蒼天の霹靂;壱


 

 

それを見つけたとき、
元親は最初人だとは思わなかった。

いつもの、仕事場からの帰り道。
街灯の明かりの届かない小さな路地に視線を向けたのは
単なる偶然か何かに導かれたからか。

微かな光に照らされ浮かび上がった黒く盛り上がる塊が
どうにも気になり近付いて、
途中で倒れている人間だと判ると慌てて駆け寄る。

そして近づいて身を包んでいる物に驚いた。
現代ではまずテレビ番組以外で目にすることのない、
兜と蒼い陣羽織と鎧のような防具一式。
大通りから外れているとは言え、
街中でそんな格好で行き倒れる人物がいるなど。

だが、直ぐに気を取り直し
「おい、兄さん、大丈夫か?」
と顔を近づけ呼び掛ける。
身体つきから男だと判断したのだが、
そしてそれは正解だったのだが、
顔を観て更に驚いた。

眼帯が右の目を覆っている。
医療用でもお洒落的な意味合いを持つものでもなさそうな重厚感のあるもの。
薄暗い場所の上馴染みがなかったため元親には解らなかったが
それは刀の鍔であった。
元親も使えない左目を布で覆っているが、
見覚えの無いものであったため、相手のそれは必要の為にだとは思えなかった。





「…近頃流行ってるっていう武将のコスプレってやつかねぇ …っと言ってる場合じゃねーか」 意識を失っている青年の顔が余りに蒼白く、 元親は慌てて携帯電話を取り出し 救急番号ではなく、 友人のカテゴリに登録してある人物の番号に繋げた。 数回の呼び出し音の後、 『…こんな時間に何用だ』 不機嫌な声が応じるが 普段からそんな喋り方の相手なので 元親はまるで気にせず手短に用件を伝える。 「あんたんとこの近くで気を失って倒れてるヤツ見つけちまってよ。 今から連れてくから診てくんねーか。 観たところ太股に大怪我してるみてーだ」 『なれば救急車でも呼ぶがよい』 「んー、なんとなくそれは避けたいフインキっつーか」 『……雰囲気、だ馬鹿者。 まあよい。 連れて参るなら早くせよ』 「ありがてえ」 悪態を垂れつつも諾した相手に感謝を告げ ぷつ、と通話を切ると さて、と改めて青年の姿を眺める。 侍の様な格好。そこまではまだ良い。 だが、常識では考えられない事に、腰に三本ずつ刀が差さっている。 計六本。 偽物だとしても重そうだな、と気合いを入れ、 元親は戦装束の青年を抱え上げた。 予想並みにずしりと重みを感じる。 恐らく半分近くは装備の重さだろう。 だが外したり脱がせたりしていく時間はない。 重い物を持ち慣れている元親にしてみれば然程苦でもないので問題ない。 なるべく振動を与えないように、 だが迅速に、と 先程連絡を入れた、腐れ縁で悪友の、医者の元へと急いだ。                                        【弐】     










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現代の人達は名前は同じですが苗字は違うのでこの先ずっと名前しか出てきません。(予定)
電話の相手はあの人です。一番医者っぽいかなあと。(そうか?)                             【20100924;初出】