邂逅絢爛 ; 中篇

 

幸村は政宗に連れられ元就の家を訪ねていた。 「何故我の家に集まる」 家主の尤もな疑問に政宗は 「広いから?」 としれっと応えた。 疑問形で。 「貴様らの家とて狭いわけではあるまい」 「俺様んちは狭いよ?」 「貴様は黙れ」 ほいっと手を挙げ話に割り込んできた友人―佐助を 元就はすぱんと斬り捨てる。 何故居る、とは訊くだけ無駄だった。 学生時代からの友人達は、通う用事が出来た時期を機に 元就の家にたむろし始めていた。 幸村は恐縮しながら「しかし」と反論を試みる。 「某が政宗殿と再会…のようなものを果たした折り 二人きりだったのを毛利…もとい、元就殿は 大層御不満だったと聴き申す。 疚しいことなど御座いませぬ故、 なれば目の届くところで逢うべきかと」 「まあ学校でも顔は合わせてるけどな」 「ま、政宗殿っ!」 政宗の余計な口出しに元就の表情は一層険しくなり 幸村は慌てた。 「ついでにアンタに飯作れるし 丁度良いと思ったんだが」 政宗の言葉に、元就の表情は多少和らぐ。しかし。 「それは有り難い。貴様の手料理は絶品だからな。 が、其奴やこやつの分までも作ってやるのであろう」 全く腹立たしい、と再び眉間に皺を寄せる。 「ついでだし?」 政宗は何が悪いか解っていないとばかりに首を傾げ 「御相伴にあずかりまする!」 幸村は期待に瞳を輝かせ、 「楽しみだよね~」 佐助はへらへら笑っている。 元就は飯時になったら二人を追い出そうかと本気で考えた。 実際はもう一人二人増える予定なのだが。 会話の隙間に、 充電器にさしっぱなしの携帯電話が震える音に気付いた。 どうやらメールの着信を告げているらしい。 元就はそれを確認しながら耳を欹てる。 政宗と幸村の会話は続いていた。 「にしても、さ…ah幸村。 テメェ、何でんな喋り方してんだ? 学校の他の奴等には普通に話してるだろーが」 「も、申し訳ござらん! 政宗殿を前にするとどうしてもこうなってしまうのでござる…!」 「確かに俺としちゃそっちのが馴染みがあるけどな。 周囲の連中は不審がってるぜ」 「直そうとは思うのですがなんともはや…」 逢った当初から時代がかった喋り方をしていた幸村だが、 政宗の言によると普通に話せるようだ。 「………?」 元就は新着メールの内容に眉を潜めた。 「…佐助」 「ん? なに? ナリさん」 「これをどう思う」 思わず友人に話を振ってしまう程に それは、不可解で、だがどこか理解出来そうな気がした。 「メール? 見て良いの? …小太郎から? 今京都旅行中じゃ… ん?」 二人が似たような表情で顔を見合わせ、 次いで学生二人組に視線を向けると。 「政宗殿、 実は政宗殿の御意見をお訊きしたいものがあるのですが」 「俺の意見?」 「はい。これでござる」 幸村は学生鞄がわりのスポーツバッグから雑誌を取り出していた。 「…漫画雑誌、だな」 「左様でござる。 某が注目している新人漫画家殿が載っているのでござるよ」 「俺はあんまり漫画ってぇのを読んだ事ねぇんだが」 「問題ござらん。 かの漫画家殿は 名を、前田夢吉殿と申されまして」 「また微妙に馴染みのある名前だな」 「それでこの漫画なのですが 政宗殿は如何感じられますか」 最初の頁を開いて渡され、 政宗はぱらぱらと流し読みで内容を確認する。 「……見覚えがあるな。 っつーかこの二人って、 まんま軍神サンとくノ一のねぇちゃんだよな?」 「で、ござるかと」 と言う会話をしていた。 「…話が早そうだね」 「逢いたい、であろうな。昔馴染みならば」 「その『昔』はこの世界には存在してない歴史なんだけどね」 「伊達政宗研究家」である佐助は 一度体感しながらも、否、だからこそ有り得ない過去だと痛感した。 元就は再びメールに目を通す。 気はあまり進まない。 だが。 「政宗。 とついでにそこの熱苦しいの」 「ついでとは?!」 「どうした? 元就」 「その『前田夢吉』とやらが、 『伊達政宗』に逢いたいらしい。 貴様らが逢うべきだと思うが どうだ」 佐助に聴いた幸村の孤独を思うと、 握り潰す気にはなれなかった。 政宗に、 元就の識らない歴史を語り合う仲間を増やすことになろうとも。

                                                                 【後篇】

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幸村は普通に喋れます。
政宗の顔を観ると条件反射です。


                                      【20101227】