笑わない覇王と囚われの竜  / 秀吉→政宗

 

 

伊達政宗が
豊臣秀吉に捕らえられ大阪城の一室に自主的に引きこもっていた時期。

部屋を訪れて来た秀吉を
政宗はあからさまな渋面で出迎えた。
行儀悪く机の上に腰を下ろした状態で足を組んでいる。

「アンタもよく続けるよな。
まだ日ノ本全部をまとめあげてねぇんだろ?
俺なんかの相手する暇なんかねぇんじゃねぇのか?」
肩を竦めながらの政宗の言葉に
「半兵衛がいる」
秀吉は端的に答えた。

「ああ。そうだったな。
アンタの軍を落とすなら
竹中を先に潰すのが手っ取り早い。
アンタの日ノ本統一はアイツがいなきゃ成らないだろうからな」

それは秀吉自身も強く感じていた事であった。

そして、政宗の言い方は秀吉の足許を掬おうとする者のものだった。

秀吉は眉間に深い皺を作る。

「政宗。貴様、
それ程までに我の日ノ本統一に文句があるのか」
「文句なんかねぇさ」
政宗は前髪を掻き上げた。
「アンタの腕っぷしの強さは認めてる。
―ただ、」
「ただ、
何だと言うのだ」

「陰気臭い表情しかできねぇヤツに
日ノ本を任せたくはねぇってだけだ。」
頬杖をつき、
you see? といつもの決め言葉を言いながら左目を細めて笑う。

「………」

黙り込んだ秀吉に
政宗は机からおりて近付いた。

「アンタが最初からそんなんなら構わねぇんだが、
前田の風来坊に聞いた話だと
アイツと馬鹿やってた頃は笑ってたそうじゃねぇか。」
「慶次が、そんな話を、貴様に?」

秀吉は言葉を区切りながら眸を細めた。
政宗はその動きの意味に気付かなかった。

「ああ。
だから俺は今のアンタの治世に未来を視ない」
「……貴様も、
昔の我に還れとのたまうのか」
「…hum?」

政宗は首を傾げた。

「んな事は言わねぇさ。
そっから変わったってんなら
こっからだって変われるんじゃねーかって思っただけだ。
元に戻れなんて言ってるわけじゃねぇ。
…現在のアンタが好みじゃねぇとは言ってるが。
無表情で何を考えてるかわかんねーような野郎はな」
「……」
「ま、前田の風来坊みてぇに
笑顔の裏に様々なモンをしまい込むヤツもいるから
一概には言えねぇがな」

「否…確かに貴様は表情が豊かだ。
無駄とも思えるほど」
「ah?!
無駄で悪かったな!」
熱り立つ政宗に
「悪いとは言っていない。」
秀吉は淡淡とそう応えると大きな身体を反転させる。

「……ただ、魅力的だと思っている」
「…………。
は?」

相変わらずの鉄面皮のままでそんな台詞を言えるのかと
政宗は思わず秀吉の前に回り込みその表情を確認しようとしたが
それより先に秀吉は扉へと歩を進めた。
だから。

「……THANKS」

政宗の呟きは秀吉の耳に届かなかっただろうし
聴こえていたところで意味はわからなかっただろう。

だが。

その声音には険が欠片も含まれていなかった。


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題名をラノベっぽくしてみた。
シリーズタイトルもこれでいい気がする。

秀吉イベントで慶次ルートに入るための必須イベント。

「貴様」で統一したけれど「お前」っても呼ぶっけな?

あ。政宗が机に座ってたのは机の上のものを隠すためです→三成ルート参照
 

                             【20110405;初出/201100407;加筆修正】