蒼天の霹靂;陸

 

 

徳川家康。

その名前を心の中で咀嚼した政宗は、
ゆっくりと頷いた。

「成程、な…。
今のアイツなら不思議じゃねぇ」

豊臣秀吉を討った。
その事実からも納得がいく。
最早「戦国最強」の陰に隠れていた子供ではない。

「あのー。参考までに。
アイツって言い方するって事は、家康公もやっぱり若いんですか?」
はいっと手を挙げて質問する佐助に、

政宗はこくんと頷いてみせる。
「一寸前までこんくらいのガキだったぜ。
今は…俺と同じぐらいだがな」
手で示された身長と、そこから育った、という意味の言葉に
「ソウデスカ」
佐助は本格的な違いを痛感した。

だが、ならば―。

元就はその会話をズバッと斬り捨てる。
「そのような些末な事はどうでもよいわ」
「「些末?」っ!」
佐助だけでなく、政宗も驚く。
が、元就には逆にそれを不思議と思う。

「些末であろう。
なかった過去と、訪れもしない未来とを話し合ってなんとする。
それより、貴様は結局伊達政宗という名で良いのだな?」
「…あんた男前だな。
yes、そうだ」
「では政宗」
「…あ、ああ?」

呼ばれ、政宗は違和感を感じた。
直ぐにその正体を知ると、
仄かに擽ったそうな表情で身を竦める。

政宗は国主だ。
部下は「様」付けや筆頭と呼ぶし、
宿敵である幸村は「殿」付けで呼ぶ。「君」付けで呼ぶ者もいた。

他の国の、同じ国主であっても
伊達の、やら
独眼竜、やら
奥州の竜やら竜の兄さんやら竜の旦那やら青いおさむらいやら、
兎に角好き勝手な呼び方をしてくるが、
呼び捨てで名を呼ぶ人間はいない。
フルネームを呼び捨てられた事はあれど。

それゆえの反応だと、呼んだ元就は気付かず
政宗の立場を良く知る佐助が気付いた。
気付いたが、羨ましいが、
自分には出来ない芸当だと臍を噛む。

なにせ佐助は目の前の青年を
生きた歴史は違えど
敬愛する伊達政宗公であると認定してしまっているのだ。

などと葛藤していると。
「帰る手段がわからぬなら
それまで此処で面倒をみてやるゆえ感謝するがよい」
元就がさらりと宣言した。
「…ah、そりゃあ、助かる」

どういう経緯で迷い込んだのかも定かではないのだから
帰りかたなどわかるはずもなかった。
政宗は未だに死後の世界なのではないかと疑っているぐらいだ。
地獄にしろ、天国にしろ。

「「ちょっと待ったぁ!」」
残された二人は同時に異を唱え…もとい、叫んだ。

「そーゆーのは拾った俺の責任だろ?
政宗は俺んちで面倒みるって!」
元親も普通に呼び捨てにしているが
彼にしてみれば単なる年下の青年だから何の気負いもてらいもない。
反対の理由も責任感と義理人情に基づいている。
「政宗公と一緒に居られるチャンスが…っ」
佐助の方の動機は不純だ。ある意味純粋ではあるが。

元就は佐助を無視し、元親に向き直った。
「そもそも我は貴様には言ったであろう。
偽者ならば拾った貴様に任せ
本物ならば研究者たる猿に譲ると。
政宗は本物であったし、また、
佐助がその身を捧げている伊達政宗とは別人であった。
ならば我の管轄ぞ」

「…理屈が通ってるようでいてまるで納得がいかねーんだが」
「では貴様が払うか?
健康保険が効かない、十割負担の治療費を」
「……うっ」
政宗が保険証など持っているはずもない。
となれば、医療費の削減などは適応されない。

返答に詰まる元親に元就はフン、と鼻で笑う。
散財する趣味を有している元親が、大して貯金を残していないだろうと言うことは
想像に難くなかった。

「払えまい。」
黙した佐助も同様だ。
就いた仕事が道楽に近い佐助は、元就や元親と違い、元からの稼ぎが少ない。

その応酬に肩身を狭くしたのは政宗だ。
「ah、やっぱ金要るのか?
なら俺が払うべきだよな…
倒した敵が落としてったのなら何両か拾って、つかいつの間にか懐に入ってあるんだが」
「どういう戦い?!」
「両を現在の金にすると、どういうレートなんだ?」
佐助と元親が首を傾げる中、
「異次元の金銭は受け取らぬ。」
元就は歯牙にもかけない。

「貴様が此処に留まり我の世話をするなら
身体で払ったこととし不問としよう」
「ナリさん?! 奥州筆頭に何て事を…!」
「そんなんでいいのか?
OK、やってみるぜ。
宜しく頼む、docter…ah、モト、ナリ?」
「政宗様ーっ?!」
「うむ。」

政宗が快諾し元就が満足げに頷いた事で、
今後の身の振り方については最早決着が付いてしまった。


                                                             【漆】


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筆頭の所持金は1500両くらい。(フィーバー済み)

3の新キャラって呼び捨てる人いたっけ?
孫市さんの「独眼竜」だったような?

                                                    【20100930;初出】