蒼天の霹靂;序章




熱い、と感じた瞬間、己の身を斬られたのだと知った。
身体から熱が失われていく感覚。
何処を、と確かめるまでもなかった。
がくり、と膝から崩れる。
足に力が入らない。
護る防具を貫き、刃が太股を深く抉っていた。

奥州筆頭である伊達政宗は、軍を率い大阪に乗り込んでいだ。
真田幸村との決着のためである。

戦場に数ヶ所設置された、真田丸と名付けられた砲台から降り注ぐ大筒の雨と
それが巻き起こす土煙により
部下達と分断され孤立無援になって数刻。

大勢の敵に囲まれ、だが所詮は雑魚ばかり、と
必殺技をもって吹き飛ばし、一掃出来た、と思った。

そこに油断が生まれたらしい。

近くに倒れていた、辛うじて息のある雑兵が、
下から攻撃してきた。
反射的にとどめをさし、今度こそ周囲に息のある敵兵がいないことを確認し
足を引き摺りながら物陰まで移動て止血を施す。
布を巻きつけただけの簡単なもの。

それだけで億劫になり、壁に背を預けずるりと崩れように座り込んだ。

視線を空に向ける。

未だに業火は降りやまず、爆発音が遠く聴こえる。
政宗がいる場所は陰になり稼働砲台の攻撃範囲から外れているようだ。
視界の端に着弾するが、余波も届かない。

安堵も込め、ふう、と長く息を吐いた。

「竜の右目」の二つ名を持つ腹心が怒る顔が目に浮かぶ。
戻ったら説教か、と思うと気が重い。
心なしか身体まで重く感じた。

苦く唇を歪める。
攻め急いでいた自覚はある。
何せ、己が宿敵と認めた唯一の人物が最奥で待っているのだ。

こんなところで、
と目を瞑り、
これもまた運命か、と自然に、口許を緩める。

一度大敗を喫した時はざわついて仕方がなかった胸も今は不思議と凪いでいた。

らしくない。
ここで終わるわけではない。
そう思い直したが
がしゃん、と耳に響いた音が
自分の兜が地面に着いた音だと気づく前には
気を失っていた。
 

                                                                【壱】

 


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                                                      【20100922;初出】