蒼天の霹靂;玖

 

 

その変化に気付いたのは元就だけだっただろう。


初めは面白がって色色手を出していた政宗の作る料理の内容が、
政宗の時代にも入手できる食材と
調理出来る方法のものだけになっていっているらしき事に。
それは夕食の献立に顕著に現われていた。

その代わりのように、
三食以外に三時のおやつも追加された。
元就も元親も平日のその時間は仕事中なので自然夕食後のデザートに回される事が多いが。

佐助は、
政宗が語った彼が生きる戦国の世と
「猿飛佐助」についてずっと考えていた。

そしてようやくまとまったそれについての考えを
直接投げ掛けてみる事にした。
政宗が作ったぷりんを食べながら。

平日のおやつ時。
余計な茶々を入れる友人はいない。

「政宗様」
その時時で敬称が変わるようになったな、と、どうでも良い事をぼんやり考えながら
政宗は「どうした?」と応じた。

通常は「公」。やはりどうにも他人行儀だ。
「様」は改まった時で、
一番気安くても「さん」止まりだ。
難儀なやつ、と思いながらも
自分の纏う国主の矜恃のせいだとは考えもつかない。
それをものともせず呼び捨てる人間が身近に二人もいるせいだ。

佐助は四角張った表情で、
「本とか読んで目にしたと思うけど、
俺様のいる世界での政宗公は『遅かった人』扱いなんだよね」
そう前置きをした。

「…そうみてーだな」
政宗はこの時代の歴史書に遺された
己の知っている名前を持つ人間の、
有り得ないエピソードを面白がって読み漁っていた。
何せ熱血闘魂の四文字が果てしなく似合う真田幸村が、この世界では「智将」なのである。
違いすぎて笑ってしまう。

その内自分と同じ名の人物の、生き様や評価もどうしたって目に入る。
幾つか身に覚えのあるものもあれば
自分がしていなくても、思わず「cool!」と口笛を吹きたくなるほどの逸話もある。

それは武将としての最盛期を越えても尚積み重なっていて、
佐助が「伊達政宗公」に心酔する気持ちも解った。

その佐助が真剣に語っている。

「俺様もずっと思ってた。
政宗公が後もうちょっと早く生まれていたらって。
歴史にもしもを持ち出したら切りがないって判ってても」
「そうだな。」
切りがないし、意味がない。
政宗は頷いた。

仮定は意味がない。わかっていても、
魔王のオッサンは自分の手で討ちたかった。
だが出来なかった。
後悔しても変わらない事実。

「でも、アンタのいる戦国では家康公がまだ若いっていうなら、
俺達の歴史では徳川幕府がひらかれたけど
政宗公が勝ち上がる可能性がある。
…そうだよね」

佐助の真摯な言葉に、
政宗は自分が彼にとっての一縷の、生きた希望なのだと気付いた。
自分の部下でも何もない平和な国の男が、
政宗の天下を望んでくれている。

それはとても稀有な事だった。
「政宗公」と「政宗」の違いを実感しているだろうに。

だが。
「政宗なら、出来るよね」
佐助はそう笑った。
初めて、政宗の名を呼び捨てにして。
野望を語るに相応しくない優しい表情で。

だから、政宗は微笑み返す。不敵に。

「当たり前だ。天下は俺が獲る。
あんたらに、見せてやれねーのが残念だがな」

佐助は満足して頷くと、
「あーあ」
と嘆息し背凭れに身体を預けた。

「俺もアンタの天下獲りに尽力したかったよ。
俺様に似てる人…猿飛さんは、なんでアンタに付いてないんだろーね?」
「…言ったろ。
アレは真田幸村の傍が似合いだ。
俺には小十郎がいるしな」
「部下とかでじゃなくて。
国の主の器だって認める慧眼が無いのが残念だって言ってるの。
政宗公の話を聴く限り、主の真田幸村にその気はなさそうだし
そのお館様だって病気で臥せるほど衰え始めてるなら
後押しする相手を政宗公にしたっていーのに」
「…そりゃあ俺がまず虎のオッサンに認められねーと無理だな。
病気も一時的なもんでまだまだ現役だぞあのオッサン。みくびるなよ?
それに第一、真田の忍は俺を嫌ってる」
「それが本当に信じらんらいんだよねー。」

深い溜め息。
名前と顔が同じと聴いて気になっているのだろうが、
やけに突っ掛かる。

「政宗公の魅力に気付かないなんて
忍隊の長とか言っても、その人の眼、節穴なんじゃない?
同じ時代にいるのに勿体無い…いっそ代わりたいよ」
しみじみと、それが本音のようだったが。

「やめときな。アンタには似合わねぇよ。
…戦いの世は」
そして多分、この佐助が戦乱の中生まれ育ったら
あの佐助になる気がした。
確証もなく、証明も出来やしないが。

「でも」
「良いさ。
その分アンタが充分わかってくれてる」
「…まさむ…」

「おいおい。二人だけの世界はよしてくれよ」
「他人から向けられる想いに気付かぬようでは生半可であろう。
日ノ本を統べるのはまだ先のようだな」

佐助が感激して立ち上がり、
政宗に手を伸ばしかけたところで
邪魔―元親と元就が現れた。

どっから聴いてたの、とか
なんで今入って来るの、と
佐助は恨めしそうに睨むが

「っはは、sorry、あんたらが、だな。
…thanx」

政宗が余りに幸せそうに笑うので、
どうでも良くなってしまった。


                                                         【拾】 
 

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あそこまで歴史を改竄してるならBASARAの正史は伊達幕府がいいなあ
という願望。
3でもそれぞれ「天下統一」EDがあるんだしさー。
むしろ4は(でるなら)それぞれが設立した幕府の話がいいなあ。
うん、ジャンル、スタイリッシュヒーローアクションじゃなくなるな。

                                                          【20101004】