蒼天の霹靂;伍


 

政宗は反射的に身を起こし、警戒するように身構える。
眼帯が外され晒された右目の痕すら睨んで威嚇しているようだ。
 
混乱していた。
声を聴いてまさかと思った。
他の二人は、因縁も遺恨も深い関わりもなく
そっくりであっても然程問題はない人物。

だが―。
 
「っつ…っ」
「興奮するな。傷が開く。」
忘れていた痛みに顔を歪めると、
元就がそっと労るように身体に触れた。
「…っthanx、docter…」
「あ、あのー… …ゴメンなさ、い?」

不用意に近寄ったため怯えられたのかと思ったのか、
びくびく謝ってくる相手に、
政宗も過剰反応だったかとふるりとかぶりを振った。
 
「…悪ぃ。なんでもねぇ。
だが、アンタ何者だ…?」

元就に支えられ、楽な姿勢で上半身を起こし
じっと見つめる。
 
作りも、色も、喋る調子も瓜二つ。
ただ、浮かべる表情は違っていた。
それは元就も同じであった。
この元就は、顔馴染みの毛利とは違い、
能面のような無表情の下に温かみを感じる。
そうでなくては医師などにならないだろうが。

「何者、って、…職業は、一応
伊達政宗公の研究家、かな」
 
政宗はぱちぱちっと音がしそうなほど二度大きく瞬きをし、
「…そのツラで?」
気の抜けた声で問うた。
 
「顔は関係なくない?!
…ないですよね?」
佐助が言い直したのは、見た目が年下のようであっても
本物の政宗であったら、との思いからだ。
 
「そこの佐助のヤツぁ
その武将さんの事を知ってからって言うもの、
調べるほどに惚れてって、
研究に生涯を尽くすって宣言してたんだぜ」
元親のフォローの言葉に、政宗は更に驚く。
内容に、ではない。

「さすけ?
 …あんたらあいつらにそっくり過ぎる上に
全員名前も一緒ってか。
ますますもってcrazyなheavenだぜ…」
語尾が段段と小さくなっていった政宗の呟きに、
元就はぴくりと眉を動かした。
 
「先程もそのような事を言っておったな。
あいつらとは誰ぞ。
 …否、元就とは毛利元就公か」
「yes、元親は西海の鬼、長曽我部元親。」
「へぇ。んな名前の戦国武将がいんのか」
「…おそらくは貴様の名の由来だとゆうに存ぜぬとは」
「そーいや自分の名前の由来とか聴いてねーな」
そういう理由なら納得がいく。
政宗は頷いた。
自分の「政宗」という名も、先人から貰っている。

「佐助ってのは…確か、猿飛だったっけな」
「猿飛佐助か。
真田十勇士は作り話だとばかり思っておったが」
「十人もいたかどーかは知んねーが
猿飛はいつも真田幸村の傍にいたぜ」
 
佐助は二人の会話をただ黙って呆然と聴いていた。

歴史に詳しくない元親は、自分と関係ない話では置いてきぼりだ。
ただ、元就がやけに楽しそうにしているのを不思議に思う。
 
「毛利…元就?
政宗公が若い頃の毛利元就を知ってる…?
政宗公は二十代前半までは奥州を平定していて
逢う機会はなかったはずじゃ?
真田幸村とも大阪の役でぐらいしか邂逅していないはずで…」
「han?」
 
混乱の余り目をぐるぐるさせている佐助に、
政宗は面白そうに笑顔を向けた。
きらり、と瞳が光る。

「どうやら俺はアンタの知ってる伊達政宗じゃなさそうだな?
毛利はそこのdocterと同じ顔をしてる。歳は知らねーけどな。
真田幸村は俺の唯一無二のraivalだ」

 「ほう」
「だから佐助に過剰反応したのか」
元就と元親は揃って納得する。
政宗は二人に頷いて見せ、
「アンタらの世界の歴史は面白れー事になってるな。
参考までに聴かせてくれよ。
この日ノ本の天下統一を果たしたのは、
一体誰なのか」

愉快そうな、軽い声。
だが本気の瞳をしている。

「っそれは…!」
 「その大阪の陣でこんな目に遭ったんだ。
土産話に聴かせな」
「夏の陣に出てる? その歳で?
…年齢が錯綜してるのか…時間が凝縮されてるように?
歴史がそんなに違うなら…」

佐助は頭を抱えていたが、ふっきったようにがばりと顔を上げた。
 「あーならもういっかな!
いーですよ教えます!」
どうやら検証を放棄したようだ。
 
「おい佐助?」
「貴様何を」
「good!」

止める二人を他所に政宗は満悦ぎみに良い笑顔で頷く。
余りに生き生きとした表情に見蕩れ、
頬が熱くなったのを佐助は自覚したが、
誤魔化し振り払うようにごほん、と一つ咳払いをした後
人差し指を立て、言い聞かせるように、
告げた。
 
「天下を治めたのは、徳川家康。
…政宗公が知っているその人が、
どんなかは知りませんけど」

政宗は否定していないだけで自分が伊達政宗だとは一言たりと言っていない。
だが、佐助の中では歴史的な齟齬があろうと、
目の前の青年は伊達政宗である、と決定したらしい。
 
歴史に疎い元親にはもとよりどうこう言う気はないし
元就も、あるがままを受け入れる心構えになっていた。


                                                                  【陸】


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そんなわけで筆頭はBASARA世界から「現代」日本に飛んできたのです。
だから、色色間違ってたらマジすみません。
(BASARA世界から繋がる「現代」日本なら間違ってても問題ないと思ってるので)
 
 

                                                         【20100929;初出】