雷神参向;6

 

「アンタらすっかりいついちまってるんだな」

元就が診療時間を終え事務処理も全て済ませ
さて夕食を、と既に佐助と元親が待ち構えていた自宅に戻ると
訪問者を報せる音が鳴った。

こんな時間に自宅を訪れる知人など限られている。
そしてその内の二人は既にこの場にいた。

別行動をしていた恋人か、と元就が扉を開けると
不敵な笑みを湛えた、恋人に良く似た人物が立っていた。
後ろには見知った三人を連れて。

「………っ?!」
「…っま…」
「貴様、何故此処に居る。
否。其奴等と一緒にいながら政宗が居ないのは何故だ。
着ているのは政宗の服のようだが」

一緒に玄関口に迎えに出て来て
ぽかんと口を開け絶句する佐助と
何度も瞬きをし言葉を詰まらせる元親とは違い
元就は即座に状況を把握したようだ。

政宗は笑みのまま頷く。

「お察しの通りだモトナリ。
今回はオレがこっちに来ただけじゃねぇ。
マサムネがあっちに行っちまったみてぇでな。
アンタに報告しておく必要があるみてぇだったから寄らせて貰った。
服は勝手にで悪いが貸りてるぜ。
そこの小十郎からは許可を得てるから大目にみちゃくんねぇか」

流れるような説明に元就は眉を潜める。

「入れ換わった、とでも申すのか」
「yes。
確かめようはねぇがそう考えざるを得ねぇ状況だ。」
「目の前でいなくなってしまわれたからな」
小十郎の補足に元就はますます渋面を作る。

例え自分がその場に居たとて何も出来なかったであろうとは、
わかっていながらも。

「貴様らが報告に来たことには感謝しておく。
小十郎が共に居るのもわからなくもない。
しかし、後ろの二人は何故居る。
特に漫画家。」
手に持っているものでおおよその理由はわかるが。

「活きた資料が来たんだよ?
タイムリミットがいつなのかわかんないんだからそりゃついてくるよ!」

デジタルカメラとビデオカメラとスケッチブックは、
おそらく途中で仕事場に寄って取って来たのか。

それだけではなく、
記憶が残る二人は懐かしい政宗の傍にいたいと感じているのだろう。
一時の夢のような時間だと、わかっている分余計に。

そして背後でうずうずしている佐助が非常に鬱陶しかった。

「入れ。詳しい話を訊く必要がありそうだ」
「ったて、オレにもこうなっちまった理由なんてわかんねぇぜ?」
「そうではない。
政宗が陥ったであろう向こうの状況のだ」
「ah、成程な。
良いぜ。」
この場にいる政宗を責めるつもりではなく
向こうに行ってしまった政宗の心配をしているのだとわかり、
政宗は快く承諾した。

いくら元就の家の居間が広いとはいえ椅子の数は足りず
幸村と慶次、元親は床に直に腰を下ろした。
政宗の隣は佐助がちゃっかり確保している。

「では、毛利と長曾我部との会談の場に?」
「ああ。
ちょいと席を外して戻る途中でだったから
オレが消えて、多分こっちのマサムネが現れる瞬間は
二人に観られちゃいねぇ筈だ」
その言葉に、佐助はうーんと唸って腕と足を組む。

「政宗がどう対処するかにもよるけど…
片倉さんが一緒なら
俺様の前例も知ってるしなんとかしてくれるかな」
「いや」
政宗は首を軽く横に降った。

「小十郎は本拠地での仕事を任せたから同行してねぇ。
代わりに、他の信用出来る奴が一緒だ」
そう言うと佐助に向かい目配せをする。

「アンタも良く知ってる、な」
「…それって」

佐助や、記憶を継承している幸村と慶次から
政宗の話をさんざん聴かされていたこの場にいる全員に思い当たる節がある。
元就は無言で顔を顰める。
予想が違っていて欲しいと思いながら。

だが、

「マサムネにオレの記憶があるとなると
ややこしいことになるかもな」

その一言で確定した。

 

【伍】             ←戦国篇→            【漆】
【4】
             ←現代篇→             【8】 


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

仕方が無い事とはいえ人数が多すぎる。

                                              【20110506】