衝動的肖像 /三成+政宗

傍らの無相 設定。


「伊ぁ達ぇ政宗ぇ!」

石田三成はそう叫びながら政宗に与えられている部屋の扉を開いた。

大阪城。
政宗が三成との戦で倒れた後、
秀吉の手により運ばれた場所。

敗者にしては優遇極まりない扱いを受けているにも関わらず、
引きこもりを続けている部屋だ。

三成は半兵衛から頼まれた。
様子を観て来て欲しいと。
そうでなくては政宗と顔を合わせようなどと思わない。

家康の方が適任では、と瞬時に考えた三成の頭の中を覗いたように、
半兵衛は
「家康君は少しばかり政宗君に同情的だからね。
君なら公平な目で政宗君の様子を観察し、報告してくれると信じてるよ」
と付け加えた。

敬愛する半兵衛にそこまで言われては、と三成は奮起した。

実のところは
三成は負の方向に観察眼が狂っているのだろうな、
と半兵衛が冷静に分析していた事は知る由ももない。

そんなわけで勇んで訪れたのであるが、
室内に政宗の姿は無かった。
厠に行ったか湯殿に行ったかの二択であろう。
それ以外は外に出ないのだと三成は何処かで耳にした気がした。
己と違い足繁く政宗の元に通っていた家康からであったか。

仕事を遂行するためには戻ってくるのを待つしかない。
仕方なく部屋に留まり、何とはなしに室内を見回す。

と、机の上に紙が拡げられているのが眼に入った。

書き物の途中なのか。

三成は、そう言えば、と思い出す。
半兵衛が
「近頃政宗君の紙の消費が激しいみたいだ。
解る範囲でいい。
出来たらその理由も探ってくれないかい?」
と言っていた事を。

内容を確認するためそちらに向かう。
謀叛の計画でも立てていようものなら、
戻って来たところを斬り捨てるつもりであった。
たとえ秀吉に怒られることになろうが、
主に仇なすものを赦す気はない。

だが、書かれていたのは文字ではなかった。

「…なんだこれは」

三成は鋭利な眉を潜める。
手に取り、じっくり検分しようとした時
「おわっ?!」
背後で奇声が上がった。
ゆっくりと振り返る。

「石田三成?!  アンタ何で此処に」
「ふん。ようやく戻って来たか。
のんびりと湯浴みとは良い御身分だな」
判りやすい厭味に
湯上がりで良い気分だった政宗の機嫌が急降下する。

「HA! 悪かったな。
だがアンタの主から言われてんだよ。
清潔を保つように心掛けろってな!」
「秀吉様が?
何故だ」
「知るか」
二人は秀吉の意図がわからず揃って首を傾げた。

秀吉が稀に政宗の元を訪れ
度度力尽くでものにしようとしては結局何も出来ずに
すごすごと心持ち意気消沈気味にこの部屋を去っていっている事を
二人は知らない。
時たま、政宗が寝ている時に覗きに来ていることも。

半兵衛だけはその事実を知っていて
さてどうしたものかと思案中だ。
現在進行形で。

「それより、
他人のモンを盗み見たぁ随分行儀が良いな、石田三成」
皮肉だとわからないほど馬鹿ではない三成は
政宗をぎろりと睨み付ける。

「貴様は秀吉様の庇護にある。
私は半兵衛様に頼まれ様子を見に来た。
貴様の何を暴こうと文句を言われる筋合いはない!」
きっぱりと宣言する三成は
後ろ暗いところなどまるでなさそうで、
本気でそう思っているのだと見てとれた。

「…まぁ、正論か」
政宗は静かに微笑む。
少しばかり自嘲を滲ませて。

「………」
「けど、観ても面白くはねぇだろ?
アンタの知らない貌ばかりの筈だ」

紙に記されていたのは、
墨と筆一本のみで描かれた似顔絵であった。

左の頬に疵のある男。
はちまきをし二本の槍を携えた男。
左目に眼帯をした男。
忍らしき男。
大きな槌を持った娘。
銃を持つ女。

多分特徴をとらえているのだろうが、確かにどれも、
三成の記憶にはなかった。

「何故このようなものを」
「忘れないようにな。
じっとしてるのも時間の無駄だ。
頭ぐらいは働かせねぇと」

忘れてはならないのは面影だけではない。
自分の立場と、彼等に対する想いと、
自分がこれから何をすべきかもである。

頭の中で考えるだけでも多分違う。
籠の鳥で居続けるつもりは、政宗にはなかった。

三成はふんと鼻を鳴らし更に紙を捲る。

「…これは」

小さい頃の家康と、本多忠勝。
そして現在の家康。

それらの中にひっそりと、秀吉や半兵衛、三成の絵もあった。

「秀吉、様」

似ている、と思った。
とんでもなく巧い訳ではない。
だが一目でわかるぐらいには似ている。

瞠目すべきは、
描かれた絵に悪意の欠片も感じられないところであった。

今この場に居る事が政宗の意にそわない状況であろうことは
他人に興味がない三成にもわかる。
その想いをぶつけることも出来ただろうに。

「…頭よりも」
だが口をついたのは別の言葉だ。
「身体を働かせろ!
秀吉様や半兵衛様は実際に観ながら描けもっと似せられた筈だ!
大体私はこれ程細長くない!」
「いや実際細いだろ」
「貴様が言うか!」
思わずがっと肩を掴んでしまう。

後は寝るだけのつもりだったようで
まとっているのは薄手の着物だ。
布で隔てられても、
暖まった体温が伝わるぐらいの。

「………っ!?」
三成の思考が停止した。

こんな風に他人に触れた事はあっただろうか
と、余計な疑問が頭をよぎる。

政宗は妙な迫力に気圧された。

「…成程。
そうだな。今逢える奴を紙に落とす必要はないか。
それにまだ、アイツらの事をちゃんとわかってねぇしな」

三成は気力を振り絞り手を離した。

「ふん。
直接御逢いしたところで
一つしか眸がない貴様に
秀吉様や半兵衛様の素晴らしさが存分に理解できるか
甚だ疑問だがな」

口にした後、三成はハッと固まった。
自分の言葉を後悔し、謝罪とはいかないまでも
訂正ぐらいはしなくては、と思ったが
直後の政宗の「っははっ」と言う声で身体から力が抜けた。

「何を笑う?!」
「いや。
今更片目を貶されるのが逆に新鮮でな」
「笑い事か! 怒るところではないのか!」
「言ったのアンタだよな? 怒って欲しかったのか?
事実だし、気にする程の事でもねぇよ。
その言い方は可愛いもんだ。
そうだな。眸が人より少ねぇのは事実。
他のところも使って相手を理解しようとしねぇと」
「っ!」

身体的な事で貶められたと言うのに全く傷付く様子がない。
それどころか、前向きな言葉を紡ぐ。
三成に謝罪をさせまいとするかのように。

三成はぎり、と唇を噛む。
借りを作ったようなこの状況が気に入らない。

「…今のは」
真っ向からひたと見つめる。
「失言だった。
…す……す、」

すまない、の一言をなかなか言えずにいる三成に
政宗は「悪いと思ってんなら」と、
悪戯っぽい表情を浮かべ
唇に人差し指を当てて見せた。

「俺の密かな手遊び、
内緒にしといてくれ」

「?!
秀吉様や半兵衛様にもか?!」
「その二人が知られたくない筆頭だな」
「構わぬだろう? 悪くはない出来だ」
「恥ずかしいだろうが」
「…恥ずかしい、のか」
と言うか羞じらいなど感じる玉だったか、とは思いはしたが
一度口を滑らせ失敗した身としては慎重になり声にはしなかった。

「もしバラしたら、」
「…どうだと言うのだ」
「その二人に
アンタに片目を馬鹿にされたー、って泣きつくぜ」
「それは既に脅迫ではないのか!」

目の前でにやにやと笑う政宗の泣きつく姿など想像だにつかないのだが。
そしてそれはむしろあの二人は歓ぶのではないか。

三成は短い溜め息を吐いた。

「…ならば貴様の描いた秀吉様と半兵衛様の絵を寄越せ」
「ah? 大したもんじゃないぜ?
袖の下にしては足りなくねぇか?」
泣きつく、が冗談であったとその言葉でわかった。

三成は政宗が一筋縄ではいかない相手だと
ようやくわかってきた。
嘘を吐いているわけではなく
からかい、言葉遊びをしているだけだとも。

「報酬として貰ってやる。感謝しろ」
「証拠品として押収するわけじゃねぇのか」
「……!」
目を見開く三成に、
「……今、気付いたのか」
政宗は、自然笑みを浮かべた。

「…笑うな」
「sorry sorry」
三成にわからない言葉で謝罪しながらも
政宗は笑いをおさめない。

「けどこれはアンタの言うように不完全だ。
もっとちゃんと似てるモン描けたら貰ってくれ」

「…期待しといてやる。精精励むがいい」
「OK」

結局三成は半兵衛に満足のいく報告が出来なかったのだが
三成が訪れた直後から
政宗が秀吉や半兵衛ときちんと向き合うようになり
秀吉がそれをたいそう悦んで、

三成は半兵衛に
「一体どんな魔法を使ったんだい?」
と功を褒められた。
 

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史実の政宗さんがパねぇ能力とキャラクターの持ち主なので
勝てる気がしないながらも筆頭に絵を描かせてみた。それだけが理由じゃないけれど。

今回はみにばさ絵じゃなくてキャラデザの人の絵の雰囲気みたいなイメージ。

三成の台詞は面倒臭い難しい。本当はもっと小難しい単語使うんだろうけども御容赦を。
            
                                          【20110204】