竜飛疾駆;伍

 

 

迷彩柄の忍び服。
額当てに、顔には三ヶ所鼻の頭の少し上と両頬にペイントがある。

ぱっと観、佐助はその忍が自分に似ているとは思わなかった。
印象が余りに違うように感じられて。

だが、じっくり観察すれば確かに顔の造りは丸っきり同じ。

この人物が、「猿飛佐助」―
政宗の、目下の敵の、忍。

「で」
その猿飛佐助は佐助を横目で観やった。
冷たい眼差しで。

「その男前のオニイサンは一体誰なのか訊いてもいいかな
独眼竜?」
忍の佐助の問いに
「サスケだが?」
政宗はしれっと応える。
とても簡潔過ぎて、
「政宗様、答になっておりませぬ…」
小十郎は眉を下げた。

「だが他に答えようがねぇぜ?」
「失礼ながら、騙されておられるのでは。
こうも同じ風貌の男が二人並ぶと面妖です。
どちらかが化けているとかありませぬか」
「双子の人はどーなんの…」
佐助は心の中で突っ込んだ。

実際は双子ではないのだし
口に出してこれ以上ややこしくなってしまってはたまらない。

忍の方の佐助は合点がいったようにはっと顔を上げた。
「まさか伝説の忍っ?!
俺様に化けてんの?」

化けれるものなのだろうか、と佐助は思い、
「…すっごく気になるよ伝説の忍さん…
どんだけ凄い人なの」
ぽつりと呟く。
「噂が独り歩きする良い例だな」
政宗も苦笑しているが、人の事を言えた義理ではない。
無駄に話題にのぼらされて、
さすがの風魔も遠く小田原あたりでくしゃみぐらいしているかも知れない。

二人は知らないが、
猿飛佐助自身が己が主・真田幸村に化けたことがあるからこその発想だった。

「hey猿飛。
コイツが風魔だとしてももちっと化ける相手選ぶと思うぜ?
西海の鬼とかな」
「…西海の…
…チカさんに似てるって言う? 何で?」
「アイツは今俺の軍門に降ってる。
同盟中だ」
「…は?」
確かに味方に化けた方が油断を誘えるだろうがそうではなくて。

「チカさんとナリさんに似てる人達とは因縁とか関わりとかがないって言ってなかった?」
「協力を要請するためにあいつらの所に出向いてって武力行使したぐらい、
しか、な」
「なにそれ?!
ってかあいつらってじゃあまさかナリさんのそっくりさんとも?!」
「奥州から遠い四国と本州南部は
任せられる奴に抑えておかせてーしな」

毛利は安芸は任せると言ったら意外とすんなり懐柔された。
元から支配してる連中と結託するのが手っ取り早い、
と嘯く政宗に、
「そーゆー事じゃなくて!」
と佐助はがくりと肩を落とす。

「そんで俺様のそっくりさんとは未だ微妙な関係なのね…」
無駄に仲良くされてもそれはそれで腹を立てそうな気がするが。

その様子に、小十郎は眉間に皺を刻む。
「忍…にしては情報に疎すぎやしないか」
猿飛の佐助は頷いて同意を示し、
「そんで竜の旦那、その人一体何」
改めて尋ねた。

「どう説明すりゃいいのか…
heyサスケ、持ってきてねぇか?」
「何を?
…あ、わかったこれ?」

佐助はズボンのポケットを探った。

取り出したのは、携帯電話。

「なに、ソレ?」
「からくり、か?
しかしえらく小さい…」
「百聞は一見にしかず、ってね。
えーっと、これとか?」
首を傾げる二人に携帯電話を向け、
佐助はボタンを押した。

ぱしゃっ。

「good job」
思い通りの行動だったのだろう。政宗は満足げに頷く。
「眩っ、」
「テメェ、一体何を」
暗闇の中いきなり光を浴びせられ、
目をチカチカさせる二人に、
佐助は画面を見せた。

「こう言う事ができる物なんですが」
本来の使い方は通信が主であるが相手がいなくてはその機能を示せない。
だから写真を撮ってみせる事にしたのだ。

画面に写された自分達のそのままの姿に、
猿飛佐助と小十郎は瞠目する。
「…一体」
顔を向け説明を求めてきた小十郎に
政宗は肩をすくめて親指で佐助を指した。

「つまりコイツは未来から来た訪問者だ。
you see?」

「…信じらんないけど納得するしかないかな」
「しかし何故」
「それは腰を落ち着けて詳しく話す。
小十郎、さすけと猿飛も連れてくが良いか?」
「お世話になります…」
佐助はへこりと頭を下げ
「へ? 俺様も?」
猿飛佐助はキョトンとした表情で自分を指した。

「用があって来たんだろ?
諜報するにも今更収集する情報もねーだろーし」
「あー、うん。はい」

謝りに来た、のだが、
それどころじゃなさそうだし
混乱に乗じてこのまま有耶無耶にして帰ってしまおうかと思っていた。
だが「佐助」の正体を知らずに戻るのでは後ろ髪を引かれまくるだろう。

結局猿飛佐助は、付いていく方を選択した。

「政宗様、それは」
反対しようとする気配を察し、政宗は鋭い眼光を返す。
上に立つ者としての佇まいで。

「それで、
お前が俺の物を勝手に処分した咎は帳消しにしてやる」

「…っ!
……わかりました。」

小十郎は畏まると粛々と深く頭を垂れた。


                                                  【陸】


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政宗青ルートを確認したら
元親と元就両方避けるルートが一個しかなかったんで
いっそ仲間になってもらった。

…計画はしっかりと。でも結果オーライ。

                                      【20101026】