雷神参向;8

 

「佐助のヤツ、浮気してなきゃ良いけどな」

政宗の呟きに
自分の事ではないと知りつつも佐助は微妙な表情を浮かべる。
確かにこの政宗にしてみれば
もう一人の政宗はまるっきり赤の他人だろう。
逆であるなら記憶がある分
他人とも本人とも言い切れない曖昧な線引きになるが。

だが佐助には妙な確信があった。

「あっちの佐助さんも
政宗には惚れてても政宗に対して恋愛感情は抱かないんじゃないかな」
「なんだよそのややこしい言い方。
なんとなくはわかるけどよ」
信じきれない政宗に佐助はにっこりと笑顔を向ける。
「俺様もあんたには惚れてるけど政宗には恋愛感情抱いてないし。
あの子はあの子で可愛いけどね」

その言葉は今でも想っていると改めて告白しているようなもので。

「諦めの悪い奴め」
「恋人のいるヤツを口説いたりしてあんまり困らせるなよ?」
元就は嘆息し元親は呆れる。
佐助は苦笑いを返した。

「そうそう簡単に割り切れたら俺様も苦労はしないんだけどねー」
「ah、成程な。
顔は同じでもオレがアンタと付き合おうとは思わねぇってのと同じか」
政宗は得心して頷き、
「そうなんだけど、
なんかすっごくバッサリ斬り捨てられた!」
佐助はがっくりと項垂れた。
「随分キッパリフラれたもんだね」
慶次はからからと笑う。
政宗の一途さが微笑ましい。

「そうでござるな。
あちらの佐助ならば
あの政宗殿には庇護欲はそそられようとも欲情はしないかと」
平然とそんな事を言う幸村に政宗は瞠目した。
「真田幸村とは思えねぇ台詞だな」
「某もいろいろありました故」

「それより政宗公。着替えられては」
小十郎に促され、政宗は
「そうだな。
いつまた入れ換わるかわかんねぇし
このまま戻るわけにゃ行かねぇ」
着て来た着物を入れた箱を受け取る。
「モトナリ。適当に部屋を借りるぜ」
「好きにするが良い」

政宗が着替えるために姿を消し
元就は
「兜を返す良い機会かもな」
と呟いた。
「けど政宗が天下を治めたなら
使う機会はもうねぇんじゃねぇか?
貰っといたままでも構わなさそうだが」
元親の言葉に幸村は「しかし」と首を傾げる。
「その後も某と手合わせをして下さいましたぞ」
「……それは」
「何て言うか」
「政宗らしいよねぇ」
う~むと腕を組む小十郎とぽりぽりと頬を掻く佐助に
慶次はあははと笑った。

戻って来たらモデルを頼もう、とクロッキー帳を広げ用意する慶次に
幸村は
「ビデオは使わないのでござるか?」
と尋ねた。
持ってきていたのに鞄にしまってしまっている。
「あんまりこっちの世界に政宗の名残遺しても、ね」
動画まで撮るのはなんとなく違うような気がして、と
寂寥を滲ませる慶次に
「…左様でござるな」
幸村も同意した。
神の気まぐれか、今たまたま交わってはいるが
住む世界が違う。
彼が還った後に面影を追っても淋しさが募るばかりだろう。
静止画程度に止めるのが無難かも知れない。
こちらの世界にはちゃんと別の政宗が居るのだから。

幸村はふっと表情を翳らせた。

「幸村?」
「どちらの政宗殿も愛しく想う某は浮気者なのでござろうか」
他には聴こえないように小声で心情を吐露する幸村に
慶次はそれに対する答を本気で考える。

「幸村の立場からしたら仕方ないと思うけどな。
実際俺も二人の政宗が別人だってわかってるのに
似たような接し方しか出来ないよ。
本質が同じ気がするからさ」
「うむ。
某がどちらの政宗殿とも恋仲でないのは幸いでござるな」
生真面目に頷く幸村に慶次は呆れる。
「哀しいこと言うなって。」
「否。某は己の立場に満足しておるのだ。
前の世では宿敵として、
この世では級友として近くに居られることに」
「…確かにそう考えると美味しいポジションだよね」
「片倉殿…小十郎殿には敵いませぬがな」
「俺は幸村の方が羨ましいけどね。気苦労がなさそうな分」

二人は視線を合わせるとふっと笑い合った。

「しかし、
どちらの佐助も今こちらに来ている政宗殿に懸想していると言うことは…」
「…あっちに行ってる政宗を毛利の兄さんが惚れちまう可能性もある、
かもね」

あの毛利がまさかそんな、と思いながら、
不安は拭いきれなかった。



 【漆】             ←戦国篇→             【玖】
 【6】             ←現代篇→             【10】  +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

人が多い…小十郎ぐらいは置いてくればよかった。

慶次は慶次で傍観者の立場が気に入ってるようですよ。

                                【20110602】