竜飛疾駆;拾

 

 

政宗は二人の佐助を樹から降りてこさせると 腰と額に手を当て わざとらしく呆れたような溜め息を吐いて見せた。 「全く、忍ってぇのは行儀が悪いな」 「俺様じゃないよ! サスケくんが無理矢理連れてけって!」 責任転嫁しようとする猿飛佐助に、 政宗は脱力する。 「そんでほいほい引き受けたなら同罪だろーが。 …サスケ?」 「チカさんとナリさんに似てるって人達観てみたくてさ~。 でも顔合わせるわけにはいかないっしょ」 佐助はへらっと笑いそうのたまう。 まるで悪びれた様子がない。 政宗はやれやれと肩を竦めた。 「気持ちはわからなくもねーが」 「ゴメンゴメン。 でも政宗、憂い顔も可愛いよね」 「…熱でもあんのか?」 政宗は軽く流すが 忍の佐助は隣でぎょっとしている。 「やー、あんま悠長にもしていらんなくなったみたいだし。 積極的にいこーかな、と」 困ったように笑う佐助に、 「…まさか」 政宗は一つ眼を見開いた。 佐助の身体を良く視ると、 心なしか、光を纏っているように見えた。 「政宗様、こちらに居られましたか。 西海の鬼も帰りました。 兵に収集をかけますか…って何でてめーらが此処にいやがる!」 駆け付けてきた小十郎は 二人の佐助を認めると鬼の形相になった。 「いやあ。それがその~…」 忍の佐助は小十郎に向かいへこりと頭を下げるが、 政宗は佐助から目を離さないまま 「小十郎。」 と呼び掛けた。 「こいつらの紹介は中止だ。 集めなくて良い」 「政宗様? それは何故」 「必要なくなったみてぇだ」 政宗は佐助に近付く。 「…帰っちまうんだな」 「どーにもそうみたい」 「随分と短けぇなあ」 「政宗は結構長く滞在してたのにねぇ。 やっぱ下手すると死んじゃう時代だからかなあ」 「……」 「政宗」 視線をそらし黙り込んだ政宗に呼び掛けると 「さすけ」 淋しげな表情で見つめ返してくる。 隙だらけだ。 それだけ気を許してくれていると言う事だろうが。 「もう少し警戒ってものを覚えた方がいーよ?」 けれど折角の機会。 最後のチャンスを、みすみす逃す気はない。 佐助は離れた場所で、忍の佐助の方を気にしている小十郎に 「片倉さん」と呼び掛けた。 是非とも進言しておきたかった事がある。 状況が把握できないながら、 小十郎は律儀に 「何だ」 と応えた。 「政宗に ちゃんと教育しといた方が良かったんじゃないかなー って」 「何言ってやが… っ?!」 佐助は、ゆっくりと政宗に顔を近付けると 「っ?!」 優しく唇を重ねた。 じっと、瞳を見つめたまま。 「~っなっ?!」 もう一人の佐助が驚愕に目を見開いているのか視界の端に入る。 政宗に隠れて見えないが おそらく小十郎も似たような表情をしている事だろう。 口付けられた政宗は 初めは何が起きたかわからないように瞳を真ん丸にしていたが 次第に目許を和らかせ、 最後にはすうっと閉じた。 堅くなっていた身体からも力が抜ける。 受け入れるように。 「…政宗」 佐助は名残惜しそうに わざとちゅうっと音をたてさせて離れ、 「何で?」 と尋ねた。 途中で張り倒されるかと思った。 こういうことを勝手にされるのは嫌いなタイプだろうから、 一瞬でも唇を合わせられたらそれで良いと。 政宗はふっと笑い、 自分の唇を親指でなぞって見せる。 「お別れ…なんだろ? 最後ぐらい好きにさせてやるさ。 このぐらいはな」 「お見通しってわけね」 佐助は苦い笑いを返す。 同情でも何でも。 「あんがと。 顔、真っ赤だけど。 もしかしなくても初めてでしょ」 「…っ」 「可愛いなぁ」 「っ誰が…!」 怒る政宗にぎゅうっと最後の抱擁を与える。 「違う世界の人だってわかってる。 けど言いたいから受け取ってよ。」 まともに顔が見られず、 耳許で小声で言うのが精一杯だけれど。 「愛してるよ、政宗」 「…thank you、サスケ。 応えてはやれねーけど、な」 ぽんぽんと、あやすように背中を叩かれ 佐助は身体を離して政宗の顔をじっくりと見つめた。 「俺様としてはこれを機会に こう言う事に対する免疫と警戒を覚えてくれれば満足」 それは、この世界の佐助に対する嫌がらせのようなものだ。 そう易易と手に入れられては悔しい。 「今度はちゃんと伝えられて良かったよ。 この間は最後まで言えなかったからさ。 天下統一頑張ってね」 「言われるまでもねぇ。 サスケ」 ぐっと右手を握り合う。 指切りより力強い約束として。 「そっちの世界で『政宗』に逢ったら優しくしてやれよ」 「―? それって」 「good luck!」 政宗の言葉を合図にしたように 佐助は 光に包まれるようにして 姿を消した。 政宗の掌と唇に 微かな温もりを遺して。                                      【終章】


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ここまでが長かった…(主な原因は瀬戸内組を出したから)

還った佐助のその後は 日就月將 の方でになるよ。

                                                 【20111118】