竜飛疾駆;肆

 

 

 「ちっ。逃げそびれたか」
苦々しく舌打ちする政宗、に佐助は「どなた様?」と耳打ちで訊く。
なんとなく予想はついていたが
佐助の知る史実では政宗の側近は有名なところだけで三人はいる。

「小十郎だ」
「この人が? 政宗の右目!」
おおーと感激する佐助に政宗は少し気分を浮上させ
「…感想は?」
と尋ねてみた。

佐助は考え込み、恐る恐る浮かんだ結論を口にする。
「……極道の人…?」
「HA! 言い得て妙だな」
極道の意味と、どういう人種をさすかは元親に見せられた映画で理解している。

仲睦まじい様子の二人に、小十郎は無言で近付いていった。
ざくっざくっと足音がやけに大きく響く。
その迫力に、一般人である佐助は顔をひきつらせ一歩退く。

「政宗様…」
ざすっと一際大きな音をたてて足を止め、
静かに主の名を呼ぶ。

「この小十郎、
謝らねばなりますまいと急ぎ追って参った次第。
と言うに…よもやこのように、忍と密会などなさっておられるとは」
「二重に誤解だ小十郎。
これは密会じゃねーしこいつも忍じゃねぇ。
それに、
悪いと思ってねぇってわかるのに謝られても不快なだけだ」
「…っそれは、
ですが、
このような者の絵姿など持っておられる意味がわかりませぬ!
其奴は敵の忍です!」
「だからこいつは『敵の忍』じゃねーんだって」
「戯言を。
世迷言を仰られては困ります!」

「政宗、言い合っててもどうにもなんなさそうだよ」
なにせ見た目や声が似てるらしいのだから、
と佐助が間に入るが
それが余計に小十郎の癇に障ったらしい。

「貴様、政宗様を呼び捨てるとは何様だ!
政宗様、そこを動きめさるな。
その無礼者は小十郎めが討ち取って御覧に入れますれば!」
「落ち着け小十郎。
柄から手ぇ離せ。一発でこいつの首が飛ぶ。
…そうだな。埒をあけるか」

政宗は庇うように佐助の前に出てふうっと息を吐いた。

「痺れを切らすかと思ったが意外としぶといな。
いい加減無関係を装われるのも腹が立つ」

「政宗?」
「政宗様?」
ぶつぶつと呟く政宗に佐助と小十郎が問うように名を呼ぶが、
それには応えず政宗は刀を抜き、ずさっと足を開いて刀を構える。

狙いは暗闇の先―一本の樹の上部のようだ。

「大人しく出てくれば良し。
五数える内に出て来ないなら―」
ちゃきっと刃を鳴らし威嚇する。

佐助の位置からは乱れた裾から脚が覗いて見えとても目の毒だったが
それを小十郎に気付かれては生命の危険のような気がして必死に冷静を保っていた。
ので、思考が停止していたのだが、
小十郎はまさか、と切っ先の向こうを凝視していてそれどころではなかった。

「五…四…三…二…一」

カウントダウンを終えると政宗はニィっと笑った。
身体に静電気のように雷が走る。

「覚悟は出来てるな?
行くぜ、HELL…」
「わわっちょっと待った!」
「待てねぇな…―DRAGON!」

刃の先から雷が迸り闇を切り裂く。
その光で、
慌てて樹から降りてきた人物の姿が照らし出された。

放たれた雷は奥の樹に当たり四散する。
辺りは再び宵闇に包まれたが、
「っな…?」
小十郎は困惑し
「この人が…?」
佐助が目を瞬き
「覗き見とは感心しねぇなぁ?
真田の忍」
政宗は刀を鞘におさめると
それで肩をとんとんと叩き首を横に傾げた。

五つの瞳に注目され、
猿飛佐助はへらっと笑う。

「…こんばんは?」

気の抜けた挨拶と共に、右手を挙げて。

                                                                                         【伍】

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すみませんそんなわけで次回以降混乱必至です。
W佐助を会させる事になろうとは…

                                                        【20101023】