半兵衛イベント

 

秀吉→政宗の続きで、その後までの間。半兵衛死亡イベント。
 

秀吉に捕らえられた政宗は、
自分の意に反した状況に抗うように
与えられた部屋に閉じ籠っていた。

刀は六本とも取り上げられ、
必要ないだろうと防具も剥がされた。
身に着けているのは、秀吉が見繕った、濃い蒼色の着物だ。

三成に穿たれた傷はとうに癒えていた。

夕刻。
窓際に座り
遙か遠くに沈んでいく夕陽を眺めていた政宗の元を
半兵衛が訪ねてきた。

窓から差し込む、朱い光を浴びていると言うのに
その顔は透き通るほど白かった。
色白を通り越して、蒼白と見えるそれは
最早健康な人間のものではない。

「竹中、半兵衛…
アンタ」
「政宗君。ごめん、時間がないんだ。
単刀直入に話をさせて貰うよ。
…最期にね」
「最期?
…アンタそんなに身体が…
っ何でそんな大事なときに俺に逢いに来てんだ!」

政宗は感情を昂らせ、立ち上がる。

他に、逢いに行くべき相手がいる筈だ。
尽くし、従う主が。
城を空けているならともかく、
今この時間、城内にいる筈だった。

「君ときちんと話がしたかったんだ。
ずっとね」

半兵衛は政宗が大阪城に来てから
何度か顔を観に来ていた。
その時は交わしたのは他愛ない会話ばかりだった。

その、数える程度の会瀬の中でも観察を怠らず
半兵衛は漸く政宗を理解できた。つもりだ。

「君に秀吉を頼みたい」
そう、願える相手だと。

「…俺はまだアイツを認めちゃいねぇ」
「わかってるよ。
けど君にしか任せられない」
「han? アンタがいなくなっても
家康や石田が居るだろう」
「あの子達には荷が重いよ。
君なら、僕ほどじゃないにしても考える能力がある」
「…竹中…」

「君の無茶は
片倉君が後ろにいると知っているからこそで
全て計算ずくだろう?
君自身で、機転の利いた発想も出来る。」

戦いの時に魅せる血気盛んな姿はここにはなかった。
敗けて、意気消沈しているからだけではない。

「君はとても真っ直ぐだ」
戦場を駆ける気勢も、その心根も。

「僕はその光が怖かった。
網膜を焼き付ける、眩しすぎる君の光が」

だから何より、誰より先に潰さねばならないと思った。
秀吉の為に、
完膚なきまでに。

まさか、秀吉自身が妨げになるとは思わなかったが。
今、それがむしろ有り難いと思える。

生命の火が燃え尽きそうな半兵衛の想いを託せる相手に、
もしかしたら一番相応しいのではと。

「僕には秀吉が口にする夢を叶える手助けしか出来なかった」

睨むような眼で、
けれど黙って半兵衛の話に耳を傾けている政宗に、
淡く微笑む。

「君なら秀吉が圧し殺した望みを
解放してあげられるかも知れない。」

秀吉は余り多くを語らない。
今はただ日本を統べる夢を語るのみ。

ただ、政宗に関しては別だった。

声にも表情にも、
感情が含まれた。

昔のように。

「もしかしたら僕は君の事を―」
言い掛け、半兵衛はがふっと咳き込む。

口許を押さえた手の、指の隙間から緋い血が零れ落ちた。

「竹中…!」
自力で立っていられず頽れる姿に
自分に出来ることがないと判断した政宗は
躊躇わず扉に向かう。

ばたん、と、
政宗は初めて自分から部屋の扉を開けた。

秀吉は政宗を幽閉するつもりは毛頭なく
政宗の部屋には最初から鍵など掛かっていなかった。

政宗が、自分の意思でずっと出ずにいただけで。

その先に、偶然なのか、三成が立っていた。

焦った表情の政宗と、
部屋の中に見える半兵衛の姿に
三成は細い眉を潜める。

「独眼竜、貴様半兵衛様と何を」
「んな事より医者を連れてこい」
「な…?」
「早くしろ!」
「…くっ」

走り去る三成を確認すると
直ぐに部屋の中に舞い戻る。

「しっかりしろ、竹中」

「君は優しいね、政宗君。」

政宗は、
膝を付き、再びごふり。と血を吐く半兵衛の肩を支えた。

「っ半兵衛!」
「名前を呼んでくれるのかい?
…本当に、優しい…優しすぎる。
だから、」

僕みたいなのにつけこまれるんだよ。

「…っ!
はん……?」

半兵衛は穏やかな笑みを浮かべたまま
ゆっくり瞳を閉じ、

その瞼は二度と持ち上がることはなかった。

三成が医者を連れて戻った時には
部屋には政宗の姿はなく
横たえられた半兵衛には
政宗の使っていた夜具が掛けられていた。

夜の帳に包まれた天守閣に佇む政宗を見付けたのは秀吉だった。

「政宗。泣いているのか。
半兵衛の為に」
声を掛けると、背中がぴくりと揺れる。

「…泣くわけがねぇ。
アイツの策のせいで俺らの領地で随分面倒が起こったこと、
忘れちゃいねぇからな」
「そうか…」

秀吉はゆっくりと近付き、
政宗の隣に並ぶ。
二人は互いを観る事なく、
視線は空に向いていた。

「半兵衛とは何を」
「…アンタを助けてくれってさ」

「そうか…。
無茶を言ったものだ」
「まったく、な」
政宗は瞳を閉じた。

何もしないでいるなど自分らしくなかった。
囚われていようと
人質がいようと
動けない訳ではない。
出来ることはある筈だ。

そして政宗は動き出す。
半兵衛の死をきっかけとして。



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SQ漫画の半兵衛が政宗を狙い撃ちにしていてこっそり萌えてました。
どうしても死亡ネタになっちゃうけど。

ゲーム的に何箇所か選択肢があったんだけど(半兵衛や三成への返事とか)
雰囲気を壊しかねないので自粛。


                                           【20101119】