竜飛疾駆;漆

 

 

 

部屋に案内され、二人きりになった佐助のうち、 先に口を開いたのは忍の佐助の方だった。 「で、俺様に何の用?」 「何で好きな相手にすげない態度とっちゃってんの?」 「なっ…?!」 余りにも直球で訊かれ、 佐助は自分が忍であることを忘れて感情剥き出しの反応をした。 「あ、アンタには関係ないでしょ?!」 咄嗟に挽回を謀るも今更取り繕うのも無駄かと開き直る。 佐助キッと目を吊り上げた。 「大有りです! 政宗に面と向かって嫌いだなんて言ったって言うから 政宗の魅力に気づかない馬鹿なんだと思ったら 気付いてるのに素直になれない大馬鹿だったなんてさ」 「それこそアンタにもっと関係ないよね? 真田の大将といいアンタといい、 独眼竜に直接嫌いって言って何が悪いの」 「そのせいで俺様暫く政宗に警戒されてたの!」 「アンタが俺にそっくりなのが悪いんじゃん!」 「全くそうだよ! あーあ。まだ真田の大将さんとやらに似てれば良かったのにな」 がっくりと肩を落とす自分そっくりな男を 佐助は不思議な気持ちで眺めた。 逢ってろくに会話もしていないのに 自分の気持ちを見透かされた事もだが。 「アンタ、 そんなに竜の旦那が好きならここに残ってずっと傍にいればいいじゃん」 「でも政宗曰く、 俺はこの世界じゃ生き残れないだろうって。 俺もそう思う。 残ってもずっと一緒にはいられそうにないし」 無理。と薄く笑う。 既に平定された世界―刀を持つ事を禁じられた世界から来たのならば 確かにそうだろう。 城の中だけで遣えるのなら別であろうが、 きっとこの世界に留まるならば なるべく近くから政宗の天下統一を助けたいに違いない。 多分。 「アンタさ」 猿飛佐助は佐助と会話していてずっとムズムズしていた。 その理由がわかった。 思わず口をつく。 「あんま政宗政宗連呼しないでくんない?」 「……は?」 「……っ!」 溢れ出た言葉に 言った佐助も言われた佐助も絶句した。 意味を理解したと同時に佐助は肩を震わせる。 「っく…っ」 「笑わないでくんない? いや、むしろ、いっそ笑い飛ばして欲しいんだけど。 …ったくもー」 顔を朱くし笑いを堪える佐助に 別の意味で顔を紅くした猿飛佐助は不貞腐れながら頭を掻く。 調子が狂う。 まるで自分相手なのがまた厄介だった。 ここは話題を変えるに限る。 「それでアンタは 竜の旦那の訊きたいこととやらに心当たりはあんの?」 「多分。 別れ際に俺が言い掛けた言葉が何だったのか、 あたりかな」 「…ふーん」 興味なさげな相槌を打ち 佐助は既に敷かれていた布団の上に転がった。 そこでいきなり襖が開かれた 伺いもたてず現われたのは片倉小十郎その人である。 「おいテメェら。 風呂に入って汚れ落として来い。 特に忍じゃねぇ方。 この後政宗様に目通りすんなら尚更だ」 「「この人と一緒に?」」 お互いを指差す同じ顔の男の反応に 「文句あるのか」 小十郎は上から凄んだ。 溜まりに溜まった不機嫌を噴出させたような迫力に 「「ありませんすみません」」 一般人である佐助だけでなく忍の佐助も大人しく平伏した。 風呂までの案内役も小十郎が担った。 暇ではないはずだが 下手に二人の佐助を人目に晒させる訳にもいかないからだろう。 かと行って政宗が案内するなど以ての外であるのだし。 「戻るのは好きにしな。 忍の方ならこっそり動けるだろう。 そうじゃない方はそいつに従え」 だがさすがに最後までは付き合ってくれないらしい。 「やーっぱ広いお風呂だねぇ。 どうせなら政宗と入りたかったなー」 気持ち良さそうに湯に浸かり 独り言のように呟かれた佐助の言葉に 猿飛佐助は無言で眼を閉じ、天井を仰いだ。

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 遣り取りが長くなって予定通りのところまで以下略。

こっちの方が長くなりそうなんで平行進行はこの辺までかなあ。
いやあっちも予定の倍以上の長さなんだが。

                                                 【20101101】