雷神参向;壱

 

眸を開けたら知らない場所だった。 自宅の食卓にいた筈の政宗は廊下に佇んでいた。 視界の左手には障子が、 右手には風光明媚な庭が広がっている。 「…まさか」 見慣れたものではない。 おそらく地元の本拠地ではないのだろう。 記憶を辿るが該当する景色は思い当たらなかった。 受け継いだ記憶にはない。 自分がいた時代でないであろうことを即座に理解したのは 似たような事例を知っていたからだ。 当事者の記憶として。 よもや自分の身に降りかかるなどとは思ってもいなかったが。 周囲には誰も居なかったのは幸か不幸か。 政宗からしてみれば 近くにこちらの世界の政宗が居てくれたなら話が早くて助かったのだが。 おおよその事は瞬時に把握できたものの、 今居る場所が何処かわからない。 時期はおそらく「伊達政宗」が天下統一を果たした後ではあろうが、 だから何時なのだ、という話になる。 彼の人生はその後の方が長い。実際のところ。 「つか、 政宗さんの生きた世界で政宗さんがいる時代とは限らないんだよな… そうなるとお手上げなんだが」 さてどうしたものかと俊巡していると 荒っぽい足音が近付いてきた。 「どーしたい竜の兄さん? 随分戻りが遅いが、迷っちまったのか?」 「……っ!」 その口調と声には聴き覚えがあった。 政宗の日ノ本平定を南から支えてくれる、 西海の鬼。 「すると此処は…四国か?」 喋り方からするに若い感じであった。 政宗のいた場所である事はわかった。 同時に、直前まで彼が此処にいたということも。 なのに姿が見えない。 そこから導き出される答は。 「まさか、入れ換わっちまったのか…?」 それは二つの前例とは大きく違う部分だった。 どう対処するべきか迷う。 このまま対面して理由をでっちあげ保護を求めるか。 隠れてやり過ごし逃げ出すか。 政宗は自分がこの時代の政宗より若く、幼いことを自覚している。 巧く誤魔化せる気がしない。 だが、元親相手ならばなんとかなりそうな気もした。 彼の人となりは識っている。 政宗の印象というフィルターごしではあるが それほど間違いはない筈だ。 いくらかの疑問を抱くだろう。けれど、 その懐の深さで受け止めてくれる人間であると判断している。 しかし、 入れ替わりも長い期間ではないとも思われる。 継いだ記憶にこの出来事はなかったからだ。 十中八九、入れ換わっているに違いないだろう政宗は 無事この時代に戻れている。 ならば独り何処かへ身を隠した方が この先の厄介を回避出来る筈だ。 長引いたとて、 政宗が姿を晦ませたとなれば側近の小十郎が現れる可能性は高い。 この場に同行しているかはわからないが。 佐助の前例を知っている彼ならば 政宗の状況を理解してくれ且つ助力を惜しみはしないだろう。 比べた結果後者の方が安全策に思えた。 そうと決まれば、と庭へ降りようとしたが 「慣れぬ屋敷とはいえ迷うなど 伊達もそこまで馬鹿ではあるまい」 耳に届いた声が。 政宗の動きを止めさせた。   【序】                              【2】                                  【参】  

 
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説明多くてすみません。状況把握させないことには。
多分こっち側の方がメイン。

                                  【20110422】