蒼天の霹靂;肆




元就は元親の履いているスリッパを奪い取ると力一杯投げ付けた。
スコンっと小気味いい音をたて、騒がしい闖入者の額に命中し、仰け反る。

「煩いわ馬鹿者。
怪我人が寝ておると言うに」
「呼んだのナリさんだよね?!」

体勢を立て直し理不尽! と喚いて困惑する相手を、
元就は冷たく睨め付ける。
「騒々しく入って来いとは言っておらぬわ」
「そりゃそーですけどねっ?!」
「…もう一発喰らうか?」

ヴォリュームを下げる気がなさそうな様子に
再度足元に伸ばしてきた元就の手を
元親は身体を捻って避けた。
「何で俺が履いてるヤツ取り上げようとすんだよ?」
「愚問よ」
「それより、その怪我人っていうのが政宗公なんでしょ?」
期待の色を満面に浮かべての問い掛けに、
元就は
「違う。
こんな場所にいるわけがなかろう」
キッパリと否定した。

「は?
じゃ、何で俺様呼ばれたの?
あんな思わせ振りな言い方しちゃって、
用があったんだよね?」
口をぽかんと開け首を捻る友人に、無理も無い、と元親は苦笑する。

「なくなったわ。
去ね」
「なにそれ?!」
「そりゃねえって元就。
兜とか刀とか観てもしかしたら、ってちいとばかし気になって
アンタなら判るんじゃねーかって呼んだみてーだぜ?」
「刀っ?!」
反射的にきょろりと室内を見回し、目的の物を見付けると、
小躍りして飛びつき改める。

「三日月の前立て!
観たことあるのとはちょっと違うかな。
刀…何で六本? 使い捨てかねぇ?
鎧も知らない形だなあ…
あ、籠手に雷の意匠がある。
独眼竜、なのに雷なのは理由があるのかな」
「……」

疑問の連発だ。
元親は感想を控えたが
「役立たずが」
元就はスパリと斬り捨てた。

「っあのねーっ。
四百年以上も前の事を全部が全部確実に解ってるわけないでしょ?
残ってるのは晩年の物が多いんだし。
数少ない資料から読み解いて行くのが研究家の仕事なんだからっ」
「御託は良い。最早用済みよ。
帰って布団と仲良くするが良いわ」
逆ギレのように噛み付かれるが元就は至って冷静に応じる。

「ちょ。せめて御尊顔拝見させてよ!
もしかしたらそれでわかるかも!」
「何を根拠に」
「まあまあ!
その人、だよね?」

強引にベッドまで歩を進め、
横たわる人物の顔を確かめるため腰を屈ませる。
すると、
寝ているとばかり思っていた青年はしっかりと眼を開けて覚醒おり、
覗き込んできた人物の顔を観て瞠目した。

「…っ武田…not、
真田の忍…っ?!」

動揺もあらわな声に、三人も驚き、固まった。

                           
                                                              【伍】

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筆頭は人の気配に敏感で起こされました。

政宗研究家っているんすかね。
(子孫の方が担ってるイメージ)

                                                              【20100928;初出】