雷神参向;序

 

その日政宗は自宅にいて 訪ねてきた幸村と慶次に自作の菓子を振る舞っていた。 二人の訪問予定に合わせ休暇を取っていた義兄の ―本人はあくまで政宗の部下で守り人の立場を貫いている―小十郎も 同席していた。 いつもたむろしている元就の家ではないのは 元就と元親、そして佐助が あまり甘い物が好きではなさそうだと言うことに気付いたからだ。 かく言う政宗本人も作るのは好きだが喰べる方はそれ程ではない。 小十郎も政宗が作るもの、だから口にするが 積極的に欲してはいない。 その点幸村と慶次は前の世からの甘味好きだ。 悦ぶ相手に食べさせたいと思うのは 作り手としての心情としては当然とも言えよう。 と、言い訳がましい事を考えてしまうのは 嫉妬深い恋人に対し少しばかり後ろめたく感じているからだ。 一応、断りは入れている。 内緒にしていて後で知られた方が怖い。 「御馳走様~」 「まこと、美味しゅうござった…!」 並んで座っている二人は 同調したようにぽん、と手を合わせ倖せそうに顔を綻ばせている。 二人の前の食器を片付けながら 自然、政宗も笑顔を浮かべた。 「そいつぁ良かった。 作った甲斐があったってもんだぜ。 ………っ?」 政宗は持ち上げた食器を かしゃり、と音をたてさせ食卓の上に戻した。 手が滑ったにしては様子がおかしい。 「どうされました政宗様?!」 小十郎は驚いて肩に手を置いたが、 「……っ?!」 ピリッと鋭い痛みが走り、反射的に離してしまう。 政宗は苦しそうに己の身体を抱いた。 「…わかんねぇ… 手が痺れて…否、身体が…」 「政宗殿?!」 「政宗!」 幸村と慶次も心配して近寄ろうとするが、 政宗の全身から蒼い光が迸り遮られる。 「これは、もしや…」 「何か知っているのか?!」 困惑する小十郎は、幸村の小さな呟きに食い付く。 幸村は意見を求めるように慶次を見た。 慶次は強く頷く。 「多分そうだ。 政宗の身体から立ち上っているのは雷―」 「雷?! 何故室内で」 「政宗殿は雷の技を使われていた… 自身が雷を纏っておられるのだ。 とすればよもや」 この場にいない三人ならば直ぐに気付いたであろう。 この状況は、「伊達政宗」が元の時代に還った時と似ていると。 政宗の身体が一層蒼く目映い光に包まれ、 三人は思わず眼を閉じた。 発光が収まり恐る恐る眸を開くと、 そこには政宗の姿はなかった。 ―そう、「政宗」の姿は。                            【壱】 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ まさかの続篇。 メインはでもあっちの方かも。                    【20110420】