竜飛疾駆;弐

 

 

「にしても」
政宗は一歩分離れ、佐助の姿をじっくりと眺める。

「珍しい格好してるな」
「作務衣?
夜に祭があるから。なんとなくね」
「party?」
「どっちかってーとフェスティバルかな。夏祭り。
夜店とか花火とか」
「そいつは楽しそうだ。
似合ってるぜその格好。」
作務衣の色は渋い緑。
迷彩柄ではないが、同じ顔の忍が常に纏う装束と似た色だった。

だからか? と政宗は思いながら
「…足元で台無しだがな」
駄目出しは忘れない。
何故その服に靴なのかと。
「草履は後で履き替えるつもりだったんだよ」

スニーカーを履いていたのは、だが逆に良かったかも、と佐助は思う。
都会の固い地面に慣れた足には
柔らかな土の上は歩きづらかった。
草履であれば更にだったろう。

それはそうと、と佐助の頭に疑問が浮かぶ。

「来てくれて助かった…んだけど
何でこんなとこに独りでいんの?
側近…小十郎さんとか心配しない?」

以前話を聞いた限りでは
その小十郎は佐助の知る歴史上の片倉小十郎の初代と二代目が足し合わさったような人物のようだ。
そしてなんとなくとても過保護そうであった。

「その小十郎と喧嘩した」
思い出したのか、政宗は苦虫を噛み潰したような表情になる。

「は? 喧嘩?」
「ほら、着てた服が変わっちまったじゃねーか。
それを検分されて、写真見つかっちまって、
駄目にされた。
たった一つの大事な想い出だったのに」

服の方は結果問題なしとなり
出来が良く政宗に似合っているからと無事であったが
あれは向こうの世界のものではあるものの想い出の品ではない。

だから怒りに任せて飛び出してきたと語る政宗に、
佐助は冷や汗を流す。

その気持ちは有り難い。大変有り難いのだけど。

「…ナリさん…目論見通り波風立っちゃってたよ…」
佐助は空を見上げた。
元就がいる世界とは繋がっていないと知りつつ。

「それで、今着てる服が普段着なんだ?
刀も一本しか持ってないし」
深い蒼に黒い帯を合わせた着流しはとてもよく似合っている。
「ま、この辺は伊達の陣地だからこれでも問題ねぇ。
どこぞの忍が襲って来たら難しいだろーが」

隠れて話を聴いていた「どこぞの忍」は反射的に身構えた。
バレていないだろうし、襲いに来たわけではなかったのだが。

「未練があるわけじゃねーんだが腹が立った。
…ah、未練がねぇっつっても」
「判ってるよ」
慌てて弁解しようとする政宗に、
佐助は必要ないとばかりに首を振った。

「アンタがやるべき事の枷になんてなったら俺もナリさんもチカさんもやるせないって。
たまに思い出してくれれば充分。
忘れられても当然」
「…thanx」
「どーいたしまして。」

にっこりと笑う佐助にはどこにも無理が感じられなかった。

泣きながら別れを惜しんだ事を
忘れたわけでもあるまいに。

政宗は佐助を真っ直ぐ見つめた。

「……佐助」
「はいはいなんですか」
「駆け落ちでもするか」
「は……」

「はあぁ?!」

樹の上で聞き耳を立てていた忍の方の佐助は危うく大声を上げかけ
枝から足を滑らせて地面に墜ちそうになった。

                                                       【参】

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着てる服の説明をあまりしてないことに気付いた。(遅)
伊達さんの着流しはSQ漫画のいつきちゃんの話のときに着てたののイメージ。


                                                     【20101019】