竜飛疾駆;陸

 

 


四人は本陣に戻ると
先に小十郎が政宗を伴い入った人払いをした室内に
二人の佐助を招き入れた。
忍の佐助独りであれば周囲に気付かれる事なく入り込めたであろうが
もう一人の佐助は一般人なので知られずに忍び込むのは難しい。

全員が腰を落ち着けたのを見計らうと、政宗は口を開いた。
途中、佐助が口を挟み話が脱線しかけ長くなりかけたが
その度小十郎が軌道修正をさせ
何とか内容を把握した。

したのだが。

「…にわかには信じられませぬ」
政宗から掻い摘んだ事情を聴いた小十郎は、
額に手を置き頭の中を整理する。

違う歴史の存在する未来。
そんな場所に政宗が行っていたなど、
そう簡単には受け入れられない。

「けど確かになそれが一番納得できる説明かもね」
猿飛佐助は案外すんなり受け入れた。

突然戦場で衣装が変わった事も、
…急に佐助に対する態度が軟化した事も。

「そんな訳で小十郎、コイツが帰れるまで置いてても良いだろ。
世話になったんだ」
「…仕方ありませんな」

信じられないながら、
政宗たっての頼みならば無下にも出来ない。

ただ、それならば。

「この見た目ではそこの忍びかと疑念を抱かせかねません。
なにせこれ程までに瓜二つ。
二人一度に皆の前に立たせ何か説明致しませんと。」
「俺様も?!」
「一緒じゃねーと意味ねーだろーが」
政宗もしれっと言う。
猿飛佐助も連れてきたのは最初からそのつもりがあってだったのかも知れない。

「忍が衆人の前に姿晒すってなにその罰」
「ゴメンね~えーっと猿飛サン?」
「アンタも誠意が見えないよ…」
「そんなところまで良く似てやがる」
「だろ?」
小十郎の呟きに政宗が頷き、
忍の佐助にきっと睨まれ視線を反らす。

小十郎はごほん、と咳払いをした。
「何にしても夜が明けてからだ。
部屋を用意するが二人一緒で構わねーな?」
「帰っていーですか」
はいっと手を挙げ尋ねる猿飛佐助を
「却下」
政宗はすげなく斬り捨てる。

「何でっ?!」
「用事を済まさずに帰るのか?」
「いや今すぐじゃなくてもいーし部屋借りるの悪いし明日また改めて来るから」
そう言って腰を浮かし掛けた猿飛佐助の腕を
佐助ががっしりと掴んだ。

「…何?
えーっと、サスケ君?」
「いやあ。
慣れない世界に独りは不安で。
それにちょーっと訊きたい事もあるもんで」
「訊きたいこと?」

二人が会話してる様子を観て政宗は顎に手を当てる。
「声もまるっきり同じでどっちが喋ってんのかわかりづれぇ…
確かにシュールな光景だな」
小十郎はこくりと頷き同意を示す。
「実に奇っ怪ですな」
「まぁ確かに政宗が増えた方が目の保養になるだろーけど
その言われ様は傷付くなー」
「俺様と似たような声して何言っちゃってんのっ?!」

佐助の言葉に猿飛佐助が気色ばむが
政宗はまるで動じずよっと腰を浮かせた。

「それじゃ仲良くやれよ。
部屋は小十郎に案内して貰え。」
言いながら二人の脇を通り過ぎた後「そういや」と振り返る。

「俺もサスケに訊きたいことがあったな。
落ち着いたら俺のところに来い。
寝ちまう前にな」
「政宗様っ」
「野暮は言うなよ小十郎」
窘めようとした小十郎を先んじて制す。

「所詮刹那の逢瀬だ。
悔いを遺させんな」
「…は。」
諦観を含んだ言葉に
小十郎は畏まって頭を下げた。

政宗が退室すると小十郎は打って変わった厳めしい表情と口調で
「てめーら付いて来い」
と命令し、振り向きもせずずんずん先を歩いて行った。

                                                       【漆】

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やり取りを書くのが楽しくなって予定の所まで進めないという。

                                              【20101030】