雷神参向;4

 

「………っ」 小十郎は唇を噛み締め、きつく眸を閉じた。 「小十郎殿?」 「小十郎……」 幸村と慶次はその様子に驚く。 政宗から出された問いは 答えに詰まるようなものではないと思っていた。 だがこの様子では。 「……ございます。」 小十郎は沈黙の後、重い口を開いた。 「右の目は…父上が心血を注いで作られた 精巧な作り物ではございますが」 「……そうか」 政宗は静かに頷いた。 心に渦巻いた複雑な感情を表には出さずに。 「なんと…!」 「政宗の右目は…義眼、だったのかい?」 「アンタらも知らなかったのか」 驚く二人の様子に首を傾げる政宗に 小十郎は深く頷いて見せた。 「わざわざ言いふらすような事ではありませぬ故。 元就…殿は医者の観察眼の為せる技か見抜き、気付かれたと 政宗様はおっしゃっていられましたが。 同じく左眼を失くされておられる元親殿も、 義眼のモニターをして下さってます」 そう言えば西海の鬼の眼帯の下がどうなっているのかを 気にした事もなかったな、 と政宗はこちらの元親の顔を思い浮かべて気づいた。 「こっちのオレも苦労してるって事か」 「政宗公」 「詳しい話は訊かないでおく。 言いづらそうだしな。 機会があったら本人に話して貰うさ」 「そのような機会… 否、あったら同席したい気はいたしますな」 「幸村。だだ洩れてる」 慶次は真剣に考え込んだ幸村に苦笑する。 確かにない話ではなさそうであった。 むしろ今まで起きた似たような事象の話を聴く限り 入れ換わりが発生したのはこれが初めてで 佐助はあちらで佐助と逢ったという話なのだから。 「っと。そうだ幸村」 「いかがなされた政宗殿」 政宗は手を伸ばして 呼ばれて顔を上げた幸村の口許に指で触れた。 そして掬ったものをそのまま自分の口へと運ぶ。 「ま、政宗殿っ?!」 「…旨いな。」 幸村は顔を真っ赤にし動転して あわあわと手を動かすと、その指が触れられた部分を掠った。 するとぬるりとした感触がある。 「…あ。クリームでござるか…?」 「ああ。付いてたぜ。 これ、マサムネが作ったヤツだろ? 料理の腕もなかなかみてぇじゃねぇか。 逢ってみたい、だけじゃなくいっそオレの手元に置きてぇな。 このままあっちに居ててくれねぇもんか」 かなり本気の口調で呟く政宗に 「なりませぬ!」 「駄目っ!」 「いくら政宗殿でもそれだけは…!」 三人に同時に切羽詰まったように食って掛かる。 その様子に 「JOKEだ」 政宗は嬉しそうに微笑んだ。 「それよりモトナリのところに出向くぞ。 アイツ、家にいるよな?」 「は?」 かたりと立ち上がり視線を巡らせて玄関を捜す政宗に 小十郎も倣うように椅子から腰を浮かし 「お待ちください。 …そのお姿で?」 止めに入った。 そう言われて政宗は己の格好を検める。 「鎧も兜も付けてねぇ。 刀だって佩いてねぇんだ。問題ねぇだろ?」 「その点は問題ございません。 ですが、御召し物が着物で その上その眼帯を付けておいででは 少々人目を引き、目立たれてしまわれるかと。 …そこの漫画家のせいで」 「ah? 漫画家?」 「えへへ」 小十郎の視線の先を辿り 照れたように頭に手を置いている慶次に向いているのを確認すると 政宗は得心し頷いた。 「成程な。 それでさっきの歓迎っぷりな訳か。 内容を確認してぇが兎に角移動してぇ」 「多分元就ん家にも単行本あるから大丈夫だよ」 何が大丈夫かはわからないが、 「で、そのせいで着替えねぇとなんねぇのか。 どーしたもんか」 それは確実のようだった。 両手を腰に当て嘆息する政宗に 「宜しければ」 小十郎は挙手して 「政宗様が常備なされている医療用の眼帯を。 そしてこの小十郎の服をお召しください」 そう提案した。 「アンタのじゃサイズが合わねぇだろ。 オレとしてはでけぇ服を着るのはあんまCOOLじゃねぇなと前回思った。 少しの間だ。マサムネの服、適当に借りさせて貰う」 「それが最良でござろうな」 幸村は頷く。 貌が同じなのだからこちらの政宗の服ならば 違和感無く身に纏えるだろう。 「それにしたって何でそう急いで元就の家に行きたがるのさ?」 慶次の疑問に 「久し振りに逢いてぇってのもあるが…」 政宗はにやりと嗤う。 「マサムネとまた入れ換わる事になんなら 多分オレが居る場所とになるんじゃねぇかと思ってな。 毛利の相手した後なら多分モトナリに逢いたくなるだろ。 you see?」 「…I see」 「GOOD!」 【参】             ←戦国篇→            【伍】 【2】             ←現代篇→            【6】  +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 口直し的な意味で。 政宗;ばさらが政宗;現代に逢ったら猫可愛がりしそうな勢い。 カップリング的な意味でなく。                       【20110429】