傍らの無相 /秀吉→政宗

 

秀吉は軍師・竹中半兵衛を隣に従え 今まさに落とさんとする小田原の城を望んでいた。 「北東が騒がしいね。 政宗君の御到着かな」 「…独眼竜、伊達政宗、か」 「大丈夫。三成君に任せてある。彼に勝ち目はないよ。 …秀吉?」 「少し、空ける」 「何処に行くんだい?」 訊かずともわかった。だが確認せずにはいられなかった。 「あの小僧がどれ程の者か その命尽きる前にこの目で確かめるのも悪くなかろう」 「…そう、だね」 得体の知れない一抹の不安を抱きながらも、 半兵衛には秀吉を引き留めることが出来なかった。 頭から倒れる。 兜が飛ぶ。 それでも再び立ち上がり三成に刃を向け、―力尽きる。 地に伏せた竜にとどめを喰らわそうとする太刀を、 竜の右目が防ぐより早く 「待て。」 重い声が止めた。 それは、三成には神にも等しい人物のもの。 張り上げてもいないのに良く通り、戦場に響き渡る威圧。 「秀吉、様? 何故此処に」 動きを止め質問を発した三成の横を無言で通り過ぎ、 主を庇う小十郎を拳の一振りで吹き飛ばす。 そして秀吉は、地面に臥したままの政宗を掬い上げ、抱えた。 「まだ生きているな」 苦しげながらも繰り返される呼吸を確認し、 秀吉は無表情のまま呟いた。 「秀吉様?」 「後は好きにしろ」 「…は」 秀吉は三成に一瞥だけくれて一言告げ、戦場を後にする。 だが三成からは、最早戦う意が殺がれていた。 腕の中に収めた政宗へと注いだ、秀吉の視線が信じられずに。 気を失った政宗を連れて戻った秀吉に 半兵衛はひっそりと眉を潜めた。 「秀吉。 その政宗君をどうするつもりだい?」 「我が軍門に降させる」 「出来そうにないから壊滅させようとしたんだけどね」 「大将がこちらの掌中にあるのだ。 奥州の連中も我に従う他なかろう」 「…そうだね。良くも悪くも彼らは政宗君が大事だ。 確かに彼を盾にすれば君の駒として働いてくれるだろう。 三成君が殲滅していなければ、ね」 言いながらも、半兵衛は多分生き残っているだろう。と思う。 三成は秀吉が現れた事に驚き、 それどころではなくなっているだろうから。 勝鬨をあげ、軍に戦の終わりを告げると 秀吉は政宗を大阪城の自室に連れ帰り 手厚く看護した。 数刻後、 政宗は意識を取り戻し重い瞼を抉じ開けた。 「…此処は…」 「気が付いたか独眼竜」 「豊臣…秀吉?! …っ痛!」 目の前に現れた顔に、 反射的に跳ね起きて身構えてしまい 三成に貫かれた傷が疼き、寝台の上で踞る。 「元気な事よ」 「…皮肉か?」 痛みの為に、瞳に涙をうっすらと浮かべている政宗の顔を 秀吉はじっと見つめた。 「否。感心しておる。 その気勢、我の為に使う気はないか」 「ha、何の冗談だ? 願い下げだぜ。」 「理由は」 「俺はアンタが大っ嫌いなんでね。 you see?」 嫌い、の言葉に、 秀吉は傷付いたように目を細めた。 政宗は怪訝な表情でそれを眺める。 直ぐに鉄面皮に戻った秀吉は 「この状況で尚抗うか」 静かな声で、憂うように呟いた。 政宗は無理をする事をやめ、再び横になる。 無意識に傷口に手を添えて。 「アンタの下で永らえるつもりはねぇよ。 とっとと殺しちまえばいいさ」 「貴様が倒したいと欲した魔王はもういない。 いい加減に我を観よ」 「アンタじゃ物足りねぇ。」 政宗はきっぱりと言い切る。 魔王―信長には悪としての果てしない存在感が在った。 魅入られそうな程の。 だが目の前の男には魅力を感じない。 「アンタの中には熱いモノが見当たらねぇ。 戦う相手としても仲間としても、 役者がたりねぇ」 「貴様が何と言おうとこの日ノ本は既に我がものも同じ。 従うより他はないのだぞ」 やけに諦め悪く言い募る秀吉に 政宗は不審を深める。 「俺なんかいなくても アンタには大層な部下がいるじゃねぇか。 仮面の軍師さんとか、家康とか、…さっきの野郎、とか」 「貴様のような者はおらぬ」 「…俺のような…? そいつはどんなだよ」 「貴様のような… …我…を、」 「アンタを?」 秀吉は躊躇いながら 沸き上がってきた想いを唇に乗せた。 「…芯から熱く震わせる、ような」 「…アンタは」 熱に浮かされる。 そんな表情を秀吉はしていた。 初めて観る、人間らしい貌。 それを浮かばせたのは自分に対する想いだと 政宗はにわかには信じられなかった。 だが、自分の言葉に困惑する秀吉を観てしまっては。 「…なら、ますます俺を殺さなくちゃなんねーな。 ねねとかって女のように」 「貴様、何故その名を。 …慶次か」 「ああ。」 ねね。 秀吉が愛し、また慶次も愛し、 弱みになるからと秀吉が命を奪った、女性。 二人の間に確執を生まれさせた決定的な。 慶次が、己が囚われている過去を他人に易易と話すなど考え難い。 つまり。 「我らはまた同じものに惹かれたと言う訳か」 政宗は、二人とも ねね、に向けた想いとは別だろうと思いながらも 苦笑する。 「だとしたら随分仲良しじゃねーか。 あの、綺麗な顔した仮面の軍師なんかとよりよっぽど」 「…我は貴様を殺すのか」 「好きにすればいいと言ってる」 「だが、貴様は我が守らねばならぬ程弱くなどない。 我すら拒み、失う以前に我のものではない… 弱み足り得るのか」 「アンタな…」 政宗は呆れた、と声を出す。 守るものを弱みとする意味がわからない。 根本的に相容れないのだと、改めて感じた。 秀吉は隻眼の煌めきに「嗚呼。」と唸った。 「その眼だ」 「?」 「貴様を殺す必要はないようだ。 貴様はその瞳のまま我の傍に居れば良い」 「っだから俺はアンタなんかの…!」 「貴様が死ねば 貴様と共にありながら九死に一生を得た者どもの命運も尽きるだろうな」 「…っ!」 政宗は、部下を殺されたとばかり思っていた。 だから自分の生命を軽んじる態度が取れたのである。 自分だけ助かっても意味などないと。 だか、「人質」の存在を持ち出されては。 「…豊臣…っ」 ぎりっと、音を鳴らして歯噛みをする。 少なくともその存在の真偽を確かめるまでは死ぬ事が出来ない。 真であったならば従うより他にない。 射ぬくような視線が、 秀吉を酷く興奮させた。 これは弱みになどならない。 嫌われていたいのだから。 諾と従う人間には飽いた。 だからこそ、嫌悪を隠そうともせず真っ向から噛み付いてくるこの男に惹かれた。 それが、気質だけではなく 政宗の容姿なればこそであり 刺激される疼きが性的なものに近くても。 殺す必要はないのだ。 傷が癒えて以降。 爪を奪われた独眼竜は秀吉の傍に付き従うようになった。 豊臣軍の天才軍師が病没した後も。                      この設定で続きを書くとしたらこんな感じ、がやたらと多くなった結果。                        ↑との間、半兵衛病没話  

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 


アニバサ弐期弐巻の映像特典で秀吉の中の人が「政宗エロい。けしからん」(意訳)
と言ってたので秀吉→政宗を考えてみた。結果がこれだ。

でも話の流れがわかるのがSQの漫画の方だったんでそっち設定です。
この後家康が秀吉を倒して政宗をお持ち帰りするかもしれない。(エー)

漫画版を読んで家康の雷属性が秀吉を倒して以降光属性になったんなら面白いなあと思った。

                                                     【20101112】