「家康に?
んな訳あるわけねぇのに御苦労なこった」
「政宗様」
「お前は黙ってろよ小十郎」
「はっ」

政宗は綺麗に空になった膳を見てに微笑む。
「足りねぇようならもっと飯を用意しなきゃと思ってたが必要ねぇみてぇだな。
早く嫁さんに逢ってたらふく喰わせて貰いな」
「だがまつの居場所がわからんのだ」
しょんぼりする利家に政宗は笑った。
「ここまで来たんだ。
いっそ北端まで行ってみちゃどうだい?
そこで頭を冷やしたら一旦家に帰ってみりゃあいい」
「北端?」
「そのナリじゃ頭だけでなく身体の芯まで冷えちまいそうだがな」
「そうか…
うむ。それがし、確かに冷静になる必要がありそうだ。
世話になった。独眼竜」

意を決し、すっくと立ち上がった利家に
「どういたしまして。」
政宗は含みのある笑みを返した。

では早速、と北へと旅立つ利家を見送りながら、小十郎は首を傾げる。

「先にこちらに寄られた奥方殿は
書き置きを残しておいたと仰有っていたと思うのですが」

料理を教えるためいつきの元に向かったまつは
わざわざ奥州に立ち寄り
以前貰った野菜の礼を小十郎に言いに来た。
その折り、目的地とそこに向かう理由、
そして、「旦那を独りにして大丈夫なのか?」との政宗の疑問に
書き置きを残して来た、と告げた。

政宗はその返事を耳にしてから懸念していたが、
それが的中していたらしい。

「嫁さんがいなくて大騒ぎしてるあの旦那が
それに気付けると思うか?」
「…確かに。
しかし何故はっきり教えて差し上げなかったのですか?」
「ah?
んな野暮、やるだけ無駄だろ。
あのHAPPYな夫婦は勘違いはあったとして間違っても仲違いなんかしそうにねぇしな」
「そうですね」

政宗は傷だらけの背中が消えた方向に目をやる。
見えなくなった姿を追うように、遠くを見つめて。

「本当、HAPPYな夫婦だ。
…羨ましいぐれぇにな」
「政宗様」

小十郎は、どちらをそう思われるのか、と尋ねたかったが、
藪をつつく勇気はなく
それについては黙するしかなかった。



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利家←政宗っぽくなったが確定ではない。真田と重ねている可能性もあり。
でも慶次→政宗は確定。

いつか書きたいとおもってたバトヒロ利ストーリー最終章手前。

連載の終わり手前で梃子摺ってて気分転換。

                              【20110731】