支度と始末 / 瀬戸内+政宗


 

「独眼竜! テメェ、知ってやがったな?!」

そう怒鳴りながら自分の執務室に入ってきた元親を
「何をだ? 西海の鬼」
政宗は軽く受け流した。

その反応に、元親は激昂し、顔を紅くする。

「惚けんじゃねえ!
ウチを襲ったのが家康じゃなくて毛利の野郎だって事をだよ!」

元親は目の前の机を力いっぱい叩く。
ばんっと大きな音がし、、机の上に置いていた物が浮いた。
書き物の仕事はしていなかったので墨が飛ぶなどの被害がなかったのは幸いだ。

「なんだ。んな事か」
「なんだじゃねぇ!
大事なことだろうが!
俺はてっきり家康が…
っだからアンタ止めたんだな?!
けどなら何故、真犯人の事は黙っていやがった!」
「アンタは部下の仇という大義名分で、
殺すことも厭わなかっただろ?」
「ったりめぇだ!
奴はそれだけの事をしでかした!
俺の留守中、野郎共を襲っただけでなく
家康を犯人のように見せかけやがったんだ!」
「ま、あの策士さんならそのぐらいお手のものだろうな。
実行犯は別だとしても」
「んだとぉ?!」

ソイツは誰だ、と尋ねようとする元親を
「アイツを殺されちゃ
俺が困る」
政宗はそう制した。

「…っテメェ」
「こういう御時世だ。
自分の利益のためにどんな手をも使う毛利の気持ちもわかる。」
「だが!」
「だから、俺がそう言うことの必要ない国を作る。
毛利はそれで納得した。
安芸のあたりの統治を任せることにしたからもう無駄に悪巧みをしねぇ筈だ。
アンタらが争う理由はなくなる」

同盟にあたり、元親には四国の統治を任せる算段になっていた。
両国の君主がそれぞれの領地で満足するなら
戦の火種は無くなる。

「…確かに、先はそれで良いさ。
けどよ…!」

苦悩の表情を浮かべる元親に、
政宗はふっと息を吐く。
似たような境遇に陥った政宗にはその気持ちがわかった。

「ah、
けどそれじゃアンタの気が済まねぇか」

腕を組み、瞳を瞑る。
武器を持ち出しては生命に関わる。ならば。

政宗は瞳を開けるとちらりと隣の間へと繋がる戸に視線を向けた。

「いっそ素手で殴り合うか?
一対一で。」
「いいのか?!」
「良くないわ!」

元親が政宗の提案に顔を輝かせると
襖がすぱんっと開いた。

「何故我がその野蛮人と!」
「なんでぇいたのか毛利」
「貴様が来るずっと前からな。
伊達。一体何を言い出すのかと思えば貴様、なんだそれは」
ぎろりと鋭利な視線で射抜かれるが政宗は怯みもしない。

「名案だろ? 人死にがでねぇ」
「迷案だ! 其奴に本気で殴られれば彼岸が見えるわ!」
納得の抗議に政宗はむうっと眉を寄せ「じゃあ」とぽんと手を叩く。

「時間制限つければアンタは逃げ切れるんじゃねーか?」
「主旨が変わってるぞ竜の兄さん…」
元親は毒気を抜かれ、
参った、とばかりに溜め息を吐きながらわしゃわしゃと頭を掻く。

「にしても、何で毛利の野郎が此処に居やがったんだ?
匿ってたのか独眼竜」
「我には匿われねばならぬことなぞ何一つないわ」
「アンタが来る前から対策会議開いてたんだよ。
俺が天下を統べることをよく思わねぇ頭のかってえ連中に対抗するための、
権謀術数を頼んでるんだ」
「ふん。
単純な連中をあしらうなど簡単すぎて欠伸が出るわ。
その程度も出来んで天下人を名乗ろうなど笑わせる」
「アンタの頭を借りられる甲斐性があるんだ。問題ねぇだろ?」
「……」
元就は能面のような無表情を崩し、
呆れた、と溜め息を吐く。
元親は、そのやり取りを見て頷いた。

「成程な。
アンタの悪巧みもたまにゃあ役に立つ訳か。
悪知恵の有効活用できるんなら、そうだな。その間は忘れててやる」
「何を偉そうに。
我は貴様の事などどうでもよいわ。
日ノ本全てをまとめるのはこれからでやたら忙しいのだ。
邪魔するでない」
「わーったよ」

険悪な雰囲気がなくなった、どころか、気安いやり取りに
政宗は元親に向かい満面の笑みを浮かべた。

それでこそだ、と。
 
                                                      →家康と政宗

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瀬戸内組は間に政宗入れればそこそこなんとかなると勝手に思った次第。

                           【20110121~20110201;拍手御礼用】