雷神参向;参

 

政宗は元就と元親と廊下でばったり出くわした。 政宗の姿をみとめると元就はすっと目を細める。 「貴様、何者だ」 政宗は動けなかった。 記憶にはある。 だが憶えているのと「自分が」実際目にするのとでは まるで違っていた。 「俺、は」 怜悧な視線に射抜かれながらもなんとか言葉を紡ごうとする。 巧く口を動かせない政宗を見かねてか 「おいおい毛利。 んな睨むなって。怯んじまってるじゃねぇか」 元親が軽い調子で助け船を出した。 「睨んでなどおらぬ。観察しているだけだ」 「それが睨んでるようにしか見えねぇんだっての。」 自然な動きで庇うように元就の視線の動線に間に割って入る。 「も…っ長曾我部、…さ、ま」 政宗はどう呼べば良いのか混乱し、 吃りながらも名を呼んだ。 元親は応えるように政宗を見下ろし、 腰を屈めてまじまじと顔を見つめる。 「……っ?」 それが余りに至近距離で、政宗は思わず身を引いた。 「アンタ、見かけねぇ面だな。 いやどっかで観たような貌のような気もするが… 独眼竜のお付きか?」 「ah…は、はい」 「で、その独眼竜は何処でい」 「貴様は馬鹿か」 「はあ?!」 元就の絶対零度の声に元親は一瞬で沸点に達する。 「テメェ口を開いたかと思えばいきなり何言いやがる?!」 「馬鹿だから馬鹿だと言うたまでよ。 其奴、伊達に何から何までそっくりではないか。 声までもな」 「へ?」 政宗は更に一歩後ろへさがるが、 元親はそれを一気に縮めるように詰める。 「確かに似てんな。 アンタの方がちぃとばかし若いみてぇだが」 「み、身に余る光栄、です」 声が上擦ってしまうが、何とか「政宗の部下」としての言葉を紡ぐ。 「それで、伊達は何処に行ったのだ」 核心にずばりと斬り込まれる。 訊かれるとは思っていたが まだ巧い答は浮かんでいなかった。 「申し訳ありません。 政宗さ…まは、急用で」 「急用、だと?」 重ねて訊いてくる元就の視線が痛くて怖いが 視線を逸らさずゆっくり頷く。 「はい。 お戻りになるまでこの場を任されました」 我ながら厳しい言い訳だ、と思いながらたどたどしく言葉を重ねた。 「軍議を進めるには何の足しにもなりませんが、 お…私は政宗様の影武者ですので、 …代理としてこの場に」 「ではその面妖な格好は伊達の見立てか?」 「め…?」 直前まで友人達に手作りの菓子を振る舞っていた政宗は、 シンプルな白いシャツに細身のジーンズ、 その上に黒いエプロン、 足元はもふもふのスリッパ という身形であった。 確かに「政宗の影武者」として相応しい格好とは言い難い。 元親は首を傾げる。 「言うほどおかしい格好にゃあ見えねぇが。似合ってるしよ」 「服装ではないわ。」 元就は真っ直ぐに政宗を見つめた。 見透すような眼差しで。 「右目に嵌まっているまがい物の眼球の事よ」 【壱】                             戦国篇続→  【伍】     【2】                             現代篇へ→  【4】    

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そんなわけで困ったことに没設定画正式設定に。

                                   【20110426】