似て非なる / 慶政

 

 

 

「独眼竜ってまつねぇちゃんに似てるよな」
「han? あのおっかねぇ嫁さんにか」
「そうそ。
料理も旨いし気立ても良いし。
いーお嫁さんになれるよ。旦那さんは尻に敷かれそうだけどね」

朝早くに城に押し掛けてきたかと思えば
ちゃっかり一緒に城主手製の食事を摂り
腹一杯倖せそうににこにことそんな事をのたまう風来坊を
政宗はじぃっと見詰めた。

執務は後半刻後から始めると側近には告げてある。
慶次はそれを良いことに
政宗の部屋に居座り勝手にあれやこれや話し掛けてきた。

「旦那って言やぁあの嫁さん、
真田幸村に自分とこの旦那と似てるとか言ってたらしいな」

政宗は以前幸村が何故か自分にそのことを告げ
「褒められたのでござろうか…?」
と首を傾げていた事を思い出す。
あれだけ仲睦まじい夫婦が連れ添いに似ていると評したのを
貶してだとは普通思うまい。

「へぇ、利と?
あーうん。確かに似てるかも」
こちらは多少軽んじた空気が含まれているのは気のせいではなかろう。

「あいつも嫁さん貰ったら利みたいになれるのかねぇ。
観てみたいけど相手が想像でき…
……」

ぴたりと言葉と動きが止まる。
頭の中を何かが駆け巡ったらしい。

「だっ、駄目だっ」
「何がだ?」
慌てふためく慶次を、政宗は面白そうに眺めている。

「う、えっとその、
っあーもう!
旦那には俺がなる!」

何度か言い淀みながら思い切ってそう宣言するが
「なんだなんだ。
アンタあの嫁さんに岡惚れしてたのかよ」
政宗はひらりとかわした。

「そーじゃなくて!」
「わかってる。JOKEだ」

くすくす笑い、
それをおさめると政宗は慶次をひたと見つめた。

「誰其と似てるとか似てねぇとかは口説き文句としちゃ三流じゃねーか?
何で似てるからって似た相手と番うなんて思うんだよ」

慶次はうっと言葉に詰まる。

まつに似てると言い出したのは
つまりは慶次が政宗を理想の嫁だと思っていると主張したかったのであって
政宗はそれと知って軌道をわざとあらぬ方へねじ曲げたのだ。

それに気付き、慶次はポリポリと頭を掻いた。

「アンタにゃ敗けるよ」

胡座をかいた膝に乗っていた夢吉が
慶次を見上げ慰めるようにきぃ、と一声鳴いた。

政宗はその夢吉を掬い上げると
すり、と軽く頬擦りする。

「そもそも
見境なしに『あんたに惚れた』なんて言う野郎の言葉なんかに
重みは感じられねぇぜ?」
「あれは技の掛け声なんだけどねぇ」

それは言い募ったところで
言葉を飾ったところで無駄だと言っているのか、
あるいは。

「政宗」
慶次は中腰の姿勢でずいっと顔を近づけた。
行動で示してみようと。

「…残念」
「へ?」

夢吉をひょいと慶次の眼前に差し出し、政宗はにやりと笑う。

年相応、ともすれば幼くも見えるその笑い方は
こっそり慶次のお気に入りなのだが
如何せんこんな表情を浮かべるときは大抵相手をがっかりさせる気満々なのである。

「time limit―時間切れだ。
アンタがいちゃ仕事がはかどらねぇ。
お帰りはあちらだぜ」

案の定であった。

慶次は仕方なくよいせっと腰を浮かせる。

「あしらい慣れてるねぇ。
口説かれるのなんて茶飯事かい?」
「俺を落とそうなんて酔狂な奴はアンタ以外にいねぇよ。
城の連中に勝手を目零しするよう言っといてやってんのもな」
「それって…」
「駆け引きなんざ趣味じゃねぇ。
奪うぐれぇの気概じゃなきゃ何もくれてやらねぇぜ
色男」

慶次はその場に立ったまま見上げてくる政宗の顔を
まじまじと、穴が空くほど眺めた。

そしてにっこりと笑うと
「成程。
独眼竜は強引なぐらいの直球がお好みって訳かい」
「そうは言って―」
「ちょいと御免よ」
ひょいっと政宗を横抱きに抱えあげる。

「っなに、」
「遠慮は無用、って事だよな!
喰らいそびれた奥州名物、
持ち帰ってじっくり味わせて貰うよ!」

片手だけで政宗を支え、超刀を残る手で持っている。
両手が塞がっているため
行儀悪く足ですぱんっと襖を開け、
「どいたどいた!」
と廊下をひた走る。

そして窓を見付けると枠に足を掛けた。
今いる場所は、まだ一階ではない。

「待っ、」
「翔ぶよ! しっかり掴まってなよ独眼竜…
政宗!」

何せ顔を合わせたら最後、素直に通してはくれないだろう
おっかない竜の右目がいるのだ。
城内からは早々に脱出するに限る。

「ほっ」
刀をぶん廻し、風を起こして危なげなく地面に着地する。

「ったく」
政宗は慶次の首にきつく回していた腕の力を弛めた。

言ったではないか。目零しさせていると。
小十郎に見付かったとしても見逃して貰える筈だった。
今回限りではあるが。

「キィ?」
慶次の肩に掴まっていた夢吉が不思議そうに首を傾げる。
政宗は頭を撫でてやり、
夢吉に向かい囁く。

「ま、折角だし内緒にしておくか。
な?」
「ききっ!」

わかっているのかいないのか、
夢吉は愉しげに、
返事をするように鳴いた。


 
                                               →続; 【似ても似つかぬ】



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台本全集持ってるのに活用してないなーと思って。
多分ゲームの2の後。慶次と政宗のルート後?
しっくりくるカップリングも模索中。りぼーんで書いてるDSみたいな関係になった。

筆頭は前田夫婦の所に連れて行かれますよ。(京都は遠いので)
前田夫妻が思いのほか好きみたいです。
「2」の筆頭の台詞で一番好きなのは利家への「腹いっぱい喰ってきたか?」みたいな台詞です。(真顔)

城の構造がわかりません

                                                      【20101022】