雷神参向;10


「モトナリ。
庭を借りるぜ」
「何をする…かは訊かずとも明白か」

政宗は先刻まで慶次の描いた漫画を読んでいたのだが
話が進み戦う場面が増えるにつれ
その表情はだんだんと険しくなっていった。

「Hey風来坊! 技の描写が微妙すぎるだろ!」
「ったって仕方ないじゃん
戦ってるとこを最後に視たの何年も前なんだから。
それに俺は政宗の技全部観たことある訳じゃないし。
幸村とかこっちの政宗に聴いて描くしかなくてさ」

政宗に至っては図解もしてくれたのだが
やはり観ていなくては演出しづらいというのが本音だ。
自分が考え出した技ならば好き勝手描けるが
実際にある技ならばなるべく忠実に再現したいというのが本音である。

慶次が政宗を主人公として漫画を描いているその目的は
もう一つの戦国時代の物語を遺したいから、に他ならない。
他の誰も彼もに虚構世界に観えたとしても
筆を取っている自分自身が事実に基づいたものだと知っている限りは
なるべく嘘をまじえたくなかった。

「なら見本を魅せてやる。
生憎景秀は持ってきてねぇが、素手でも少しは雰囲気はわかるだろ。
適当な棒でも良いんだが」
ちらり、と家主に視線を向けるが
「この家に似たような形の棒を六本もなど置いておらぬわ」
箸にも棒にも引っ掛からない答えに
「だよな」
政宗は頷く。

そこに、
「武器ならあるぜ」
との声が上がった。

「…ぱーどぅん?」
政宗はゆっくりと声の主の方へと顔を向け、首を傾げる。
目が合うと、元親はにっかりと笑顔を浮かべた。

「あんたが前来たときに持ってたヤツを真似て作ってみたんだ。六本。
さすがにレプリカだがな」
本物よりは大分軽いし気休め程度にしかなんねぇだろうが、
との説明に、
「いやいや充分でしょ。
チカさんが作ったんならクオリティも申し分無いだろうし」
腕の良さを知る佐助は「謙遜なんてらしくないって」と手を振った。

元親の手による防具を身につけたことのある政宗もその技術の高さは知っていた。

元就は「だが」と眉を潜める。
「貴様の家にあるのならば取りに戻るには」
「いや。政宗が遺してった鎧兜の傍に置いといた」
「貴様いつの間に?!」
「いややっぱ一式セットで置いておきてぇだろ」
「どういう理屈だ…」

らしくなく声を荒げてしまった元就は、
こほん、と咳払いをして気を落ち着かせる。
「だがむしろ都合は良い、か。
ついでだ。鎧と兜も着るがよかろう」
「あっ。それいいね~」
慶次は喜んだが、佐助は
「でもそれじゃそれ着たまま帰ることになんない?」
と消極的だ。
いつまた入れ換わるとも限らない。

「構わないではないか。
こうして再び逢えた。
そしてこちらには政宗がいる。形のある想い出は必要ないと思うが」
「そうだな。
この世界にゃこの世界の伊達政宗が居てマサムネがいるなら
オレの名残はむしろない方がいいと思うぜ」
「政宗殿…」

記憶のある幸村は一瞬顔を歪めた。
だが直ぐに笑顔になってこくんと頷く。

「左様でござるな。
では政宗殿が準備を調えている間
某はお相手するための槍の代わりを探す事にいたそう」
何故か幸村の中では政宗の相手をするのは決定項になっているらしい。
政宗としても独りで技を繰り出すよりその方が都合がいいのは確かだ。
「アンタは素手でも充分そうだが…
まあこっちが武装してんのにそれじゃまずいか」
政宗は言いながら、
それにこの幸村は鍛えに鍛えていた戦国時代の彼とは別なのだと思い出した。

「…ま、模擬戦だ。
型だけだから適当なモンで構わねぇよ」
「こうなるってわかってりゃあ幸村の槍とやらも作っといたんだがなあ」
元親は申し訳なさそうな表情でがりがりと頭を掻く。
「確かにこうなるとわかる手段があれば有り難くはあったが」
元就は仕方がない、と幸村が使うための槍代わりの棒を捜すことにした。

着替えて万全の姿の政宗と、
私服のまま赤い鉢巻きを頭に結び両手に洗濯物を干すための棒を持った幸村は
元就の家の庭で対峙した。

「で? どう動けば良いんだ?」
刀を一本だけ構え、政宗はクロッキー帳を広げている慶次に問う。
目的は慶次に政宗の動きをわからせるためだ。
技の名前は先に全部教えておいた。幸村も同様に。
「適当に打ち合ってくれて良いよ」
「そうか。」

ふいっと視線を向けると幸村はふっと微笑んだ。

その笑顔は政宗や慶次には見覚えのあるものだったが
この時代で知り合った者達は初めて観る、
好戦的なものだった。

 【玖】             ←戦国篇→             【拾壱】
 【10】             ←現代篇           

 
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 お、おひさしぶ…申し訳なし!(待ってたかもしれない人に土下座)

あと一話+エピローグで終わるんじゃないかなあ。

                              【20110808】