遺されし右目 終章

遺されし右目 の続きというか終わり部分

 

※結局風政だった※
※やっぱり黒幕は彼だった※
※つか松永さんはこれでいいのだろうか※
※思いのほかBAD EDじゃなかった※

 


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風魔と彼を雇った黒幕とを探し求め
小十郎が行き着いた先は、
ある意味予想通りとも言える人物のもとだった。

「松永…久秀…!」

憔悴しきった小十郎を見下し、
松永は大仰な動作でぱんぱんと手を叩いた。
拍手にしては遅いテンポで。

「いや愉快愉快。
まさかこれ程までとは思わなかったよ」

余裕ぶった態度に腹の底が煮えたぎり、
小十郎はぎりっと歯噛みをして射殺すような眼差しで睨み付ける。

「風魔を差し出せ…!
奴が連れ去った政宗様の亡骸共共!」

ドスをきかせた声に怯みもせず、
松永は嘲るようにふっと笑った。

「それは実に難しい。
彼は独眼竜をいたくお気に入りでね。
彼から引き剥がしたのち命を奪わねばならぬというのは、
少々骨が折れる」

「…テメェ…何を」
言っている、とは言葉にならなかった。

闇が生まれた。
そこから風が巻き起こった。
闇が黒い羽となり、舞い散る。
現れたのは
あの夜の悪夢の再現のような。

「政宗様…?」

違うのは、風魔に抱かれている人物の血色だ。

「…生きて…」
「卿は少しばかり冷静さを欠いていたようだ。
否、風魔の技が見事なのか。
そうとも。生きている。
独眼竜は実に慈悲深いな。
君によって誰かが屠られたという話を耳にする度
強く胸を痛めていたようだ。」

「…政宗…様…」

へたりと足から崩れ落ち、
呆然と、ただ名前を呼ぶしか出来ない己の右目を
政宗は左目で見つめた。
しかし直ぐ苦悶の表情になり目を伏せる。

「……すまない、小十郎」
止められず、戻れもせず。
今も自由を持たない我が身に、
嘆くより先に申し訳なさが身を焼いた。

風魔は腕の力を強め、政宗をきつく抱き締める。
喋らせまいとするように。

「おやおや。随分と独占欲が強いようだな。
好きにさせていただろう。
これが済んだらもっと好きに出来る。
話ぐらいさせてくれ給え」

松永の言葉に、
風魔は不承不承と言う様子で政宗の後ろに回り
少しだけ身体を解放する。
腕は巻き付けたまま。

「…松永」
ひた、と見つめてくる一つだけの瞳は、
静かで、だが奥底には怒りの焔が見える。
松永は満足そうに口を歪めた。

「君の右目は実に優秀だ。
彼が本気を出せば覇道がこんなに早く成るのだよ独眼竜。
後は君が歩くだけだ。
夥しい骸が転がる、血に塗れた道を」

「テメェは何がしたい…!」
「観たかったのだよ。黒き刃を。
想像以上だ。
実に、実に面白い。そうは思わないかね独眼竜?」
「何故俺を殺さなかった!」
「見せたかったのだよ。卿にもね。
知っておくべきだろう?
己が右目の本当の姿ぐらいは。
尤も、風魔の強力なしには無理だったが」
「…風魔…っ」

身を捻り、政宗は風魔の顔を見上げた。
下半分しか見えない表情は、どこか怒られた子供のようであった。

政宗は松永からは見えないように、
その背の下から刀をそっと抜き取る。
刃が自分に向けられるという可能性を考えなかった訳でもなかろうに、
風魔は止めなかった。

「離せ。」
命令にふるりと頭を振る。
現在の雇い主は松永。
契約はまだ終わってはいない。

だが。

「ふ」
再び名を呼ぶように動く唇に
己の唇を重ねた。

より強い契約で上書きすればいい、とばかりに。

「っ?!」

何が起こったのか解らなかったのは
政宗や未だ放心状態の小十郎だけではなく、
的確に、急所から僅かにずらして刺された松永もであった。

「…隻眼の竜は風の悪魔をも魅了したか…
ハハハハハ!
これだよ! これだから人生は面白い!
番狂わせが往々にして起こり得る!」

ごふり、と口から血が溢れる。
声は、負け惜しみなどではなく、
本気で愉しげだ。
いまわの際だと言うのに。

「だが卿の未来には最早王道は無い。
焦土と化したこの国を、
好きにするがいい…!」

芝居がかった動きで手を広げて見せる。

風魔が松永を即死させなかったのは
依頼主たる彼の美学を重んじての事だったのか。

いつ仕込んでいたものか、
松永は爆薬を点火させた。
人一人を吹き飛ばすには大き過ぎる爆発が巻き起こる。

風魔は巻き込まれはしなかった。
だが、政宗を見失った。

直ぐに、
元の場所から離れ、
座り込んだままの小十郎の近くにいるところを見付ける。
近付こうとして思い直し、その場にとどまった。

「小十郎。顔を上げろ」
「は…っ」
小十郎は諾と従ったが、
その手にある風魔の刀が目に入り、
再び頭を垂れた。首筋を晒すように。

「政宗様。
お討ち下さい。
この小十郎を」

「小十郎…」
「貴方様ならばこの小十郎が乱した国をもまとめあげられましょう。
大逆の罪人の首を持てば
また王道も必ずや拓かれるはず…!」
「既に兵はなく、
お前をも失くしても、か?」
「政宗様…」
弾かれるように顔を上げた小十郎に
政宗はゆっくりと頭を横に振って見せた。

「悪いがお前の生命の面倒は見てやれそうにねぇ。
…風魔」

呼ばれ、風魔は瞬時に政宗の傍らに立つ。
「奥州筆頭・伊達政宗は死んだ。」
政宗はその首に手を回し、身を添わせた。

「雇い主を手に掛けさせたんだ。
あれしきじゃ手付金にもなんねぇだろ。
この命はコイツの物だ」
「………」

あれもこれも、風魔が勝手にやった事。
身を囲っている間に甲斐甲斐しいまでに世話を焼いたのは
仕事だからではなかった。
だが風魔は
自ら腕の中に飛び込んできた意中の相手をみすみす手離すほど
善人でも愚かでもない。
抱き締め返す事で受け入れを示した。

「…わかりました。
貴方様に断じて欲しいと願うはこの身の未熟。
貴方様がいない世界で、罪を背負い、この小十郎
最期まで生き抜いて見せましょうぞ…!」
「ああ。
定期的にコイツに観に行かせるからな。
腑抜けてくれるなよ」
「はっ」

二人は出現した時と同じように姿を晦ます。

独り遺された小十郎は
怒りをおさめ
再び滅びの道へ足を踏み出した。

                                                 なんか挿絵とかあるよ【風政】

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中略の間に小十郎はいっぱい殺してます、よ。

こういう話も意外と楽しい、というか風政楽しい。(えー…)


                                           【20101026】